東京・大阪以外の全国37社の民放AMラジオ局が加盟し、共同で番組制作に取り組んでいる地方民間放送共同制作協議会(火曜会)が10月17、18日に都内で第56回研修会を開催した。「ラジオの歩き方~挑め、自分史上最強ラジオ~」をテーマに23社26人が参加。トークセッションや講演、ワークショップを通じて番組制作にまつわるアイデアの種の育て方や録音技術などを学んだ。
ローカル局の成功事例を紹介
1日目は、銀座ブロッサムを会場に、トークセッションを開催。ベイエフエムの西宮博基氏、琉球放送の飯島將太氏、大阪放送の伊東紀子氏が順に登壇、コラムニストのやきそばかおる氏が進行を務めた。
はじめに2022年4月からスタートした平日のワイド番組『シン・ラジオ -ヒューマニスタは、かく語りき-』でプロデューサーを務める西宮氏が、「サイレントリスナーへのコミットとして聴くだけで楽しい番組、"看板"を掲げて『この番組なら聴こう』と思わせる」などをポイントに挙げ、同番組を立ち上げた経緯や狙いを説明。「以前のタイムテーブルでは定着していなかった人に向けた"攻めた枠"」と話した。そのうえで、「AMラジオでは出演者が自由にしゃべっている一方、FMラジオには型があると常々思っており、逆張りをした」と語った。
<ベイエフエムの西宮博基氏>
次に、飯島氏が『ラジオの神回テレビで語る』(民放online「制作ノート」への寄稿はこちら)について話した。「テレビでラジオ番組を取り上げることで、扱った番組は一定数の新規リスナーを獲得できている。フォーマットをまねたら、ラジオ単営局でもYouTubeでラジオを語ることもできる」として番組の"作り方レシピ"を説明。取り上げるネタの募集から、週ごとのテーマ決め、音源の選定と放送に至るまでの制作の流れを時系列に沿って解説した。その中で飯島氏は「1番強いエピソードを毎月4週目に持ってきている」と明かした。
<琉球放送の飯島將太氏>
続いて伊東氏が、「V-Station」として声優アニメ・ゲーム番組ゾーンを土日に設けている同社の取り組みを紹介。番組の展開はradiko以外に、配信プラットフォームで地上波の内容は無料、おまけのトークは有料の会員制としているほか、番組単位でのイベント実施だけでなく、コミックマーケットなどにも出展し、周知とマネタイズを図っていると説明した。グッズ展開では、出演者がロケを行って収録したDVDやCDの販売のほかバスツアーなどの事例も。「出演者とスタッフで何をやりたいのか話し合っているからこそ、長く続いている」と話した。
<大阪放送の伊東紀子氏>
その後のトークセッションでは、やきそば氏が3氏にそれぞれ質問を投げかけた。AM色の強いトーク番組を始めることについて四宮氏は「反発はなかった。この番組なら新しい人が入ってくるだろうという雰囲気だった」と回答。飯島氏は"下ネタ"に触れた回の話を求められると「ラジオ番組自体の良さを消さないために、出演者とリスナーの関係性についての背景を説明することや、『番組の特性上、不快と思う人もいるかもしれませんが、それがOKな人は見てください』とお知らせをした」と説明した。マネタイズについて伊東氏は、「イベントの開催やグッズ制作のスケジュールを先に固めている」と話し、プラスの収支に見通しを立てたうえで「番組を制作している」と語った。
<コラムニストのやきそばかおる氏>
また、参加者に向けて3氏は「お金をかけているから良い番組ができるということではない。こういう企画をやりたいと熱量で出演者を引き込む」(西宮氏)、「BtoBを成立させたうえで、BtoCへの意識も持ち、お金を払いたくなるような強いコンテンツが求められる」(飯島氏)、「データでは測れない思いは出演者やリスナーにも伝わる。こういうものをやりたいという思いが重要」(伊東氏)とメッセージを送った。
石井玄氏がアドバイス
