平成から令和へ――メディア環境が激変し、成熟から混迷の時代を迎えたともいえるこの30年、テレビは社会をどう映し出してきたのか。7月29日から9月19日まで横浜の放送ライブラリーで開催中の企画展「テレビとCMで見る平成令和ヒストリー展2022」を訪れた。
エントランスをくぐってまず目を惹くのが、パネル展示だ。1989(平成元)年から昨2021(令和3)年まで、1年ごとにその年に話題になったテレビ番組や出来事を1枚のパネルで紹介する。
例えば、91年は『東京ラブストーリー』とともに大ヒットした『101回目のプロポーズ』(フジテレビ)、94年は「同情するなら金をくれ!」の『家なき子』(日本テレビ)、2002年はいまなお続く『相棒』シリーズ(テレビ朝日)のスタート、13年は「倍返し」が流行語となった『半沢直樹』(TBSテレビ)、19年『きのう何食べた?』(テレビ東京)......と、その年を象徴する番組の写真で、当時の記憶が鮮やかに蘇える。
パネルの右下にはその年に日本レコード大賞を受賞したレコードやCDのジャケットの現物も。
<パネル展示にはその年の『TVガイド』誌やコラムも>
同ライブラリーは2019年夏に「テレビとCMで見る平成ヒストリー展」、21年春に「テレビとCMで見る平成+令和1~2ヒストリー展」を開いた。テレビ史を辿る企画としては、コロナ禍の影響が続いた昨21年の動きを加えての3回目となる。毎回、新たな年のパネルを加えるとともに、2回目は19年末から始まったコロナ禍を反映して「コロナ時代の番組制作」のコーナー、3回目は「これからのテレビ~コロナを経験して~」のコーナーで現場の制作者の声を紹介している。
1年分のパネルと、そこに添えられたコラムニスト・ペリー荻野さんによるエッセイ、情報誌『TVガイド』の歴代編集長による裏話も含め、じっくりと眺め、読み込むだけで1年分だけで軽く10分以上。33年分すべてを読み込むとしたら半日は必要だ。
私ごとながら、民放連が昨年刊行した『民間放送70年史』の編集に携わった立場として、直近20年間(2001年以降)の番組史・CM史、社会風俗史の部分の記述が弱かったことは否めない。会場の「CMコーナー」で上映されているACC賞の受賞作品やCMクリエイターによる寄稿、『ACC年鑑』の展示も含め、それを補って余りある情報量だ。同年史と、ライブラリーの史料的蓄積がもっと早い段階でコラボできていれば......と悔やまれる。今後、周年を迎えて社史や年史の編集を考えている放送局には、この展示物は大いに参考になるはず。担当者はぜひ出かけてみてはいかがだろうか。
会場で次に目を惹いたのが、『TVガイド』誌(東京ニュース通信社発行)の表紙だ。その数、ゆうに200点超。1962年に創刊し、今年60年を迎えた同誌。昭和を彩る大スターやスポーツ選手をモデルにした昭和時代の表紙から、平成・令和には人気アイドルやジャニーズ系のタレントへとシフトしていく変遷は、そのまま"目で見る日本のテレビ史"でもある。
同社とのコラボで実現した企画だが、実は展示されている同誌はすべて同ライブラリーを運営する放送番組センターの所蔵物だという。マニアならずとも垂涎のコレクションだ。「編集部にもバックナンバーは揃っていますが、すべて合本に綴じて保管しているので、現物をこういう形で展示するのはわが社でもできません」と同誌の武内朗・元編集長。ちなみに、武内さんは前出の『民間放送70年史』でテレビ番組の項目を執筆いただいた「TVガイドアーカイブチーム」の代表でもある。武内さんからは同誌の判型が途中から変わったこと、表紙の「TVガイド」のロゴが数度の変遷を経ていることも紹介された。見慣れたロゴにも隠された秘話があったんですね。
<今年創刊60年を迎えた『TVガイド』誌を一堂に>
