NHK放送技術研究所(技研)は5月30日から6月2日まで、今年で77回目となる「技研公開2024」を開催した。「技術で拓く メディアのシンカ」をテーマに、放送メディアを支える研究開発29項目を披露した。
技研の今井亨所長は、一般公開に先立ち5月28日に開催したプレスレビューで、テーマにある"シンカ"ついて、「放送メディアの"真価"を高める技術の"深化"と"進化"と3つの漢字をあてた」とあいさつ。今回展示されている人間の知覚感度特性に関する基礎研究について、「技研は、英語でNHK Science & Technology Research Laboratoriesと表記されるように、サイエンスに基づいてテクノロジーを極める。人間がどこまで見られるのか、どこまで音が聞き分けられるのかを基に新しい技術の規格を決め、開発してきた歴史がある」と説明した。
<報道陣に向け技研公開の見どころを説明する今井所長>
本稿では、5年以内に技術的に実用段階に入る研究成果を中心に展示内容を紹介する。
「ARグラス型ニュース提示システム」(=冒頭写真㊧)
NHKの3日間分のニュースを3次元空間に一覧できるように配置したARコンテンツだ。ARグラスをかけたユーザーは自分の周囲に広がるニュースを自由につまんで選択したり、他のユーザーに送ったりなど、実際に動作しながら情報接触できる新しいニュース体験だ。
「映像の説明テキスト生成技術」(=㊦)
顔認識・文字認識などの要素技術を組み合わせて、映像内容の説明テキストなどを自動生成するシステムだ。人物識別技術を加えたことで、登場人物の名前を含んだ動画の説明テキストが生成できるようになった。自動生成された情報をメタデータとして活用し、番組編集業務の支援、取材映像の検索など、放送現場でのさまざまな用途での利活用を検討しているという。
<人物の名前、動作についての説明文が画面下部に生成されている>
「放送番組中継用回線の伝送技術」
放送番組中継用回線(STL/TTL)について4K番組と2K番組の複数放送番組の多重伝送が可能となる新たな伝送技術のプロトタイプを展示した。これにより使用する周波数はそのままに伝送容量を増やし、次世代地上放送(4K)と地上デジタル放送(2K)を同時に送信所まで送信できるという。技研では、2027年ごろまでの技術基準策定を目指している。
「コンテンツの信頼性を高める来歴情報提示技術」(=㊦)
インターネット上における偽・誤情報対策の一案として、来歴情報を活用し、コンテンツの改ざんの可能性を示唆する動画視聴プレイヤーなどを披露。このプレイヤーを利用すれば動画視聴中に、第三者による改ざんの可能性がある箇所に差し掛かるとアラートが表示されるイメージだ。
<改ざんの可能性がある箇所に差し掛かり画面に警告表示がでる>
このほかの展示を含め、各展示の詳細は、NHKウェブサイトから確認できる。