東海テレビドキュメンタリー劇場の第14弾となる『チョコレートな人々』が、1月2日の東京・ポレポレ東中野や愛知・名古屋シネマテーク、大阪・第七藝術劇場、福岡・KBCシネマを皮切りに全国で順次公開されている。監督は、2011年公開の同劇場第2弾『青空どろぼう』を手掛けた鈴木祐司氏。
本作の主な舞台は、愛知県豊橋市のチョコレート専門店「久遠チョコレート」。障害者の賃金保証を目指してパン工房や社会福祉法人などを運営してきた夏目浩次さんが2014年に創業し、現在では日本各地に拠点を構える。約570人の従業員のうち6割に障害があるほか、子育てや介護中、セクシュアルマイノリティ、引きこもりの若者など、多様な働き手を抱えている。夏目さんを中心とした久遠チョコレートの人々の日常を通して、"誰しもが自分らしく働くこと"の意味を問いかけるドキュメンタリーだ。
<鈴木祐司監督>
小学生の頃、障害のある児童と一緒によく遊んでいたという鈴木監督。年齢を重ねるにつれ、その存在が特別視されて給与などの待遇が劣ることをおかしいと感じるようになり、福祉や社会課題の解決に対する関心を強めていった。監督が豊橋市の車椅子専門店を取材していた際、隣でパン工房を開こうとしていた夏目さんに「僕も取材して」と声をかけられたことが出会いのきっかけ。障害者雇用のモデルケースを本気で作ろうとする夏目さんの姿に心打たれ、取材を重ねるうちにいつしか"行きたい場所"になり、約20年におよぶ付き合いが続いている。
取材の成果は04年の番組『あきないの人々~夏・花園商店街~』のほか、夕方ニュースでも発信。本作の基になった21年3月の放送版『チョコレートな人々』は民放連賞テレビ・グランプリに輝いた。オンエア後、夏目さんのもとに「久遠チョコレートで働きたい」という申し出が600通も殺到したことを受け、多様な人々が働く職場作りの取り組みを複数取材。今年5月に『#職場の作り方』として放送した。本作には同番組の要素も含め、1年半の追加取材を盛り込んでいる。
<久遠チョコレートの夏目浩次さん>
その品質の確かさから、デパートの催事販売にもたびたび出店している久遠チョコレート。障害、育児といった従業員の事情や、"細かい作業が得意"などのそれぞれの資質に合わせて、会社側が柔軟に対応し働きやすい環境を整備している。放送では丁寧な説明やコメントを付けがちだが、映画はゆったり鑑賞できるようにナレーション、構成を練り直し、放送版を担当した宮本信子さんに再び読んでもらった。放送のように尺を気にせずにすむものの、当初は伝えたい要素が多すぎたため、場面を削るのに阿武野勝彦プロデューサーらの力を借りた。「適材適所のチームワークで乗り越えるのが東海テレビのスタイル。撮影の中根芳樹さん、編集の奥田繁さんには特に助けられた。でこぼこでもフォローし合える人材を阿武野プロデューサーが育ててきたからこそ、この映画も実現できた」と、自社の"働き方"と重ねて制作を振り返った。
そんな本作を「若い人や学生に一番見てほしい」という監督。「いろいろな人が助け合ってこその社会。その大切さを感じてもらえれば」。さらに、レベルの高いチョコレートブランドを追求して事業を拡大するビジネスマン=夏目さんの姿から、企業経営者にとってはリーダーとして参考になる部分が多いとみている。「久遠チョコレートは優しくて居心地の良い場所だが、劇場の外に出ればそうではない現実がある。この作品を見た人には、その差をそれぞれ考えてほしい」。
1月7日には第七藝術劇場と京都シネマで、翌8日にはKBCシネマで鈴木監督と阿武野プロデューサーによる舞台あいさつを予定している。