持続可能なスポーツ振興のために メディア間での協業システムを

川喜田 尚
持続可能なスポーツ振興のために メディア間での協業システムを

最近、スポーツ中継をめぐる放送のあり方についてある意味の"事件"が続いた。FIFAワールドカップカタール2022・アジア最終予選の日本代表アウェー戦をスポーツ専門の動画配信サービスDAZNが独占配信。ABEMAによる同大会の全試合生中継の発表。4月9日のボクシング村田諒太×ゴロフキン戦のアマゾンプライムビデオの独占配信。こういった事例が相次ぎ、スポーツとメディアについての話題がにわかににぎやかになった。この流れは今後も続き、いずれは事件ではなくなるかもしれないが、ここで放送とスポーツの望ましい関係について考えてみたい。

レイヤー分離で共存は可能

筆者自身の地上局とBSスポーツ専門局での経験や、研究から言えるのは、①スポーツ振興とメディアは切っても切れない関係であること、②人口に膾炙するためには複数のメディアで取り上げられること、③フリーTV(無料テレビ放送)が放送すること――これらがスポーツを盛り上げる3つの要素であるということだ。

①について、筆者がJ SPORTSに在籍した初期(1990年代半ば)に日本でマイナー競技として扱われた卓球やフィギュアスケートがいまや地上波のゴールデンタイムに編成されるなど、マイナーからメジャー化した多くの競技はテレビの多チャンネル化とシンクロしている。また、臨場感溢れる競技やアスリートの躍動する映像、アマチュア競技が放送・記録・保存される意義は絶大である。

②は、独占放送・配信は中長期的な視点から考えると必ずしもスポーツ振興には貢献しないとの指摘だ。独占から外れた競合メディアはその競技の情報を積極的に扱わない(扱えない)傾向があり、結果としてプロモーション効果が薄れてしまう。JリーグはDAZNから巨額の配信料を得たが、地上波の扱いが減ってしまいメディアによる観戦者数は理想的な結果になっていないのではと思う。

③は、なんとなくテレビをつけたら放送していたことから認知するアテンション効果、さらにそれを口コミやSNSで拡散するきっかけになるにはプッシュ型メディアが有効であり、波及効果のコストパフォーマンスにおいてもフリーTVの優位は揺るがないのでは、ということだ。ちなみに、権利ビジネスの領域ではNHKはノンスクランブルのため、世界的にはフリーTVの扱いとなっていてこの説のロジックと矛盾しない。

スポーツとメディアのポジショニング=レイヤーを次のように考えてみたい。地上波は決勝メディア(メジャースポーツ向け)、無料BSは準決勝メディア(準メジャー向け)、有料メディアは全部メディア(決勝以外も予選から日本戦以外も含め全部、学生スポーツやマイナー競技もカバーの網羅性で勝負)のポジションが適していると考える。この3つのレイヤーは視聴者層、損益分岐点が異なっており共存可能である。さらに活字系メディアも記事や特集、専門性などで広くカバーすればスポーツ人気の体制が整う。

甲子園の高校野球が国民的な行事になっているのは、夏の朝日新聞、選抜の毎日新聞の販売戦略に加え、民放とNHKが積極的に展開してきた相乗効果と無縁ではない。

2019年のラグビーワールドカップ日本大会は、日本戦はNHKと日本テレビがライブと録画で放送、J SPORTSは日本戦含め全試合を中継。ネットや活字メディア、ラジオ、さらに他の地上波チャンネルでも情報が発信されていた。同じゲームを複数局が中継する競合状態ではあったが、地上波はわかりやすい解説やルール説明を目指し、専門チャンネルは玄人受けする視点からの完全中継を売りにしていた。結果として地上波の視聴率はNHK、日本テレビが年間視聴率の1位41.6%、2位39.2%(ビデオリサーチ、関東地区調べ)を記録するなど事前の予想を上回る成功を収め、J SPORTSも加入者を大きく伸ばした。今もラグビー選手がCMやバラエティ番組に出演するなど人気は底上げされたといえよう。

日本的ユニバーサル・アクセス

筆者が教鞭をとる大学の専門ゼミでは、昨年3月に「Jリーグの可能性を極める」と題して同リーグにメディア戦略のプレゼンテーションを行った。発想のきっかけはバラエティ番組「アメトーーク!」(テレビ朝日)に注目したこと。研究開始時点で過去に「野球大好き芸人」は21回、「サッカー大好き芸人」は8回放送していたが、Jリーグをメインにした放送はなかったのだ。そこで、学生たちは地上波テレビでの話題性はファンの獲得と関係があるのではないか、と考えた。企画案は数十ページに及ぶので詳細は割愛するが要点は次のとおり。

▷地域の活性化のためにJリーグの地元地上波ローカル局中継は有効である▷クラブとローカル局が地元スポンサーを奪い合う構図の見直しが必要▷クラブのスポンサーメリットに地元局での試合中継を包含することで前述のジレンマはかなり軽減される▷DAZNはテレビのスポットCMの出稿を行っているがその使途の一部をタイムに移行するほうが効果的▷これらを検証することで地域活性化、クラブのチケット収入増、ローカル局の中継、DAZN加入者増の全てに作用するプラススパイラルが可能ではないか――これがゼミでの研究要旨である。これらを踏まえると、日本のコンテンツ業界で盛んに行われている制作委員会方式など日本独自の協業システムの検討が現実的課題ではないかと思う。

公共放送をベースに発展してきたイギリスや欧州諸国では、スポーツは公共財という「ユニバーサル・アクセス権」の考えからビッグゲームの無料放送が義務づけられている。一方、民間放送がメインのアメリカではスポーツ中継も経済活動の一つであり、自由競争が前提となっているため、その動きは積極的とはいえない。

ここまで述べてきた現状を考えると、日本は欧州的でもアメリカ的でもなく、従来型コンソーシアムでも、法的な義務でもない独自の方式を模索する時代になっているともいえよう。甲子園の高校野球はかつて"体育"が主たる目的であったが、いまスポーツ振興の視点で捉えると、短期的には社会貢献、中長期的には経済効果も期待できる広義の投資と捉えられる。NHK、民放地上波、有料放送、ネット配信、スポーツチーム、スポンサーなど全てのステークホルダーがSDGsの理念のもと持続可能なスポーツ振興に貢献できるような、法的な規制ではない日本的ユニバーサル・アクセスについて議論が進むことを期待したい。

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