【onlineレビュー】心に残したい、あの日のテレビドラマ 岡室美奈子著『テレビドラマは時代を映す』を読んで

ペリー荻野
【onlineレビュー】心に残したい、あの日のテレビドラマ 岡室美奈子著『テレビドラマは時代を映す』を読んで

本書は、早稲田大学演劇博物館の前館長で、同大学大学院教授の岡室美奈子さんが、2019年4月から2023年3月まで4週間に一度、毎日新聞の夕刊に連載したテレビコラム50本に書き下ろしを加えて書籍化されたものだ。連載時のタイトルは「わたしの体はテレビでできている」。おお、言い切りましたか、教授! いや、ふざけて言っているのじゃ、ありません。岡室さんは、その自覚と覚悟を持って、テレビに向き合い、泣き笑いしながら(だと思う)、執筆しているのである。

19年から23年といえば、元号が令和に変わり、新型コロナウイルスのパンデミックが起きた激動の時代。「緊急事態宣言」が発令され、「不要不急」の多くのエンターテインメント作品が延期、中止を余儀なくされた。世界の人々が「新しい生活様式」をおっかなびっくり始めたころ、東京2020オリンピック・パラリンピックの延期が決定。翌年、無観客で開催された。ロシアによるウクライナ侵攻、安倍元首相の銃撃事件と衝撃的な出来事も次々と起こった時期でもある。

そんななかでも、テレビドラマは作り続けられた。
著者はその「時代」と「テレビドラマ」の関係をきめ細かく拾いながら、分析していく。「コロナ」に関しては、「コロナ禍におけるドラマを振り返る」という幕間エッセイがある。そこでは、柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生に猫を加えた三人と一匹が、自粛生活の中で中身が入れ替わってしまうというNHKの「テレワークドラマ『転・コウ・生』」(脚本・森下佳子、2020年5月)を取り上げ、このドラマがすべてオンライン会議で打ち合わせを行い、リハーサルも本番収録も、出演者たちが顔を合わせずに制作されたと解説する。NHKからスマートフォンのカメラと、ぽんぽんのついたマイク、スマホ固定用の三脚を受け取った出演者は、衣装、小道具、メイクも自分で用意したという。それだけでも十分に時代を感じるが、著者は、このドラマでは入れ替わりが元通りになってめでたく終わらなかったことに着目。「それはコロナ禍が終わっても元の日常には戻らないから、それを受け止めて生きていこうよというメッセージにも思われ、さすがの森下脚本だと感銘を受けた」と綴るのである。

そうだった。時代を映したドラマは、いつだって、そこにポツンと点として存在するわけではなく、人の心に、人生にツーッと線を引くように残り続ける。そのことを一番よく知っているのは、長年、テレビドラマを愛し、研究する筆者自身だろう。本書でも、多くとりあげられている70年代、80年代の向田邦子や山田太一のドラマは、今も色あせず、筆者の心に力強く生きている。それと同じように、コロナ禍で、三密厳禁、スタジオ閉鎖という危機のなかでも、面白いドラマが作られた。多くの人に届けようと挑んだ放送人がいた。それをあらためて確認させてもらった気がして、素直にうれしい。

もうひとつ興味深いのは、ドラマで描かれる女性像についての分析だ。
21年10月に掲載された「実直な女性の活躍も見たい―『二月の勝者-絶対合格の教室-』『イチケイのカラス』」というコラムでは、「型破りな男性主人公が常識を覆すやり方で現状を打破し、真面目で常識的で勤勉な女性を感化していくドラマ」について語る。

『二月の勝者』(日本テレビ、2021年10~12月)は、「親はスポンサー」などと言い放つ塾講師の黒木(柳楽優弥)が、まじめな同僚・佐倉(井上真央)を翻弄、だが、その破天荒なやり方が、成果につながるという物語だ。『リーガル・ハイ』『イチケイのカラス』(いずれもフジテレビ)といった法曹ドラマも、同様の構図ができている。著者は硬直した社会のシステムに風穴を開ける主人公の魅力は十分承知し、ドラマも楽しんでいるが、傍らにいる人物が真面目で勤勉であることはマイナスなのか、それはなぜ多くの場合、女性なのかと問う。そして、「実直に努力してきた真面目な女性が社会を変えるようなドラマも見たい」と書いた。

それから約1年後。22年9月に掲載されたコラムのタイトルは「ようやく実直な女性が主役に」だった。このときに放送されていた、著者待望の「実直な女性が活躍するドラマ」が、なんであったか。ここには書きません。ぜひ、本書で確認を。猛烈な勢いで過ぎていく「時代」とあの日の「テレビドラマ」を心に残していただくためにも。


テレビドラマは時代を映す
岡室美奈子著 ハヤカワ新書(早川書房) 2024年4月25日発行 1,100円(税込)
新書判/220ページ ISBN:978-4-15-340024-5

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