「クリエイティブで地域を元気にするヒント」~ローカル局のひとつの新しい可能性に

田中 淳一
「クリエイティブで地域を元気にするヒント」~ローカル局のひとつの新しい可能性に

広告会社から独立し、2014年にCreativity for local, social, globalを掲げてPOPS社を設立して8年が過ぎました。現在、仕事をしている地域は40都道府県に及びます。認知度向上、観光、移住定住などを目的とした自治体のシティプロモーションや地域企業のブランディングや商品開発、プロモーションを手がけています。自分が手がけてきた地域のクリエイティブ案件の事例をいくつか紹介しながら、 "クリエイティブで地域を元気にするヒント"を探っていければと思います。

Case1:鳥取市"すごい!鳥取市"

「うちは砂しかないんで」「スタバもセブンもありません」(*現在はあります)

TSKさんいん中央テレビを通じて、鳥取市からシティプロモーション案件の依頼があり、事前準備として現地の方々に取材をさせていただいた時に出てきた言葉です。僕は鳥取市の良さを聞こうとしたのですが、市民から出てくる言葉は、ネガティブなものばかり。であればと、仮にこんなコンセプトでどうでしょうと打合せで提示したのが、"なんにもない市、鳥取市"。すると、みなさん一斉に怒って。「自分で言うのはいいけど、よそ者のあなたには言われたくない」と。そのとおりですよね。その時、気づいたのが、市民は鳥取市に対して誇りがないわけじゃなくて、その意識が眠っているだけなんだと。

【枠付き】151019表紙+帯.jpg

<ガイドブックでシビックプライドを向上

実際に提案して実施したのが"すごい!鳥取市"。鳥取市はすごいものがたくさんあるんだと自ら宣言してしまって、宣言したからには、市民みんなで責任持って鳥取市のすごい! を見つけていきましょう、というストーリーにしました。市民ワークショップを開き、自分たちであらためて発見した"すごい!鳥取市!"ネタを100個選出してもらいました。ワークショップで出たネタは特設サイトで公開し、その後、そのネタをもとにした写真集を全国出版。これは、鳥取市をプロモートすることはもちろん、自分たちのネタが写真集になって全国の書店に並ぶ、という体験を鳥取市民の人たちにしてほしかったから。どんなにシティプロモーションで知名度が上がっても、シビックプライドが向上しなければ地域は元気になっていかないと考えました。この写真集がキッカケとなり市民交流が活発になったり、地元の観光タクシー協会がまとめて購入しガイドブックとして活用し、新しい観光案内が生まれたりしています。

Case2:今帰仁村観光協会"今帰仁ベンチ"

「ドローンでドーンといい動画をお願いします」

今帰仁村(なきじんそん)観光協会からの依頼は観光プロモーション用の動画制作でした。今帰仁村は沖縄の北部に位置し、世界遺産の今帰仁城跡、海や浜など手つかずの自然も多く残る風光明媚なところなので、それをそのまま映像にするだけでも十分人を呼べるものになると説明がありました。ではどんな観光客に来てほしいですか? と尋ねたところ、「誰にでも来てほしいわけではない、村を荒らされるのは嫌だ」と。動画が話題になって、たとえば大勢の若者が週末にやってきて映えスポットとして賑わったりするのは求めていないというのです。今帰仁村のある沖縄北部は南部に比べると観光開発で遅れをとっていたりするのですが、その分、ゆんたく(家の前で地域の人たちが集まっておしゃべりをする)など昔ながらの風習が残り、地域の人たちのつながりが強いのが特徴です。観光地として人は呼びたいけれども、自分たちの地域のつながりは大事にしたいと。「あんた、どっから来たね?」村を歩いていると、ほぼ100%声をかけられます。中には「もうお昼ご飯食べたの?」と心配して食べさせようとしてくれる人も。

スクリーンショット 2022-12-16 17.12.34.jpg

<村人たちに囲まれるドラマのワンシーン

実際に村を歩き取材したうえで、動画のコンセプトを"Slow Okinawa"とし、ドローンをつかったダイナミックな空撮映像ではなく、傷心でひとり旅をする女性を主人公にした『今帰仁ベンチ』という短編ドラマを制作しました。今帰仁にしかない沖縄は、海の青さよりも世界遺産よりも、今帰仁の人の中にある、と伝えました。東京から一人で訪れた女性と今帰仁の村人たちとの人間模様が主で、風光明媚な今帰仁の自然や風物は従。一人になりたいとやってきた女性と、それをほっとけない村人たちの様子。「ひとりでいても、ひとりじゃない場所を探してたんだ。何にもないけど、なんだか満たされる場所。ここはSlowな沖縄、今帰仁村」という彼女のせりふで終わります。この動画を見て、一人旅で訪れる人が増えているそうです。地域のプロモーションは派手さを追求するだけでなく、地域の許容量を把握しながら、持続可能な未来をデザインしていくことも大切だと、僕自身気づかされた仕事です。