2日目は文化放送メディアホールで行った。午前はラジオプロデューサーの石井玄氏が「聴く、話す、つながる~アイデア実現の手がかりを掴む~」と題して講演。参加者から事前に寄せられた困っていることや悩みに回答する形式で進行した。
スポンサーの人など、"プロの喋り手"ではない人が出演する番組を、ディレクターとしてどう盛り上げたらよいかという悩みに対し石井氏は「ディレクターは第一のリスナーである。リスナー目線を持ち、自分が面白い内容にすることが重要だ」と回答。また、石井氏自身が番組作りで考えていることとして、「パーソナリティの短所を出さずに、どう長所を伸ばすか」と語り、「初回放送後にどこが面白かったかを書き出し、番組の構成を調整している」と明かした。石井氏が担当していた『オードリーのオールナイトニッポン』を例に挙げ、最初はオープニングトークの時間は10分ほどで音楽をかけていたが、オープニングトークが面白いということで、その時間が伸びたと紹介、「最初に決めたフォーマットにとらわれず、少しずつ変えていった方がよい」と話した。
<ラジオプロデューサーの石井玄氏>
番組やイベント資金の作り方を問われると、「面白い企画をどう売るか営業の担当者と話すことや、スポンサーから逆算して企画を考える」とアドバイス。イベントについては「規模にもよるが資金がなくても『売れる』と言ってやるもの」としたうえで、「リスクヘッジとして、先行してグッズを販売し、そこでの販売数から参加者を計算している」と語った。
最後に、「ちょっとした成果を励みやモチベーションにつなげられるとよい。東京ドームでのイベントを担当したと言われるが、10分番組のディレクターから始まっている。そうした初めての時に感じた気持ちを大切にすること重要だ」と締めくくった。
地域の魅力を発信するミニ番組を発表
午後は、地域の魅力を発信するミニ番組のワークショップを行った。各参加者から地元のバスケットボールチームにフォーカスし、歓声を交えた試合ダイジェストや塩田に海水をまき窯で炊く製塩の工程、さまざまな言語が飛び交い活気あふれる市場の様子など、参加者が録音してきた自社エリアならではの音にその場でナレーションをつけて発表した。文化放送・技術システム部長の上原裕司氏と、㈱地球の歩き方・社長の新井邦弘氏を審査員に迎え、コラムニストのやきそばかおる氏が司会を務めた。
参加者の発表を受けて、「食べ物を扱う際、味の話は当たり前になり、聞き手にとってインパクトを感じない。店構えの情景や食べ方にフォーカスされていたのがよかった」(新井氏)、「人の声のようにピンポイントで録音したい場合は指向性のあるマイク、滝のように全体の音なら無指向のマイクと、状況に応じて選ぶとよい」(上原氏)と講評やアドバイスを行った。
発表の途中にはそば、うどん、とろろ汁と"すする音"が入った番組が3回連続する場面も。愛知県にある磁気浮上式リニアモーターカー(リニモ)を取り上げた番組では、地下鉄の音を入れることで、リニモの走行音の静かさを表現したほか、"パタパタ"と音を立てて、行き先や到着・出発時刻を知らせる空港の「反転フラップ式案内表示機」に着目した番組など、多彩な番組が並んだ。
<地球の歩き方の新井邦弘氏㊧と文化放送の上原裕司氏㊨>
最後に総括として「クリエイティブの仕事は、会社のお金で作りたいものを作れ、給料ももらえる。良いアウトプットをするために、インプットをどれだけできるか。量・質ともに感受性をどれだけ磨けるかになる。そして、アウトプットの先には、リスナーの感動につながる。その要にいるという職業人としての幸せを感じながら日々頑張ってほしい」(新井氏)、「ラジオは音だけで聴かせるので、聴いた人がわかる音を録音できるかが重要になる。フォーカスを当てた音を一つ一つ丁寧に録った番組を作れるとよい」(上原氏)とそれぞれメッセージを送った。