MBSラジオ/Radiotalk・髙本慧さん リスナーをどう獲得するか【ラジオから提言!放送の未来】

髙本 慧
MBSラジオ/Radiotalk・髙本慧さん リスナーをどう獲得するか【ラジオから提言!放送の未来】

民放連が発行する機関紙「民間放送」で2018年5月から続いてきた、放送の未来を第一線の放送人に語っていただくリレー連載「提言!放送の未来」。今回登場するのは、MBSラジオで『オーイシマサヨシのMBSヤングタウン』『AマッソのMBSヤングタウン』を担当するほか、音声配信サービスを手がけるRadiotalk社の取締役でもある髙本慧さん。


番組が成長するためのストーリー

会社などと同じで、どういうストーリーで番組を成長させていくかを考えることが番組作りではとても重要だと感じています。今まで放送局は番組を作ってさえいれば、安定的に視聴者・リスナーに届き、出ている人やモノの知名度が上がっていき、収益が立っていた歴史があります。なので、民間放送は「作る」の前と後の部分が世の一般企業と比べてとても下手な傾向があります。それを自覚した上で、何をどこまで成長させるための番組なのかを具体的に意識して制作することがプロデューサーには求められると感じます。

今自分が大切にしていることとしては「新しいリスナーをどうすれば安定的に増やせるか」という部分です。そのために、現在担当している『オーイシマサヨシのMBSヤングタウン』『AマッソのMBSヤングタウン』では、番組を立ち上げた時からYouTubeおよびポッドキャストへのアーカイブと、音声配信サービス「Radiotalk」での生配信(24年1月以降はYouTubeに切り替え)を実施しています。

また、ガジェット通信社と連携し、番組素材の一部を切り出して再編集した"切り抜き動画"の作成を推薦しています。リスナーは自由に番組素材を使って動画を作成・配信し、動画の収益でマネタイズできる形を取っています。切り抜き動画の中には数十万回再生されるものがいくつもあり、多くのリスナーに番組を届けることができるとともに、切り抜きをする人にも収益配分がされています。決して潤沢とは言えない制作費の中で、誰かが無理する形ではなく自然に番組が広がっていくための方法としてやってよかったと感じています。

切り抜き動画や、ポッドキャストなどの新しいサービスを通じて新規リスナーを獲得し、そのリスナーに番組イベント参加やグッズ購入で番組の存続を後押ししてもらうというのが、番組提供という形が厳しい時代の正しい番組の成長サイクルだと感じています。

<『オーイシマサヨシのMBSヤングタウン』切り抜き動画>

BtoBからBtoCへ

僕が担当している番組で「聴取率」をKPI(目標指標)にしているものは一つもありません(あくまでも私の考え方であり、営業や編成は「そんなことない」と言うかと思いますが......)。代わりに、Ⅹのフォロワー数やYouTubeのチャンネル登録者数などをKPIに設定し、それを達成するためにどういうことをするべきかを考えています。「影響力の大きい番組を作ってそこに広告を載せてもらう」という旧来の方式から、さまざまな他メディアの台頭もあり「広告の話が自然とやってくるほど影響力の大きい番組」を作るのが難しくなり、多くの番組が「リスナーに番組を支えてもらう」方式に切り替わってきていると感じています。

Ⅹのフォロワー数が伸びると、「有料イベント」や「グッズ販売」などさまざまな番組独自の放送外収益の数字が伸びます。また、YouTubeでの配信では、自動で広告収入が入ってくるようになります。どちらも営業を通さず、制作スタッフだけで収益が完結するので、不確定要素が少なくなり、目標を立てて番組運営を行いやすくなる利点もあります。「何か目標を決めて、そのためにリスナーをどう獲得し、どうマネタイズするかを考える」というプロセスを正しく踏むことが大切です。

ポッドキャストで「資産」形成

最近ラジオ業界では「ポッドキャストの時代が来る」とよく言われています。僕もSpotifyで『Spotify ANIZONE - アニゾーン』や『呪術廻戦 じゅじゅとーく』などの番組プロデューサーを務めているぐらいには将来性を感じているのですが、今のポッドキャストのマネタイズは企業の音声広告ありきのビジネスモデルになっているので、正直、市場がどうなるかまだまだ読めない印象です。

ただ、「ラジオ局はポッドキャストをやらないよりはやった方が良い」とは強く思っており、その理由としては自社のコンテンツをアーカイブできるようになる点にあります。

これはテレビも含めてですが「コンテンツの賞味期限が1週間しかない」というのが地上波放送最大の欠点だと思っています。YouTubeやポッドキャストでは半永久的にコンテンツを掲載し続けられるのでコンテンツが「資産」になりますが、1週間しかないものはせっかく最高のコンテンツを作っても誰かに届く前に消えてしまいます。そんなことでほかのネットメディアに勝てるわけがないと思っていたので、このポッドキャストの流れは放送局にとってとても良い動きだと感じています。

チャレンジできる体制を強化

最後に「今後こうなってほしい」という個人的な願いがあります。全国の放送局幹部の皆さんに「もっと若い制作者にリスペクトを持ってほしい」「会社として大きくすることを真剣に考えてほしい」という2点です。今と昔でこれだけ時代が変化している中、今までやってきたことをただなぞっていくだけではヒットコンテンツは生まれないし、良いクリエーターも離れていきますし、会社の売上は右肩下がりになっていきます。無策で行うのは危険ですが、生き残るためにも若い力を取り入れて新しいことに本気でチャレンジしていく体制を強化することにもっと取り組むべきだと感じます。

一人のラジオ・テレビ好きとして、もっともっと放送局に魅力的なコンテンツが生まれることを望んでいます。

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