放送波の停止も選択肢に~英Ofcomが「テレビ配信の将来」について報告書を公表

編集広報部
放送波の停止も選択肢に~英Ofcomが「テレビ配信の将来」について報告書を公表

英放送通信庁(Ofcom)は5月9日、英国におけるオンライン配信の将来について検討した報告書「Future of TV Distribution」を公表した。デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)の「地上デジタルテレビ(DTT)によるコンテンツ配信に影響を与える市場の変化」に関する調査要請に応じたもの。報告書は、視聴者の視聴習慣の現状を示し、少なくとも今後数年間、公共サービス放送(PSB) の普遍的な提供を持続可能にする方法について検討している。

報告書によると、オンライン視聴などを選択する人が増え、2018年から2023年の間に、放送波でテレビを見る平均視聴時間は25%減少しており、その傾向は続くとみられている。また、テレビ視聴全体に占めるDTTや衛星放送Freesatを通じたリニア視聴は、2022年の67%から2034年には35%、2040年には27%に減少すると予測している。

視聴者のテレビ視聴時間が減るにつれ、一人当たりの配信コストが上昇するため、費用対効果が見合わなくなってきており、DTTと配信の両立は厳しい。BBCは、「今後数年のうちに、放送局のうちの1社または多くが、存続不可能となる"転換点"を迎える」と予測し、Channel5を所有する米パラマウントは、「商業放送局向けのDTTがまったく不可能になる時期がくる可能性がある」「視聴者一人当たりのコストは商業放送局にとって合理的な経済的価値を保つ必要がある」と警告している。

現在、放送波でテレビを視聴しているのは約390万世帯、インターネット経由で約530万世帯が視聴している。ケースバイケースで両者を使い分けている世帯も多いが、インターネットに比重が移っているという。Ofcomは「10年後にはストリーミング視聴が大勢を占めるが、ストリーミング配信を視聴するのに必要なブロードバンド契約ができない高齢者や低所得者を置き去りにする可能性がある」と指摘している。

こうした事態を回避し、テレビサービスがあまねく利用できるようにするためOfcomは3つの選択肢を提案している。
① より効率的なDTTサービスへの投資:今後10年間で十分な視聴者数を確保できる場合、より効率的な放送信号用の新しい機器を視聴者に提供するなどの対応が必要。
② DTTをコアサービスに縮小する:PSBとニュースチャンネルを中心に、必要不可欠なサービスを維持する。DTT完全廃止への移行を前提に、あるいは最後の手段のインフラとして残すことも視野に入れた措置。
③ DTTの完全廃止:オンライン配信への移行計画を進め、長期的には放送波を停止する。社会的弱者が切り捨てられる可能性があるため、PSBの普遍性が脅かされることのないよう、十分な計画と配慮が必要。

Ofcomは、どの選択肢を推奨するかには言及していないが、いずれにしても利害関係者の間でユニバーサルサービスとしてのDTTの将来に関する「共通のビジョン」が必要としている。また、包括的な移行には8~10年かかるため、2034年ごろのマルチプレックス免許の期限を視野に入れると、議論すべき時期は"今"だともしている。

同報告書を受け、英政府は視聴者、放送事業者、インフラ事業者などによるフォーラムを立ち上げ、このテーマに関する意見交換を行う意向を示した。

2040年以降も地上波テレビ・ラジオを守るキャンペーンを行っている「Broadcast 2040+」は、「将来ビジョンが不明確なままでは放送サービスに依存している何百万人もの社会的弱者等が放送から排除される」「視聴者を第一に考えるべき」などと主張している。

BBCのティム・デイビー会長は、2022年12月に王立テレビ協会で講演した際、2030年の世界ではテレビやラジオが停波し、すべてがインターネット配信になっている可能性を示唆し、BBCの公共的価値をいかにして高めるかについて持論を述べていた。2024年6月4日の講演では、公共放送は世界的に非常事態にあると警告を発している。

5月24日には、PSBの持続に向け放送制度の包括的な見直しに取り組むことを目指したメディア法案が成立した。
英国のPSBが、どのように危機に向き合うのか、関心が高まりそうだ。

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