熊本放送 テレビサブシステムをIP化 ~選挙特番での作業軽減が実現~

西 哲司
熊本放送 テレビサブシステムをIP化 ~選挙特番での作業軽減が実現~

熊本放送では2025年、19年ぶりとなるテレビサブ(副調整室)システムの更新を行いました。計画検討段階から約3年。当初は従来の伝送規格であるSDIでの更新を考えていましたが、今後10年先、15年先を見据えて議論を重ねた結果、最終的にはIP化を決断しました。

写真② 完成火入れ式.jpg

 <坂口洋一朗社長も見守った完成火入れ式>

現況の課題

熊本放送は駅伝やマラソンなどの大規模中継特番を多く制作しています。年々複雑化する制作の要求に対し、レギュラー番組をこなしながら従来の同軸ケーブルによる後付けのパッチでの対応は、時間と労力の面で限界に達していました。これを根本的に解消する手段が、映像・音声・制御など全ての情報を一本のネットワークに集約できるIP化だったのです。

システム構成

新システムは既存資産を最大限に活かすため、SDIとIPを組み合わせたハイブリッド構成としました。IP非対応機器はゲートウェイを介して接続し、初期投資を抑えながらの移行を可能にしました。さらに、モバイル機器の受信画面などもIPネットワークに取り込むことで、サブ内のどこからでも状況を確認でき、運用の即応性が大幅に向上しました。

特に効果を発揮したのが複数のPCをネットワークで遠隔操作するためのIP-KVMシステムです。PC本体をラック室に集約し、騒音や排熱の問題を解消したほか、どの席からでも全PCにアクセスできる環境が整い、極めて柔軟なオペレーション環境が実現しました。

写真③ IP-KVM端末.jpg

<サブIP-KVM端末>

またサブ内には6カ所のTRK盤(回線盤)を設置し、物理的なパッチ作業を最小限に抑えつつ、どのエリアからでも任意の信号にアクセスできる設計となっています。機器をラック室内に集約できたことでテレビサブの物理的スペースも広くとれるようになりました。そこに、特定の用途に縛られない「フリースペース」と名付けたエリアも新たに設けました。このスペースは番組に応じて自由に機材を配置できる、創造的な空間となっています。

写真④ フリースペース.jpg

<新たに設けたフリースペース>

また、制作面ではマルチビューワーの柔軟性が大きな武器となっています。専用の制御ソフトにより、各番組の特性に合わせてシステム連動でレイアウトを自在に変更できるため、これまで時間を要していた特番の準備作業が劇的に効率化され、日々の運用における作業負荷の軽減にもつながっています。

サムネ製作用.jpg

<マルチビューワー㊧、PC設定画面㊨>

導入後のリアルな変化

これまで物理的な配線変更に数日を要していた特番時のシステムレイアウト変更や機材の追加が、ソフトウェア上で設定でき、ワンクリックで呼び出せるため、レギュラー番組をこなしながら合間に仕込みを終わらせることも可能となりました。

実際に、7月の参院選特番では、サブシステムの構築から撤収までの作業が簡素化・迅速化され、従来に比べて作業時間を大幅に短縮できました。現場スタッフからも驚きの声が上がっています。またIP化に伴うオペレーターの操作習熟に関する懸念もありましたが、オペレーターは従来の操作感を維持したまま、IP化を意識することなく業務を遂行できています。これはシステム設計においても重視した点であり、スムーズな移行を実現できた要因でもあります。

おわりに

今回の更新は単なる老朽設備の更新にとどまらず、働き方や制作環境を変革する可能性を秘めています。IPネットワークは物理的な制約を受けないため、別室や外部拠点、自宅からも制作に参加できる「どこでもサブ」の実現が期待されます。これにより、多様な人材が時間や場所にとらわれず活躍できる環境が創出され、働き方改革にもつながります。

また、新システムの基盤がハード依存からソフト中心へ移行したことで、クラウドやAIの活用など、新しい映像制作の可能性も広がりました。このIP化という選択が、放送局の明るい未来へとつながっていく事を期待しています。

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