国際オリンピック委員会(IOC)は1月16日(スイス現地時間)、2026年から32年にかけて開催される4つのオリンピック(夏季2、冬季2)で、欧州の全メディア権を欧州放送連合(EBU)と米大手メディアのワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー社(WBD)に与えると発表した。金額は非公表。昨年4月から実施された公示入札において、EBUとWBDは共同で、欧州48カ国とイスラエルにおける全てのメディア権を求めていた。
対象となっているのは、2026年の冬季大会(伊、ミラノ・コルティナダンペッツォ)、2028年の夏季大会(米、ロサンゼルス)、開催地が未定の2030年冬季大会、2032年の夏季大会(豪、ブリスベン)で、同時期にそれぞれ開催されるユースオリンピックのメディア権も含まれる。
EBUが獲得したのは、該当大会におけるテレビとデジタルプラットフォームでの無料放送・配信権だ。EBUがIOCに示したサービス計画では、冬季大会で最低100時間以上、夏季大会で200時間以上のテレビ放送を行うほか、ラジオやネットで中継(ライブストリーミング)を行い、ウェブやアプリ経由でのキャッチアップ、ソーシャルメディアでの五輪ニュースやハイライトの発信など、幅広いメディアサービスを提供するという。
WBDは、グループ傘下にある「ユーロスポーツ」チャンネルなどでの有料放送の権利と、有料配信でのライブストリーミングやオンデマンドサービスなどの権利を手に入れている。
有料メディアのWBDが、無料でサービスを行う放送連合と競争せずに共同入札したことに、業界内で驚きの声が上がった。というのも、2015年に当時のディスカバリー社が3億ユーロ(約1,825億8,400万円)を投じて、パリ五輪までの4大会で欧州の全メディア権を単独で入手していたからだ。全競技を独占中継できる権利をフルに生かして、有料放送や配信サービス「discovrey+」の利用者拡大につなげ、北京冬季五輪では、欧州でプラットフォームの訪問者数が1億5,600万人に達し、前冬季大会の19倍以上となった。多額の契約金についても、欧州45カ国の放送局に無料放送権をサブライセンス販売し、投資の大部分を回収したと言われていた。予想外の「共同入札」を報じた業界誌『バラエティ』によると、共同入札のアイデアが具体化したのは2021年の東京大会の期間中で、両者は、入札の競争相手に勘付かれないよう水面化で交渉をし、極秘に入札準備を進めたとのことだ。
ディスカバリー社はワーナー・ブラザーズと合併してWBDとなったため、同社の有料サービス(discovery+)とワーナー・ブラザーズの有料サービス(HBO MAX)は、今春に1つのアプリ(サービス)に統合される予定。大所帯になったWBDは、単独での五輪の権利保持にこだわるよりも、EBUと手を組むことで、メディア権獲得にかかる支出削減を図ったようだ。また、WBDにとっては、無料放送局とサブライセンス契約を交渉する必要がなくなり、かなりの負担軽減となっている。単独で欧州のメディア権を持っていた2018―24年の4大会で、ディスカバリー社は45カ国の無料放送局とサブライセンス契約を結んだが、ドイツとは交渉が一旦決裂するなど、相当な時間と労力を要したとされる。さらに、国別の個別契約となったため、欧州内で無料放送の時間やサービス内容に差が出てしまい、ディスカバリー社やIOCに「不公平だ」との批判が寄せらていた。
1956年から五輪を放送していたEBUは、オリンピックでの放送・配信権を取り戻したことを、「公共サービスメディアにとって画期的なもの」と歓迎。「加盟各局を通して、リニアおよびノンリニアのプラットフォームで、欧州全域で10億人を超える視聴者にリーチできる力がある」と期待を寄せている。東京五輪では、BBCの五輪中継・配信サービスがサブライセンスで大幅に縮小され、多くの国民が不満を訴えていた。
コストシェアの観点から、無料放送局と有料プラットフォームがスポーツライツを共有するのは近年のトレンドで、最近では今年の世界陸上競技大会(ブダペスト)など複数のスポーツイベントで、両者は欧州のメディア権を分け合っている。五輪のライツも共有時代に入ったと言える。
IOCの発表によると、EBUは、無料放送とデジタルプラットホームでの無料放送・配信権を獲得しているが、「全ての瞬間」を見られるのは依然としてWBDの有料プラットフォームのみとされている。EBUが無料放送をまとめることにより、国ごとのばらつきは解消されそうだが、夏季大会のノルマである200時間を超えて、どこまで無料で競技が視聴できるのかは不透明だ。