配信サービスやデジタルニュース、ケーブルテレビやインターネット通信、各種のサブスクリプション、ソフトウエアからスポーツジムのメンバーシップまで、いまあらゆるサービスで「定期購読(更新)」「定額課金」がオンライン決済と連動して提供されている。しかし、利用者が解約したくても簡単にできないことも問題化している。これを解決すべく、米国の連邦取引委員会(FTC)は10月16日、新規則「click-to-cancel」を導入すると発表した。賛成3票(全て民主党)、反対2票(全て共和党)で可決され、議会の承認は必要ない。連邦政府官報(Federal Register)への公示から180日後に発効となる。
「click-to-cancel」とは、文字どおり「クリックするだけでキャンセルできるようにする」規則。今後、サービスを提供する企業はウェブサイトのホームページのわかりやすい場所に解約方法を表示し、クリックするだけで解約できるようにしなければならない。また、契約時の合意がない限り、希望者に電話やチャットでやりとりすることを強要してはならないとも明記(対象は人間またはチャットボットなどのバーチャルのいずれも)。違反した事業者にはFTCがまず改善を求め、改善しない場合は何らかの罰則が課せられる(冒頭画像はFTCサイトに紹介された新規則の概要)。
消費者からのFTCへの苦情は年々増加傾向に。ウォール・ストリート・ジャーナル紙はスポーツジム解約でオンラインチャットを30分にわたって強要された例を紹介。あるソフトウエアサービスでは年間契約を途中で解約すると残月分の料金を払い戻さないため、解約し損ねる消費者が続出していたことも報じている。2023年3月から審議を続けてきたFTCのリナ・カーン委員長は「解約するための迷路をこれで終わらせる」と話しており、消費者からは一様に今回の新規則を歓迎する声が上がっている。
一方、業界側はFTCが消費者の苦情を誇張していると、新規則に反対。米国の新聞社の業界団体であるNews/Media Allianceも23年に草案が作成された時点で「すでに州レベルで解約時に関する規制が設けられており、FTCによる新たに規則は不要」と意見していた。配信事業を拡大させるNetflixやディズニー、ワーナーブラザーズ・ディスカバリーなどでは、サービスに短期間加入して解約するユーザーの、いわゆる「解約率」にどう対抗するかが課題になっているだけに、大手メディアにも影響は必至だ。
今回、反対票を投じた2人の共和党委員は「FTCにこのような規制を設ける権限はない」「委員会で過半数を占める民主党委員が11月の大統領選挙の前にこの新規則を急がせただけだ」との声明を発表している。賛成票を投じた民主党委員レベッカ・スローター氏は「新規則の検討が始まったのはトランプ政権下のこと。草案作成以後も内容を精査してきた」と主張。ここにも大統領選の影が見え隠れする。