会場の一角、「平成おもちゃ箱」も必見だ。『美少女戦士セーラームーン』のフィギュアやノベルティ、「たまごっち」や「ゲームボーイ」の実物、ミニカーなどがガラスケース内にぎっしりと。平成の時代、誰もが一度は手にしたことのある懐かしい品々。これらは、平成元年生まれのスタッフの私物だという。期間中、親子で訪れた来場者がしばし時間を忘れて足をとめるほどの人気だった。
今回の展示にちなんで、8月8日に座談会「平成令和テレビ談義」の収録が行われた。前出のコラム二スト・ペリー荻野さんを司会に、早稲田大学演劇博物館の岡室美奈子館長、『TVガイド』誌の武内朗元編集長が登壇。時代を1989(平成元)~1998(平成10)年、1999(平成11)~2008(平成20)年、2009(平成21)~2018(平成30)年、2019(令和元)~2021(令和3)年の4つに区分。パネルで紹介されたそれぞれの年の人気番組や社会の出来事をもとに、思い出の番組を語り尽くした。
その模様は以下で全編を視聴できる。
★プログラム1 (PART1=平成元~10年、PART2=平成11~20年)㊤
★プログラム2(PART3=平成21~30年、PART4=令和元~3年、番外編 =ローカル・ドラマ)㊦
読者の皆さんは、それぞれの時代でどんな番組が最も印象に残っているだろうか? パネリストそれぞれが選ぶ「マイベスト」とともに、思いをめぐらしていただきたい。
テレビ草創期から全盛期といわれる昭和に比べ、ネットの台頭でいま放送コンテンツの力が弱まっているのではないかという指摘もある。これに対して、座談会では特にテレビドラマを例に「ネットドラマのクオリティは格段に上がっている。だからといってその場をネットに譲るのではなく、誰にでも開かれているテレビという場で作品をつくり続けていくことが大切」(岡室さん)、「"朝ドラ""大河ドラマ""日曜劇場"......平成以降、地上波テレビの"枠の力"が強い。タイムシフト視聴が一般化しても、地上波ならではの"枠"や"時間枠"をブランディングしていくべき」(武内さん)。こんな心強いエールが相次いだ。
放送に携わる方々にも、この座談会にはぜひ耳を傾けていただきたい。
<懐かしい話題に花が咲いた座談会の収録風景>
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なお、同ライブラリーでは上映会「ローカル・ドラマ紀行」も開催中だ。所蔵番組のなかから、全国各地の放送局が制作した郷土色豊かで地元愛に満ちたテレビドラマ11本をセレクト。東日本編と西日本編の週替わりのプログラムで連日上映している。
地方局が制作するドキュメンタリーを劇場で公開して世に問う動きが近年活発化している。一方、数は少なくなったとはいえ、地方局では自社制作のテレビドラマ制作に挑む傾向は続いている。地元だけでなく、系列局や独立局への番販やオンライン配信で広く世に問う環境が整ってきたことも背景にある。しかし、こうした各局のドラマを一堂に集めて、リアルに一般に無料で上映する試みは初めてといってもいい。
すでに同ライブラリーでは「番組を視聴する会」など、公開番組の上映会を行ってきているが、このほど新たに「BLセレクション」のブランドで、各局が制作したコンテンツを広く紹介するなど、新たな切り口での展開を図っていくという。その皮切りとして、今回のローカル・ドラマが選ばれたという。同ライブラリーを運営する放送番組センターの斎藤信吾専務理事は、そのねらいをこう語る。「ライブラリーは全国の民放各局とNHKに支えられている。しかし、ローカル各局にはライブラリーの活動が充分に浸透しきれていない部分もある。その成果を広く一般にも知らせ、各局にも還元したい」。各局のコンテンツ制作を応援する意味でも時宜にかなった意義深い試みといえよう。
レギュラー化が望まれるが、まずは4日まで開催のローカル・ドラマにぜひとも足を運んでいただきたい。