長野朝日放送・村井洋太郎さん 長野県民みんなで作る番組『藤森慎吾の信州観光協会』で県の魅力を深掘り【制作ノートから】⑩

村井 洋太郎
長野朝日放送・村井洋太郎さん 長野県民みんなで作る番組『藤森慎吾の信州観光協会』で県の魅力を深掘り【制作ノートから】⑩

民放onlineは、シリーズ企画「制作ノートから」を2024年2月から掲載しています。第10回は長野朝日放送の村井洋太郎ディレクターに、2024年春からレギュラー放送を開始した『藤森慎吾の信州観光協会』(日曜日16:55~17:25放送、外部サイトに遷移します)について執筆いただきました。作り手の思いに触れ、番組の魅力を違った角度から楽しむ一助にしていただければ何よりです。(編集広報部)


自称・日本一他力本願な番組⁉

アポはないけど、アテはある。SNSの情報だけを頼りに長野県77市町村をPRする『藤森慎吾の信州観光協会』。2023年6月に特番でスタートし、2024年4月からレギュラー放送が始まりました。県民の皆さんに支えられながら、少しずつ成長していると感じています。

SNSは情報の宝庫。単なるネット検索では見つからないリアルな声やトレンド、ディープな情報など、番組制作に役立つヒントがたくさんあります。実際に、SNSの投稿がきっかけで企画が生まれたこともありました。いっそのこと、その情報だけで番組を作ったら面白いものが生まれるのでは? テレビ局の人間だけで作るのではない。目指すは「長野県民みんなで作る番組」。自称・日本一他力本願な番組が動き出しました。
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<藤森慎吾さん=㊧、出身地の名所・諏訪湖=㊨>

出演をお願いしたのは、長野県諏訪市出身の藤森慎吾さん。X、Instagram、YouTubeなどのSNSで絶大な影響力を誇る藤森さんをメインに据え、多くの人を巻き込もうという狙いがありました。「きっとうまくいく」という根拠のない自信で企画実現までこぎ着けたものの、特番初回は大きな不安もありました。「SNSの情報だけを頼りに」が番組の大前提。それが崩れると、「アポなしブラリ系」に埋もれてしまう恐れがあったからです。局内でも前例がなかったため、ロケ前は「本当に大丈夫?」と社内スタッフから心配されました。しかし、情報を募ると、グルメ、絶景、地元の人しか知らないディープなスポットなど、藤森さんの呼びかけもあり、200件を超える「推し情報」が寄せられました。投稿してくれた皆さんには感謝しかありません。放送回を重ねるごとに番組公式Xのフォロワーも増え続けています。「県民で番組を作っている」という一体感を感じてもらえているのではないでしょうか。最近では「●●に行けば撮れ高あります」「●●で買った花火でエンディングを」など、番組の構成に踏み込んだ投稿もあり、藤森さんとニヤニヤしながら拝見しています。

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<ロケ地(善光寺)でも、移動中の車内でも"推し情報"をリサーチ>

ロケは常に3台以上のカメラを回して

県民の皆さんと一緒に作っている番組だからこそ、ロケの裏側的な場面もしっかり見せることを心がけています。料理で例えるなら、皆さんからの情報は素材。それをどのように活かし、どんな一品に仕上げるのか? 調理工程をのぞけた方が生産者のやる気にもつながるし、チームワークも高まると思うのです。「推しスポット」に向かう理由や経緯を撮り逃さないよう、移動中の車内はもちろん、藤森さんが仮眠している時、スタッフが昼食をとっている時も常に3台以上のカメラが回っています。完全ドキュメンタリーです。ある回では、行く先々の飲食店が定休日で「どこでもいいから食事がしたい」といら立つ藤森さんと、「情報をもらっていない店はダメ」とルールに厳しい番組スタッフが対立するような流れが生まれました。情報をもとに村内をグルグル周り、最終的には地域の名産である黒毛和牛の鉄板焼きをいただくことができました。そこには一連の流れがあったらこそのコメントや表情があります。包み隠さず全部見てもらうことで、現場の温度感を共有できれば......。目的地にたどり着くまでのストーリーも楽しんでほしいと思っています。

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<実際に放送された"内輪モメ"のシーン=㊧、たどり着いた鉄板焼き=㊨>

地元の人が語る「美しさ」

私は青森県の出身で、2013年から妻の故郷である長野県で暮らしています。地元の人にとっては当たり前だけど、実はすごいもの、世界に誇れるもの、圧倒的な風景......。長野県に来て10年余り、数々の衝撃的な出会いがありました。

これまで、信州の観光資源に焦点を当てたドキュメンタリー番組をいくつか制作させていただきました。サルが温泉に入ることで有名な地獄谷のスノーモンキー。原生林を緑の絨毯が覆い尽くすようにコケが広がる北八ヶ岳・苔の森。いずれも自分のファーストインプレッションを番組でどのように表現するか、という点を大切にしてきました。美しいものを美しく見せるためには、撮影時における工夫ももちろん重要ですが、現地で体感した人たちの生の声も大きな要素です。特に、地元の人が語る「美しさ」には説得力があるように感じます。

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<村井ディレクターが過去に手掛けたドキュメンタリー番組※

『藤森慎吾の信州観光協会』の取材先マップ

『藤森慎吾の信州観光協会』でも、地域の魅力をいかに表現できるかが番組のカギとなっています。それに欠かせないのが藤森さんです。18歳で上京した藤森さんは、地元のことを知りすぎず、知らなすぎず。長野県77市町村、読めない市町村も多々あります。どちらかと言うと知らないことの方が多いです。でも、それが平均的な長野県民の感覚に非常に近いのです。南北に広い長野県。どこに行ってもリアクションがとにかく新鮮。「自分の故郷にこんな素敵な場所があったんだ」と行く先々で感激しています。自分が生まれた土地を離れ、また戻ってきた時に感じる魅力。それは、藤森さんだからこそ語れることであり、その言葉には説得力があります。訪れた場所の魅力を藤森さんが発信することで、地域がさらに元気になる。そんな相乗効果が生まれていけば......と願っています。

ちなみに、最近パパになった藤森さんは77市町村を巡り、「終の棲家」を探すことを裏テーマに掲げています。今まで知らなかった故郷を「もっと知りたい」と徐々に前のめりになっていく姿勢が、視聴者の皆さんにも伝わっているのではないでしょうか。

レギュラー放送が始まり、訪れた市町村は20を超えました。番組HPではロケで訪れた場所を「取材先マップ」(外部サイトに遷移します)として公開しています。これをもっと利用しやすいようにパワーアップさせ、観光のお供にしてもらうことが「信州観光協会」としての目標です。今後、テレビの枠を超えて県民の皆さんとさらに長野県を盛り上げていければと思っています。

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<訪問先をまとめた「取材先マップ」を公開中


※(編集広報部注)写真㊧は『青い森を継ぐ家族』(2024年1月17日放送)から。同作は、「ルミエール・ジャパン・アワード2024 4K特別賞」を受賞。写真㊨は、『雪猿~生命の森・志賀高原 秘湯を守る女将~』(2021年2月10日放送)から。同作は「第24回ものづくりネットワーク大賞 最優秀賞」「第58回ギャラクシー賞 奨励賞」を受賞。放送日は、いずれも長野朝日放送での初回放送。

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