字幕付きCM、全国で受け入れ始まる ~ロードマップと普及推進の取り組み

徳永 洋希
字幕付きCM、全国で受け入れ始まる ~ロードマップと普及推進の取り組み

字幕付きCMとは、テレビCMの音声を文字化して、クローズド・キャプション方式で画面に字幕が表示されるCMのことです(操作方法は機種によって違います)。特に聴覚に障害のある方々へCMの情報を伝えるために有効な手段の1つです。

字幕付きCM普及推進協議会(字幕CM協議会、民放連・日本アドバタイザーズ協会・日本広告業協会で構成)は昨年9月、字幕付きCMの普及推進に向けたロードマップ(ロードマップ)を公表。今年10月、いよいよ全国のタイム枠で字幕付きCMの受け入れを開始しました。この機会に、あらためて字幕付きCMの普及推進の取り組みについて、ご紹介したいと思います。

字幕付きCM普及推進協議会の設立

日本アドバタイザーズ協会・日本広告業協会・民放連の3団体は2014年 、「聴覚障害者の情報アクセシビリティ向上のため、字幕付きCMの普及を図ること」を目的に、字幕CM協議会を設立しました。字幕付きCMへの取り組みは、TBSテレビ系列28局で放送されたドラマ「ハンチョウ」で、パナソニックが初めて放送した2010年まで遡りますが、これ以降は3団体が連携して、字幕付きCMへのニーズの把握や広告に関わる方々の理解の向上を図りつつ、字幕付きCMをトライアル(実験的な取り組み)として放送してきました。民放事業者にとってCMは事業の根幹ですので、常に安全かつ確実な運行が求められます。そのため、在京キー局5社を中心としたトライアルを通じて、安全運行レベルの向上、システム改修や運用体制の確立に取り組んできました。また、民放テレビ各社では必要な放送設備や機器の導入を進めました。この間、CM字幕の制作が可能なポストプロダクションも増えました。しかしながら、トライアルという位置付けだったこともあり、字幕付きCMはなかなか増えませんでした。

ロードマップの策定

字幕CM協議会の第6期(2019年10月~20年12月)幹事団体を務めた日本アドバタイザーズ協会は、トライアルから一歩踏み出すため、あらためて普及阻害要因を分析しました。そして、字幕付きCMを放送できる放送枠を増やすことがブレークスルーポイントになると見定め、その実現のため次の点に着目しました。1つは字幕付きCMを制作していない広告主への配慮です。複数社が提供する番組では字幕のあるCMとないCMが混在するため、あらかじめ広告主への調整が必要でした。もう1つは、万が一字幕に不具合があった場合の対応です。

これに対し、日本アドバタイザーズ協会は、①複数社提供枠のなかで字幕付きCM素材と付いていないCM素材が混在しても、広告主はクレームを付けない、②CM本編の映像や音声がきちんと放送されたのであれば、万が一字幕が前後のCMに被るなどの不具合があっても広告主は問題とみなさず補償を求めない、というスタンスを加盟社間で共有し、民放事業者の懸念の払しょくに努めました。これを受けて民放連は、民放テレビ全社の機器・設備の導入状況やCM枠ごとの字幕送出の可否をあらためて確認し、ついにロードマップの策定が実現しました。

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ロードマップでは、①字幕付きCMが放送される「放送枠を増やす」、②字幕付きCMを制作する「広告主を増やす」の2つをテーマに掲げ、4つのステップで取り組みを進めることとしています。課題解決を東阪名地区の系列局15社が担うことで、ローカル局の負担軽減を図りつつ、放送枠の拡大を実現していきます。

ロードマップに従い、2020年10月から在京キー局5社がすべてのタイム枠で字幕付きCM素材の受け入れを開始しました(第1ステップ)。2021年4月には関西地区、東海地区の10社もタイム枠での受け入れを開始しました(第2ステップ)。

ロードマップの推進

現在、字幕CM協議会はロードマップが掲げる「放送枠を増やす」「広告主を増やす」の着実な実現に向けて、取り組みを進めています。

「広告主を増やす」取り組みでは、今年5月にYouTubeに字幕CM協議会チャンネルを開設し、「字幕付きCM5つのお話」という動画を公開しました。自身も聴覚に障害のある国際ユニヴァーサルデザイン協議会CM字幕プロジェクトの松森果林さんから字幕付きCMへの期待をお話しいただいたほか、広告主・民放テレビ社・広告会社・広告制作会社それぞれの立場から、意義や普及推進に向けた取り組み、制作するためのヒントなどを紹介しています。それぞれ15~20分ほどの動画ですので、ぜひ一度ご覧ください。

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さらに7月から、全国の民放テレビ社でテレビCM「それいけ!字まくクン」の放送を開始しました。このページの冒頭は、そのキービジュアルです。字幕の表示方法や字幕が役立つ生活シーン(騒音で音が聴き取りにくいときなど)を紹介し、字幕付きCMの存在と有用性に気づいてもらうことがねらいです。9月までに全国の民放テレビ社で7,000回以上放送しました。

「放送枠を増やす」取り組みについては、今年10月から新たにネットワーク系列の地上民放テレビ99局とBS民放5局(2K)のタイム枠で、字幕付きCMの受け入れを開始しました(第3ステップ)。全国のタイム枠で字幕付きCMが放送できるようになりましたので、普及推進により一層の弾みがつくことが期待されます。

来年10月(見込み)のスポット枠での受け入れ開始(第4ステップ)に向けて、引き続き知見蓄積と課題検証を進めていきます。

字幕付きCMのさらなる普及・推進に向けて

ロードマップの「放送枠を増やす」は、最後のステップを残すのみとなりました。放送枠の拡大を実現しつつ、字幕付きCMを制作する広告主の輪を広げるため、字幕CM協議会はロードマップの着実な推進に取り組んでいくこととしています。

高齢化社会の進展に伴って、聴覚障害者や加齢で聴力に不安がある方への情報アクセシビリティを確保する字幕付きCMの社会的意義は、これからも高まっていくことと思います。SDGsが掲げる「誰ひとり取り残さない社会」の実現に向けて、企業が広告・マーケティング分野で取り組むことができる活動の1つとして、字幕付きCMの制作をご検討いただければ幸いです。

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