山陰放送・森谷佳奈アナウンサー 想像を超えた縁を重ねて 失敗を転換できるラジオの良さ~「ラジオから提言!放送の未来」

森谷 佳奈
山陰放送・森谷佳奈アナウンサー 想像を超えた縁を重ねて 失敗を転換できるラジオの良さ~「ラジオから提言!放送の未来」

2018年5月から「民間放送」紙上で続いてきた、放送の未来を第一線の放送人に語っていただく当リレー連載。今回登場するのは、第59回ギャラクシー賞ラジオ部門でDJパーソナリティ賞を受賞した山陰放送の森谷佳奈アナウンサー。


BSSラジオで『森谷佳奈のはきださNight!(月、20002200)がスタートして6年が経ちました。日常で感じるモヤモヤやイライラといった感情をはきだせる場所を軸として、火曜日からの活力になるような番組に、また「SNSであなたとつながる新感覚ラジオ」をモットーに、ラジオとツイッターを連動させ、よりリアルタイムな会話を楽しんでもらえる番組を目指して制作しています。

番組を始めた当初は、BSSラジオにはツイッターを使った番組はありませんでした。そのため、昔から聴いてくれているリスナーの方々にはなかなか浸透せず、苦労しました。「ラジオを聴きながらツイッターを使う理由などわからない!メールでいいじゃないか」と言われたこともありました。それでも私がツイッターにこだわったのは、入社当時から感じていたラジオへの「ラグ(時間差)」でした。別番組でトークをしていた際、FAXやハガキ、メールでリアクションをいただいたのですが、すでに次の話題に切り替わっていて、せっかくの投稿が読めずに終わってしまったのです。もしも、そのリアクションがツイッターで送ってもらえていたらすぐに読み上げられたのに、とモヤモヤしたのを覚えています。ただ、「送ったものがいつ読まれるかわからないワクワク感」もラジオの良さであり、自分の番組でどこまで取り入れようか迷いました。

その結果、それまでにやっていなかった新たな試みでリスナー層を新規開拓すべきと思い、20164月、ツイッターとメールをメインに番組をスタートしました。当初は「ツイッターで参加して」と呼びかけても投稿数は数えるほど。心が折れそうになりながらも、ツイッターの使い方を毎週のように説明していました。そんなとき転機となったのは、番組開始直後にTBSラジオで放送された『爆笑問題の日曜サンデー』内の「全日本ラジオ新番組選手権」というコーナーでした。その企画でグランプリをいただいたことで、翌週の放送では「TBSラジオからきました」とエリア外のリスナーが一気に増えたのです。ツイッターにはそれまで見たことのない「実況ツイート」が投稿されていて、初めてやりたいことが形になったと感じた瞬間でもありました。これをきっかけに、既存のリスナーもそれをまねてツイッターで投稿してくれるようになり、今の「放送実況スタイル」ができました。

さて、「radiko」がある時代、全国どこにいても好きなエリアのラジオ番組を聴くことができます。これは地方局にとってかなり味方になってくれていて、どこの放送局とも同じ土俵で番組を制作できるチャンスでもあるように感じます。先述したとおり、「TBSラジオがきっかけで聴いています」とエリア外からも聴いてくれる時代です。これにのっかり番組では、47都道府県リスナー制覇という企画にも挑戦しました。183月、「残るは高知県リスナーのみ」という状況では、ツイッター上でリスナーが分布図を作り拡散してくれました。おかげで企画は無事に達成し、ラジオとSNSの親和性を強く感じました。また、リスナーと一緒に番組を作るという『はきださNight!』のスタイルも徐々に出来つつあったと思います。

オンエア内で他局の番組を話題にしたところ、パーソナリティといつの間にか仲良くなっていた、という面白い出会いもありました。これがきっかけで番組同士コラボをすることになったり、想像ができないご縁にラジオならではの可能性を感じています。このように、普通に過ごしていたら出会えない素敵な縁がたくさんあるので、これからどんな人と出会えるのかも楽しみのひとつです。

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実は、あまり大きな声では言えませんが、私は入社するまであまりラジオを聴いてきませんでした。最初はそれがコンプレックスでしたが、知れば知るほどラジオの面白さにはまっていく自分がいました。そのとき、「ラジオを聴いていない若い世代も聴くまでの導線が長いだけで、聴いてみたらハマってくれるのでは」と考えるようになり、ラジオに触れるきっかけを工夫するようになりました。例えば、スタジオの様子をすべて見せるユーチューブライブ配信。これはエリア外の人へ「お試し」感覚で番組を聴いてもらえるように取り入れています。また、お小遣いの関係でradikoプレミアムへの加入を迷っている中高生が聴いてくれることもあります。その子たちが「大学生になったのでプレミアム会員になって聴いています!」と投稿してくれたときにはすごく嬉しかったです。目標とする最終着地点はラジオですが、それに行きつくアクセス方法は時代に合わせて作っていかないといけないのかもしれません。

また、ラジオを「見せる」ことで人気になった「今夜のあて」というコーナーがあります。放送中にスタジオで料理をして試食するコーナーで、当初はスタジオで何かを食べるだけでしたが、これも時代に合わせた工夫を凝らしました。臨場感のある音が楽しめるASMRが流行していることから、あえて咀嚼音に特化した音をマイクにのせてみました。さらに、せっかくライブ配信しているのなら、それを活かして生クッキングができないかと、生放送中の調理にも挑戦。「きちんと調味料が量れていない!」「まだフライパンが温まっていない!」といったハプニングもあるため、ツイッターでは実況ツイートが一番伸びる時間です。ユーチューブライブ閲覧者数もピークになっていて、ラジオとSNSが完全融合したコーナーとなりました。

『はきださNight!』は、幸いにも番組開始時のラジオ局長が「何でもやってみていい」と言ってくれたことや、ディレクターが上司であったために、「やりたい」を「やってみよう」に変えやすい環境に恵まれていました。そこから分かったことは、一人でも周りに味方を作ることの大切さです。若手の力だけでは突破できない壁がありますが、一緒になって「楽しい」を実現してくれるチームに支えられて今があると思います。放送局によっては「ラジオとはこうあるべきだ」という考えが優先される場合があると思います。それは正しくもあるのですが、一方で制限にもなってしまいます。まずは固定概念を取っ払い、「無理」と言われることでもやってみることが、これからのラジオには必要なのかもしれません。そのためには、やはり味方は多い方が良いと実感しています。やってみて、失敗することもたくさんありました。ただ、失敗から生まれる発見もありますし、失敗を面白い話題に変えられることもあったりします。それがラジオの良さでもあると思いますので、臆することなくこれからもラジオでしゃべり続けたいです。そして、未完成な私のトークを楽しんでもらえると嬉しいです。

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