美術・CGが担う役割とは 報道ステーションの企画展に行ってみた

編集広報部
美術・CGが担う役割とは 報道ステーションの企画展に行ってみた

落ち着いた照明、ブーメランのようなテーブルを囲むキャスターや解説者――テレビ朝日系「報道ステーション」(月―金、2154―2310)というと、そんなスタジオセットをイメージする人も少なくないのではないだろうか。では、そこにはどんなこだわりがあるのか......

2月25日から4月10日、放送番組センターが運営する横浜市の放送ライブラリーで開催された企画展「報道STATION 伝えるチカラ 震災から11年~現代を映す美術的アプローチ」を訪れた。

東日本大震災発生から11年を迎えるにあたり、「報道ステーション」が報道番組として果たしてきた使命と向き合い、美術・CGチームが行ってきた震災報道へのアプローチを中心に紹介したものだ。会場では、AR(拡張現実)による原子炉内部の再現、スタジオセットの全容、スポーツコーナーに登場した人形やオブジェの展示などを体感できた。

まず初めに見たのは、東京電力福島第一原子力発電所の原子炉内部の大型模型に関する展示。2021312日の放送でスタジオに登場したもので、この企画展のきっかけにもなった。

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<スタジオに建てられた原子炉内部の大型模型>

原発事故を改めて振り返るべく、資料集めからデザイン、発注と、この模型の製作にはおよそ20日間が費やされたという。さまざまな資料をもとに基本的な構造から内部の様子を徹底的に調べ、スタジオの広さや高さの制限を考慮しながら設計したのだそうだ。放送で使うのは1回だけ、そのためにこれほどのプロセスを踏み、手間をかけていることに驚いた。

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<大型模型に関するパネル展示>

少し進むと、AR(拡張現実)で再現した原子炉内部の全容を、上から下までタブレットで見ることもできた。

このほか、テレビ朝日報道局が震災直後から行っている、被災地の風景の変化を同じ場所、アングルから撮影する「定点撮影」の映像を記録している特集ウェブサイト「●REC from 311~復興の現在地」もパネルや映像で紹介していた。

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<ARで見られる原子炉内部の様子>

「報道ステーション」のスタジオセットにちなんだコーナーでは、セットを実物大で再現した写真パネルが圧巻。番組に登場するオーダーメイドの椅子や使用されている素材などの数々......。

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<スタジオセットを再現>

セットの柱には電飾が仕込まれて、柔らかく温かみのある光が和紙を通じて感じられる。この和紙、すべて番組のために特別な指定色で色づけられたもの。中に仕込んだ電飾の光が効果的に反射して内部を照らすよう、裏ブタにはゴールドの壁紙が貼られていた。

現在のスタジオセットは4代目。「多様性」や「人の温かみ」が感じられるよう細部までこだわっていることがわかった。

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<セットの柱には和紙が使われている>

このほか、歴代セットの縮小版模型や図面、番組オープニングのCG、歴代ポスターの展示も。「アナログ感」を大切にしてきたという同番組。これが番組のブランディングにもつながっているようだ。

2019年の参院選速報の際に使われた政治家の3DCGキャラによる出口予想の映像や、大谷翔平選手の活躍を伝えるために作られた人形模型、メジャーリーグのホームラン王争いを伝えた山のオブジェからは、番組スタッフの遊び心も伝わってくる。

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<ホームラン王争いを伝えた山のオブジェ>

会場を案内いただいたテレビ朝日の村竹良二・技術局コーポレートデザインセンター長は、「報道ステーション」の美術・CGも担当されている。

――来場者に美術・CGに触れてもらう意義は?

皆さんの感想を、今後のセットづくりに活かせると思っています。普段見せることのできないテレビの裏側を、テレビを目指す若い方にも知ってもらい、興味を持ってほしいですね。放送業界を目指す若者が減り、制作能力が下がってしまうと、海外のコンテンツに負けてしまうかもしれません。美術やCGを学んでいる若者に放送業界に興味を持ってもらうきっかけになれば......。

――東日本大震災などでは‶風化″も懸念されますが、美術やCGの観点からどのように取り組んでいきますか?

分からなかったことが分かってきたときに、それをいかに正確に伝えるか。震災から月日が経つことで分かってくる事実があります。それをCGや模型を用いることでどう伝えていくかを心がけています。

――「報道ステーション」を見るとき美術やCGのどこに注目すれば面白いでしょうか?

普段の放送では、美術はあまり見なくていいです(笑)。美術は表に出てはいけない世界といわれていますからね。キャスターが情報を伝える際、美術が〝邪魔をしないように心がけています。あくまでも美術を用いることで伝わりやすくなる、そういう役割を意識しています。

ただ、映像に使用する文字のフォントはテレビ局によってルールが違ったりしますから、そんなことを意識してもらうと面白いかもしれません。「報道ステーション」では、スタジオに置く生花をシーズンによって変えています。これには、ぜひ注目してほしいですね。

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<お話を伺った村竹良二・技術局コーポレートデザインセンター長>

放送ライブラリーによると、同展示には開催期間中、延べ3,111人が訪れたという。村竹さんによるセット解説ツアーも何度か行われ、満員になるなど好評だった。来場者からは「長年見ている番組のセットを楽しむことができた」「デザインの勉強になった」「来週からこれまでとは違う角度でニュースが見られそう」などといった感想も寄せられたそうだ。

放送ライブラリーでは、放送に関わるさまざまな催事を随時行っている。詳しくは公式ウェブサイトにて。

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