東京・大阪以外の全国37社の民放AMラジオのローカル局が加盟し、共同で番組制作に取り組んでいる地方民間放送共同制作協議会(火曜会)が、9月8―9日、オンライン形式で第54回研修会を開催した。「変わりゆく世界~現実とラジオと」をテーマに3つの講演・トークセッションを通じて、キー局、ローカル局、音声プラットフォームそれぞれの視点からコンテンツ制作やマネタイズのアイデアなどを紹介した。
1日目は、ニッポン放送コンテンツプロデュースルームの冨山雄一氏(=写真)が「オールナイトニッポン55周年 ラジオのアップデート」と題して講演を行った。現在は、ラジオ(アナログ)とradiko(デジタル)の概念が混在している過渡期と説明。radikoやポッドキャストに"聴きに来てもらう番組"を主軸に制作しており、「地方のラジオ局もradikoの画面上にあれば、横一線だと思っている」と語った。
マネタイズの方法については、コンテンツのマルチユース化として▷ライブイベント▷放送内容のWEB記事化▷スタジオの様子の動画配信▷公式ファンクラブ▷他業種や他メディアとのコラボ企画――を紹介。リスナーが好きな番組を応援したい気持ちは昔より強くなっていると解説した。また、「『ANN』のメインターゲットは10代の受験生だと思っていたが、radikoデータから20代だとわかり、継続して聴取してもらうために短期間でのパーソナリティ交代は行わない」と明かし、番組作りについて「経験」と「熱量」から「データ」と「熱量」へのアップデートを説いた。
2日目のトークセッションは「ローカル局でもできる!強いコンテンツづくり」がテーマ。大阪放送(OBC)の『It's SHOWTIME !』、静岡放送(SBS)の『週刊!しゃべレーザー』、ラジオ関西(CRK)の『マユリカのうなげろりん!!』の各担当者が番組内容と取り組みを紹介した。
<左から初田実氏、寺田亮介氏、神吉将也氏>
OBCは放送ビジネス本部営業開発部長の初田実氏が、「ファン有志がお金を出し合ってラジオ番組枠を買って、少年隊の楽曲だけを流す番組」とコンセプトを説明。当初は4回限りの予定だったが、東山紀之さん本人からのリクエストがきっかけで、radikoプレミアムで全国のファンに広がった結果、レギュラー番組に。この流れは「スポンサーでもあるリスナーの究極のソリューション」と語った。
SBSは東京支社ビジネスセンター営業部の寺田亮介氏が、東京支社の営業発で立ち上げ、2022年4月からはニッポン放送ポッドキャストでも配信している番組の概要を説明。営業発のメリットとして、仕込みにある程度の自由度があることを挙げた。また、番組への接触機会を増やすために配信を行い、反響を得ていると紹介した。
CRKはデジタルビジネス推進室の神吉将也氏が、改編で月1から年4回の放送に減少した番組がポッドキャストで息を吹き返した理由を解説。リスナーからの課金で稼いだ分だけ制作する"ガソリン給油型ラジオ"として、グッズ販売やイベント開催、話題化を狙った男性芸人初のビキニ写真集の発売などの取り組みを紹介。「よいコンテンツがあったら全力で知ってもらう努力が必要」と語った。
続いて、Voicy代表取締役CEO緒方憲太郎氏と朝日放送ラジオ(ABCラジオ)東京支社メディア推進部の中内純子氏の講演が対談形式で行われた。
<左から緒方憲太郎氏、中内純子氏>
音声プラットフォーム「Voicy」の創業者、そしてビジネスデザイナーの視点から緒方氏は、「ラジオは40年前からフォーマットを変えていない点で努力していない」と指摘し、「社会で流行っているものを勉強する熱量が重要」と語った。
ABCラジオはVoicyとタッグを組んだ番組『緒方憲太郎の道に迷えばオモロい方へ』をきっかけに、平日夕方に放送している"受験番組"をVoicyでも配信しており、中内氏は「スケールが武器のラジオとは違うユーザーに届くことを、広告主に付加価値として提供できる」と語った。
マネタイズについては、他のメディアの媒体資料を活用しているかという緒方氏の問いかけに対し、中内氏は、ラジオ単体ではなく他のメディアと組むことで売れることが多いとして「(連携するメディアの)媒体資料を読まないと売り方も思いつかない。パートナーとして補完できるところを加えることにより、魅力的なパッケージになる」と説明した。
最後に緒方氏は、Voicyが海外駐在員から日本語が聴けるプラットフォームとして感謝されていることを紹介。東京に出てきている人たちの方が、地元の情報を知りたがっているとして、「インターネットに上げたコンテンツはどこからでも聴けるので、地方だからこその魅力を届けてほしい」とエールを送った。
参加者からは、緒方氏と中内氏の講演について「今までにないタイプの切り口で面白い」「役員や会社全体で共有してほしい」などの声が寄せられた。