毎回一人の外国人ゲストが登場し、仕事やライフスタイル、住んでいる地元を紹介。そこには外国人から見た「私たちの知らなかった」日本の魅力が見えてくる......というコンセプトで、2016年4月にスタートした当番組は、7年近くで約70カ国から260人ほどのゲストを迎えてきた。番組に参加してくれたゲストの数だけ、この島国に住む動機があり、中には国際恋愛の末や人生のふとした偶然で根を下ろす運命になった人もいる。「落語に目覚めたスウェーデン人」「弓道をやりたくて来たのに鍼灸師になったドイツ人」「昭和にハマりすぎたイエメン人」......こうして挙げていくだけでも、「How strange life is!」人生って不思議だなあと思えてくる。
この番組がちまたによくある外国人参加型バラエティと一味違うのは、毎回のエピソードを「日本っていいよね」「ニッポンばんざい!」というような自画自賛にまとめるのでなく、時に「親切で優しい」「おもてなし」の国ではない"日本の顔"も率直に映し出す点。そして、ハッピーに暮らしている外国人もそうでもない人も......「つまらない人生なんて一つもない!」という、シンプルであり 国境や国籍を越え共感できる想いを描き出している点。日本のよいところも足りないところも受け止めたうえで、外国人に芽生えた「日本へのまなざし」が、われわれ日本人が忘れている大切なことに気づかせてくれる。
印象的だったのは「日本人の当たり前」は「当たり前ではない!」ということ。西アフリカのブルキナファソから移り住んだ男性は「蛇口をひねったら水が出てくる」ことに驚き感動し、公園の水場で毎日ありがたく喉を潤す。戦乱の中、親友を失ったアフガニスタン人男性は「女性たちが安全に道を歩いている」東京の日常の光景に"平和"を噛みしめる。「新しいニッポン」が見えてくる一方で失ってしまうと、もう取り戻せないかもしれない多くのことを外国人たちが教えてくれる。
予定調和の徹底排除で"人間臭さ"追求
番組はMC高橋克典さんとテレビ東京の繁田美貴アナウンサーが外国人ゲストを迎え、生い立ちや日本を知るきっかけを聞きながら進行。要所でゲストの日本での暮らしぶりや「日本のココが面白い!」というこだわりなどをVTRで紹介するが、これがゲストにとっての「日本への思い」「日本で生きる想い」を切り取ってみせる生命線であり、毎回のエピソードの印象を左右する重要なパート。制作スタッフは徹底して「予定調和」を排除し、むしろ「予想どおりでない」「なぜそこに興味があるの?」というところにある"人間臭さ"を追求する。リアリティのある方を深掘りし面白くする! という熱がハンパではない。そのエピソードを生かすためには追撮、編集の大幅直しも何度でも行う。
番組の持ち味のもう一つは「見守り番組」であるということ。一度出演いただいた外国人ゲストとは放送後も繋がっている。何か生活に変化があれば、特別編を企画して再登場いただくことも。例えば新潟関川村のアメリカ人ママ一家を最初に取材したのは2016年。毎年のように取材するうち、出産を経て5人の子を持つ大家族になった。昨年2月にウクライナ出身の伝統楽器奏者カテリーナさんを取材した際は、偶然にもその過程でロシアによる軍事侵攻が勃発。キーウで一人暮らしをしていた母親が日本へ逃れて来るまでをドキュメントし、その後も時間をかけて母娘との関係を築き、日本で母親が心の傷を癒していく様子を繰り返し伝えた。
自分自身は番組3代目のプロデューサーだが、7年近く続いているとその間に出演した方が子どもや孫に恵まれたり、結婚や離婚があったり、この世を旅立つ人がいたり......。日本人、外国人に関係なく、訪れる人生の一幕は同じ。出会いや別れを描きつつ、「日本に来てくれてありがとう」という制作スタッフの思いは共通している。
外国人と視聴者の交流の場も
いま、世界は混沌とし 分断化が進み、平和な暮らしは遠のいているように思える。それでも海を越え、身一つで遠いこの島国を目指す人は後を絶たない。「ワタシ」だけの「住む理由」を胸に。「何気ない日常を楽しむことができ、自分なりの慈しむ風景と出会えたら、世界はきっと彩りを増して応えてくれる」――訪れる一人ひとりの生き方が、そう語りかけてくるように感じる。そんな思いをこれからも伝えていきたい。
番組から派生した試みとしては、これまでに"日本で才能を開花させた外国人"によるワークショップを開催。漢字検定1級を持つアメリカ人や着物の着付けを教えるイギリス人女性と、番組視聴者を生配信でつないだりした。ほかにも日本酒や万年筆づくりなど特技を持つ人が多いので、番組のファンと外国人をつなぐ交流の場として配信やイベントなどを仕かけ、広げていきたい。
BSは地上波と配信の中間あたり
2000年にスタートしたBS放送。当初は地上波と比べて「認知度が低い」「あまり見てもらえない」などのイメージがつきまとっていた。しかし、スタートから20数年を経たいま、配信やネット動画の台頭で地上波が勢いを失う一方で、BSは全国をエリアカバーし、一点突破のワンコンセプト企画が支持されることから、地上波と配信コンテンツの中間あたりに存在の場を得ているように思われる。若年層のテレビ離れによってテレビ自体が「マスメディアの雄」ではなくなり、視聴者の中心が高齢層にシフトしているところが、当社の勝機にもつながると思う。コアファンのニーズと傾向から視聴者像を読み取り、まずは少数でも「毎回繰り返し見てくれる層」を開拓。そのためには余計なバラエティ色にまみれた企画より、ワンコンセプトに特化された番組の方が息長く続いていくと思う。
視聴率は当社番組の中では好調で、視聴習慣も根づいてきたように思う。「再放送希望」「今夜のゲストは?」のほか、「こんな素敵な外国人が近所にいるのでぜひ取材してほしい」との要望も多い。最近は「この番組にずっと出たいと思っていました」と言う出演者も増え、さらに出演者つながりで友人が後に出演してくれたりと、よき連鎖状態も起きている。
番組中、視聴率が下がらないコーナーがある。それは終盤の「ワタシの好きな風景」。映画の曲に乗せ、ゲストの幼少期から現在までの写真が走馬灯のように浮かび、彼らにとって日本の「好きな風景」の映像が挿入される。この島国で生きることを選び生きてきて、いま人々が気づかず通り過ぎてしまうような風景を特別な想いで眺める一人の外国人。その眼差しを通して「日本」を見るとき、胸に浮かぶものは......派手さはなくても、そこには人生のささやかなきらめきがある。これから番組と出あう方々にも、そのきらめきを感じ取っていただければ幸いです。