Case3JA宮崎経済連"世界遺産 by 宮崎牛"

MRTアド(MRT宮崎放送のグループ会社)からの依頼で宮崎牛のプロモーションを担当しました。5年に1度開かれる和牛のオリンピックと言われる大会「全国和牛能力共進会」を契機として、宮崎牛のプレゼンスを高めたいというお題でした。その際、考えたのが宮崎牛の美味しさを国内だけでなく、世界へと伝えていくということ。国内での需要だけでなく、SNSを駆使すれば宮崎から海外へとダイレクトにプロモーションできる時代です。宮崎牛を素材にしたフードアートでピラミッド、グランドキャニオン、エアーズロック、富士山という4つの世界遺産を表現しました(=冒頭画像)。単に宮崎牛の素晴らしさを伝えるだけでなく、コロナ禍で海外旅行に行けてない世界中の人たちに、最高峰のお肉で巡る海外旅行を贅沢に楽しんでもらえたらと企画しました。宮崎牛を皮切りに宮崎の名前が世界に知られていくことは、他の県産物のPRにつながる可能性があります。地域産品のブランディングをする際には、対象物以外への波及効果も意識するようにしています。

地域の魅力を発信する時の視点

自治体のシティプロモーションや地域企業、地域産品のブランディングやプロモーションをたくさん手がけさせてもらっていますが、地域にはまだ伝えきれていない魅力が多くあると感じます。ただ、残念なのがその魅力に地域の人たち自身が気づいていないということ。その大きな理由が、自分たちの魅力を伝える際のターゲットをきちんと把握していないことだと思います。どこのどんな人に地域の魅力を伝えるのかについてしっかりフォーカスする。その視点が欠けていると思います。相手側が求めていること、興味のあることと、自分たちの地域の持つ魅力がマッチする部分を探していくことが大切です。今帰仁村であれば、豪華なリゾート施設はないけれども、人懐こい村人たちとの触れ合いがある。都会で疲れた人たちの中には、そんな人との触れ合いを欲する人たちがいる可能性が高い。自分たちが持っている魅力が勝負できるフィールドをリサーチし、そこに地域の魅力をアジャストさせていくことが大切です。

もうひとつは、地域住民の人たちの体温を上げていくこと。鳥取市のように一見、自虐的に見えても、やはり自分たちの住む場所には誇りを持っているものです。ただ、地域住民の特性は日本中千差万別なので、その地域特性に合った処方箋を用意する必要があります。ほかの地域で成功したやり方をそのまま持ってきたり、上から目線で押しつけたりするとシビックプライドには結びついていかず、地域住民の気持ちは離れていきます。どんな地域でも一番の魅力はそこに住む人。地域人材のプライドを保ちながらどのようにして、魅力化し発信していくかはとても重要な視点です。

地域にはクリエイティブが有効

地域から情報発信をしていくには、もっとクリエイティブ力を活用してほしいと思います。超情報過多の時代に生きる生活者は、自分に不要な情報をスルーする能力がどんどん高まっています。もはや情報発信において、正しいことを、正しく伝えるのは正解ではないと考えます。スルーされないためには、理性ではなく感情に引っかかることができるかどうか。泣けるドラマ、感動を覚えるくらいのクラフト力など、人の感情を鷲掴みにする何かを施すことが伝わっていく鍵になります。これは予算の限られている地域からの情報発信であればなおさらです。全方位的にコストをかけられないのであれば、まずはアイデアだけは感情に突き刺さるものを考える。そして、制作の段階では1点突破でいいので集中投資してクリエイティブ力を上げていく。そうすることで、地域から日本中、世界へと広がる情報発信が生まれていくと考えます。

ローカル局の今後の可能性

個人的にはローカル局には地域を題材としたコンテンツメーカーとしての可能性があると思っています。これからますます映画やテレビドラマ、ドキュメンタリー、アニメ、音楽、マンガ、文学など、コンテンツファーストの時代が強くなってくると感じています。コンテンツが載る場所はテレビやSNS、紙媒体など時代によってこれからも変化し続けていくと思いますが、変わらず大切なのはコンテンツ力。ローカル局の強みは、その地域をよく知っているということ、そしてそこにいる人を深く追えるということ。媒体者としてだけではなく、コンテンツメーカーだと自覚した時に、いろんな可能性の扉が開けてくるのではと思います。地域にはまだ脚光を浴びていない素材もたくさんあると思いますし、域内だけを視聴ターゲットとしないコンテンツづくりをもっともっと意識すれば面白いと思います。域外を意識することで、地域の魅力の伝え方、アピールポイントへの視野も広がってくるはずです。地域で暮らす人々をより深く知り、そこから地域外の人が求めているコンテンツをつくり出していくことに、ローカル局のひとつの新しい可能性があると思います。

最新記事