英BBC会長 ネットのみの公共放送サービス構想を語る

編集広報部

2022年春に英BBCのデジタル事業を強化する新戦略「デジタル・ファースト」を打ち出したティム・デイビー会長は、12月7日、王立テレビ協会で講演を行い、デジタル化への移行をさらに加速し、世界初の「デジタル公共放送サービス」を作り上げると述べ、この実現に向けて、大手コンテンツプラットフォーマーへの規制の早期実施を政府に求めた。

講演会は、放送関係者にとって最も権威のある集まり「王室テレビ協会」で「イギリスをどのようにデジタル時代に導くか」というテーマで開催された。BBC会長は、講演の中で、放送サービスを統合することによるオンラインのみのBBCサービスの実現にも言及し、大きく注目されている。

講演は、BBCと大手民放の、いわゆる「公共放送サービス(PSB)」を中核に成長してきたイギリスのテレビ(動画)産業を、今後いかに発展させるかという問いに対し、デイビー氏なりの答えを示した形となっている。同氏は、「テレビ離れ」が進むなか、ネットフリックスなどのアメリカの大手コンテンツプラットフォーマーに視聴シェアを奪われていると危機感を表明。こうした大手は、オンラインのみのサービスだが、イギリスのPSBは放送とネットの両方に投資をしていることから、最も必要なデジタル投資で大きく差を付けられていると訴えた。

この文脈の中で、放送局が身軽になる方策として、同氏は公共サービスのプラットフォームを、早期にネットのみに切り替えることを望んでいるようだ。会場の聴衆に向かって、「テレビやラジオがなくなり、ネットだけの世界を想像してみてほしい。そこにはありとあらゆる選択肢がある。衰退どころか、(BBCは)このインタラクティブなデジタル環境の力を利用して、より公共価値を高め、英国のメディア市場を活性化させることができるのでは?」と、呼びかけた。そして、ネットのみの「公共(放送)サービス」を成功裡に実現させれば、それは世界初となると述べ、英国のメディアパワーを世界に示すチャンスを生かすため、BBCへの投資と、関連規制の早期実現を求めた。同氏が求めたのは大手コンテンツプラットフォーマー対策や放送局への支援策で、デジタル市場法、オンライン安全法、データ保護・デジタル情報法、メディア法を例示していた。ネットフリックスなど大手各社に席巻されないよう時間稼ぎをしながら、イギリスのPSBをオールデジタルにけん引したい考えのようだ。

同氏は、BBCの放送免許が更新される2028年以降の近未来を見据え、ネットに移行したサービス(同氏はIP BBCと呼ぶ)についても雄弁だった。動画・オーディオサービスや、情報(ニュース)に加え、教育コンテンツが1つのアプリで提供されるそうだ。一方、質疑応答では、「リニア放送のようなサービスは、オンラインのみになっても続く」とも語っており、未来像はまだクリアでない。

BBCの財源モデルの見直しについては、「オープンだ」と言いつつも、これまでの「あまねくサービス」にこだわり、報道の独立性は譲れないとしている。停波できるかはブロードバンドの普及や、国民が放送に代わるサービスを受けるための負担(接続料金+新財政モデル)のあり方などに左右される。同氏が「あまねくサービス」にこだわれば、ゴール地点は、当然ながら遠ざかる格好だ。

実のところ、デイビー氏の構想を阻む最大の壁は、資金不足だ。演説から1週間後に、同国の国家会計検査院(NAO)が報告書を出し、デイビー氏の構想を実現するには、BBCにはリソースが足りないと警告した。NAOは、BBCがデジタル化に使える予算は、201819年の1900万ポンドから、202122年には実質9,800万ポンドに減少したと指摘している。NAOの報告が出る直前(129日)、BBCは大物投資家デイモン・バフィーニ卿を理事会の副理事長に迎え入れた。商業部門のテコ入れを担うとのことで、バフィーニ氏は「ギアチェンジが必要だ」と、早くもFOXテレビグループ、ワーナーブラザーズTVプロダクションUKの元CEOITV plcの元CFOBBCに迎え入れている。NAOBBCの路線を基本的に支持していることから、報告書はBBCのライセンス料(受信料)の凍結を命じ、資金不足の要因を生み出した保守政権の責任も問うている。その意味で、スナク新政権のメディア行政も今後の注目点となる。

最新記事