英ITV 新配信サービスITVXをスタート 全局のコンテンツを含む

編集広報部
英ITV 新配信サービスITVXをスタート 全局のコンテンツを含む

写真:「ITVX」ウェブサイトから


イギリス最大の民放局であるITVは、12月8日、オンデマンドの広告モデル(AVOD)と有料モデル(SVOD)を組み合わせたハイブリッド配信サービス「ITVX」を開始した。これに伴い、同局のこれまでの無料配信サービス「ITV Hub」や、その有料版「ITV Hub+」は、新サービスに統合された。

以前との大きな違いは、コンテンツの充実度だろう。「ITVX」のプレミアム(有料)サービス利用者は、自動的に「BritBox」(英BBCワールドワイドとITVによる配信サービス)の全コンテンツを視聴できるほか、この11月にITVがコンテンツ契約を結んだ2つのアメリカ大手メディア、ワーナーブラザーズ・ディスカバリーとパラマウント・グローバルの人気ドラマシリーズが視聴できるようになる。加えて、「ITVX」向けに何作ものオリジナル作品が制作され、毎週、新しいコンテンツがラインアップに加わることになっている(なお、スタート時にラインアップされたのは、250以上の映画と200以上のドラマ・シリーズとのことで、有料版ではコンテンツをダウンロードしてオフライン視聴ができるとのこと)。

ライバルとなるネットフリックスとの差別化は、意欲的なオリジナル作品や米大手メディアのコンテンツに加え、スポーツコンテンツとFAST(無料広告付きストリーミングTV)が挙げられるだろう。ITVは、FIFAワールドカップカタール2022の放送権を持っているうえにネット同時配信権も手に入れており、「ITVX」で全試合をストリーミング配信している。また、同局の全チャンネル(ITV 1、2、3、4、BeCITV)の同時配信に加え、20FASTチャンネルを提供。この中には、手話チャンネル(人気ドラマが手話付きで視聴できる)も含まれている。

ITVによると、「ITVX」サービス開始時に1万時間を超える無料コンテンツを用意したとのことで、以前(ITV Hubでは6,000時間)よりも7割近く拡充された。無料サービスのみを利用する人にとっては、オリジナル作品やITVが契約を交わした米大手メディアの新作が見られないこともあるが、旧作の人気ドラマ『バンバイア・ダイアリーズ』などは広告付きで楽しめる。また、恋愛、クリスマス、犯罪ドラマなど特定のジャンルや人気番組をテーマにした20FASTサービスにアクセスできるため、以前よりもサービスは向上している。

「ITVXプレミアム」の料金は「ITV Hub+」より2ユーロ値上げし、月5.99ユーロ、年間59.99ユーロで提供している。これは、「BritBox」の価格設定と全く同じだ。これには、英国で展開する「BritBox」の所有が、この春完全にITVに移った(BBC10%分の持ち株を売却し、ITVと長期コンテンツ供給契約を結び直した)ことも関係している。実質、ITVは2つのSVOD(「BritBox」と「ITVXプレミアム」)を抱えているわけだが、当面は両サービスを統合せずに切り離して運営し、よりコンテンツが充実している「ITVX」へ利用者が自然に乗り換えるのを待つようだ。また、「BritBox」だからこそコンテンツ供給に応じた民放ライバル「チャンネル4」らとのコンテンツ供給契約が、今後どのように維持されるかにもかかっているようだ。

放送事業に与える影響で心配な点もある。同社は3月に「デジタルファースト戦略」を発表し、人気番組の第一話の放送が終わったら、ネット側で全話を提供する形に変えていたが、今後は看板ドラマなどは、まず「ITVX」の有料プラットフォームで配信され、番組の放送は半年から9カ月程度後になるそうだ。放送事業を引き続き重要視すると言いながら、デジタル(ネット)を優先させることについて、ITV側は、SVOD向けの予算で作るコンテンツを放送で提供できることは、放送サービスの質の向上になるほか、配信での「口コミ」が放送での視聴者獲得に役立つと説明している。

ITVのマッコールCEOは、来年「ITVX」に1億6,000万ポンド(約2679,000万円)を投資する方針だと業界誌『バラエティ』は伝えている。就任直後、「More than TV(テレビ以上のもの)」をモットーに組織改革をしてきたマッコールCEO。デジタルを優先したハイブリッド配信サービス「ITVX」の実現で、自らの目標に一歩近づいた格好だ。ITVの営業はすでに「ITVX」モードで広告取引を進めているようだが、放送を守りながら、ITVを次世代のプラットフォームにつなげることができるかどうかは、ここ1―2年が正念場となりそうだ。

最新記事