スイス政府、公共放送の受信料削減を提案 背景に大幅な値下げ求める国民発議

編集広報部
スイス政府、公共放送の受信料削減を提案 背景に大幅な値下げ求める国民発議

スイス連邦政府は11月8日、同国の公共放送「スイス放送協会」(SRG SSR/以下、SRG)の受信料をおよそ1割削減する方針を発表した。また、現行の放送免許を2024年から28年末まで4年間延長し、この期間中に2段階に分けて受信料を年間335スイスフラン(CHF/約5万6,000円)から300CHFにまで引き下げるという。事業所に対する一律徴収についても、支払い免除の対象枠を年間収入50万CHF未満から120万CHF未満に広げ、事業所の8割を支払い免除とする計画だ。

スイスでは19年に受信料の支払いがそれまでの受信機所有世帯から、受信機の有無にかかわらず全世帯一律徴収の新制度に移行した。ただし、国民への一律負担増を勘案して大幅な料金カット(−25%)が実施されている。今回の政府提言が実現すれば受信料は29年から300CHFとなり、10年間で徴収方法変更前(451.1CHF)から3割以上引き下げられることになる。

政府がさらなる削減を求める背景には公共放送の受信料(現行)の4割削減などを求める国民主導の動きがある。「受信料は200CHFで十分だ!」とするイニシアティブ(国民発議)の署名活動が今年8月に有効規定とされる10万署名に達し、26年6月までに国民投票が行われることになった。政府の試算によると、国民発議が可決されると受信料の年間徴収総額が12億5,000万CHFから半分近い約6億5,000万CHFにまで下がる。

発議が求める予算の大幅カットが実施されると、政府としては4カ国語放送(ドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語)を実施しているSRGの放送体制を支えられないとして、今回の受信料削減を提案したのである。メディア行政を掌握する環境・運輸・エネルギー・通信省のレスティ大臣は記者会見で「SRGの組織改革は必至」としながらも、「政府の段階的アプローチは、必要な経費の削減措置を自己裁量で実施するための適切な経過期間をSRGに与えることができる」と語った。

連邦政府の意向を受け、連邦通信庁(OFCOM) は法案についてのヒアリングを開始した。来年2月1日までメディア関係業界のみならず自治体や経済団体、消費者団体などからも幅広く意見を集め、夏休みの前までには、国民発議に対する意見書とともに放送法の改正案を連邦議会に提出し、受信料削減案の早期採択を目指すという。

実は、発議への反対を表明したレスティ通信相は現ポストに任命される前は国民発議の署名活動に参加していた。国民議会の最大与党である国民党(右派)の議員らが後ろ盾になっていることから、今回の政府の「控えめな」受信料値下げ案がそのまま受け入れられるかどうかは不透明で、削減額がさらに増える可能性もゼロではない。政府案どおり減額された場合、年間1億7,000万CHFの減収となる。これは、財源の4分の3を受信料で賄っているSRGにとって大きな痛手だ。通信相は「大幅な人員削減は避けられないだろう」と述べたが、経費をどのように削減するかはSRGの裁量にまかせるとしている。

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