民放とNHKは1984年のロサンゼルス大会からJC(ジャパン・コンソーシアム、92年バルセロナ大会まではジャパン・プール)を組織して、共同でオリンピック放送に取り組んでいる。オリンピックは国民・視聴者にとって最大の関心を集めるスポーツイベントであり、JCを組むことで、一つの放送局が独占して放送する他国とは異なり、NHKと民放各局が分担して多くの競技を放送し、視聴者・リスナーに楽しんでもらうことが可能となっている。今回、64年以来の開催となった東京オリンピックの放送体制について、大会期間中の7月30日に東京ビッグサイトに置かれたIBC(国際放送センター)でJCの制作および技術の統括に話を聞いた。
東京大会のJCは解説者なども含めると約470人で過去最大の規模。テレビのアナウンサーだけでも46人の体制を組む。現場を取りまとめる藤田信彦・制作統括(フジテレビ)は「NHKも含めたさまざまな局の人たちが集まって、ひとつの放送を作ることは刺激がある。自局のためだけに働くのではなく、JCとして良い中継を作り上げようという志があり、現場の意識は高い」と語る。
各競技会場ではIOCが設立したオリンピック放送機構(OBS)が国際信号(映像・音声素材)を制作し、各国のライツホルダーへ伝送する。東京大会ではOBSから素材が48本の回線でIBCに届き、JCはこれにユニカメラの映像や解説・実況の音声を付けて各局へ送る。注目の競技については、JCで中継車等を用意して現場制作を行いIBCへ送る。稲川俊一郎・技術統括(テレビ朝日)は「今大会はOBSが全ての映像素材を4Kで制作しているので、BSの4K放送用とは別に、地上波用にはJCでこれを2Kにダウンコンバートし8回線で各社へ送っている。そのために総勢129人の技術スタッフが入念な準備を進めてきた」と説明。IBCには4月19日に入ったという。
開催が1年延期になったことから、スタッフの継続した確保に苦心したほか、機材や回線などの維持に影響があったとのこと。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響により対面で集まることができず、オンラインのみの打ち合わせとなったため、スタッフ間でコミュニケーション不足にならないよう気を配った。両統括は「多くの人たちにとって見たことがない競技に触れる貴重な機会。連日民放局が持ち回りで、朝から深夜までの大枠編成を組んでいるので、日常を忘れてスポーツを楽しんでほしい」とオリンピック放送の魅力を語った。
IBCのJC全体のスペースは、民放各局やNHK分も含めて約1450㎡。JC業務のためのスペースには、マスターコントロールルームや5つのテレビ副調整室(サブ)、5つのコメンタリーミックスルーム、4つのオフチューブブースなどの設備のほか、4Kと2Kの画質の違いをチェックするための映像調整管理室(Quality Control Room)なども備える。ラジオは3回線を各局に配信。3つのサブ、1つのオフチューブブースで対応した。
在京キー5社(ユニ)は、それぞれスタジオを設置してメダリストインタビューなどを行うユニスペースを設置。さらに4K信号の民放各局への分岐などを行うためのJBA共通業務スペースや、民放ラジオの取材拠点となるスペースも置かれた。
【フォトギャラリー】
<JCマスターコントロールルーム>
<副調整室(サブ)>
<オフチューブブース>
<JBA共通作業スペース>
<民放ラジオスペース>
<話題となったお土産の自動販売機>
<稲川技術統括(左)と藤田制作統括(右)>