ATSC 3.0推進の騎手・米シンクレア テレビでラジオ放送を試運転中 音楽やローカルニュースを提供

編集広報部

米メディア大手シンクレア・ブロードキャストグループが、次世代放送規格ATSC 3.0を介した"テレビを使ったラジオ放送"という新たな手法「NextGen TVオーディオサービス」を、ボルチモア・ワシントンD.C.市場の傘下局WIAV(CD)で試運転している。同社は2020年末ワシントン州シアトル市場で、ATSC 3.0搭載テレビユーザー向けにラジオチャンネルを新設したが、今回は自社製次世代ラジオアプリSTIRR XT内に「NextGen TVオーディオサービス」を組み込んで始めた新たな試みだ。全米でATSC 3.0の普及が急激に進み、2022年末時点で全米市場の82%がカバーされることが背景にある。

シンクレアはATSC 3.0導入を積極的に推し進めていることで知られ、多額の投資も行っていることから、それを回収する意味でも新規格のポテンシャルを最大限に押し上げ、業界としての利益に繋げようとしている。今回の試みもその一環。ラジオが次世代テレビ・エコシステムの一部となり得るか、今後の展開が注目されている。

シンクレアは、NextGen TVオーディオサービスの試運転について広告・宣伝を全く行っていない模様。これは、ユーザーがATSC 3.0による放送を利用する過程で、NextGen TVオーディオサービスを発見できるようにするためで、画面上のインターフェース・デザインには気を遣っているとのこと。デバイスから収集したデータ分析によると、利用状況は上々だという。

今回のNextGen TVオーディオサービスには、ワシントンD.C.のローカルニュースFMWTOPが含まれる。ユーザーは、画面上に表示されたSTIRR XTアプリをインストールし、独自に設定を行い、テレビ経由でラジオ放送を受信できるというものだ。ローカルラジオ局の存在をアピールしたいシンクレアは、WTOPをアプリのトップに配置している。STIRR XTは、LGSamsungSonyATSC 3.0対応の全モデルでインストール可能だ。

シンクレアのアドバンストテクノロジー担当上級副社長マーク・エイトケン氏は、NextGen TVオーディオサービスは衛星ラジオ局のシリウスXMに取って代わる可能性を秘めていると、米メディアにコメントしている。シリウスXMといえば7090年代音楽、クラシック音楽、などでおなじみ。しかしNextGen TVオーディオサービスはそれに加えて、リスナーが聞き慣れたローカルラジオ局も提供する。今はまだ1市場での試験導入だが、「将来的には異なる市場で、それぞれのローカルラジオサービスを導入できれば、有料サービスとして提供していける可能性もある」とエイトケン氏は話している。

デバイスやアプリが氾濫する今の時代、ラジオをテレビで提供することは理にかなっているというのもシンクレアの主張だ。全てをNextGen TVのエコシステムに統合すれば、ユーザーの使い勝手もよい。通常、HD映像(3 mbps)を放送するATSC 3.0のデータ送信容量の問題も、圧縮技術により音声なら6―7kbpsの使用で可能なため、映像を全く邪魔しないとされている。

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