2022年7月8日、安倍晋三元首相が演説中に銃撃され死亡した。殺人罪などで起訴された山上徹也被告の供述をきっかけに、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)について指摘されている不当な布教活動などの問題があらためて注目され、政治家とのつながりや被害の実態が明るみになった。
事件からまもなく1年。放送局はどのように報道してきたか、そして今後は......。チューリップテレビ、読売テレビ、同問題に取り組んできた阿部克臣弁護士に、それぞれの視点から「これまで」と「これから」を執筆いただいた。今回は読売テレビ『情報ライブ ミヤネ屋』のチーフプロデューサーを務める内田昌宏氏。
2022年7月8日(金)、オンエアまで2時間前となり、いつものように準備を進めていた『情報ライブ ミヤネ屋』(月―金、13・55―15・50、以下、『ミヤネ屋』)スタッフの面々。そんな中、NHKのニュース速報は、スタッフルームのそれまでの空気を一変させた。
「安倍元首相 奈良市で演説中に倒れる 出血している模様 銃声のような音」
もともと予定していた内容をすべて差し替え、番組の全時間を割いて、大阪のスタジオからこのニュースを伝えた。刻一刻と変わる状況や新たに入ってくる情報の扱いに忙殺され、あっという間に過ぎた2時間だった。このときから、政治的な意図を持った者の犯行だとは容易に想像できたが、その背景として「旧統一教会」の名前が出てくるまでにかかった時間は、予想以上に短いものだった。
連日報道のきっかけ
3日後の11日(月)、午後から世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は記者会見を開いた。安倍晋三元首相銃撃事件に関連し、教団の見解を示すためだという。この日が『ミヤネ屋』にとって、その後旧統一教会について報道し続ける大きなきっかけとなったことは間違いない。というのも、当初から山上徹也容疑者の犯行の動機として、旧統一教会の名前は浮かんでいたのだが、「信教の自由」の観点などから、宗教団体をこの事件との関連報道で取り上げることは、容易ではなかったからである。しかし、彼ら自身が公の場に姿を現し、会見で語った内容により、その後の大きな展開につながることとなった。そのポイントは、山上容疑者の母親が教団の信者であったこと、そして安倍元首相が教団にビデオメッセージを送っていたことだ。
「母親が宗教団体にのめり込み、多額の寄付をするなどして家庭生活がめちゃくちゃになった」
これは山上容疑者の事件直後の供述であるが、取材を進めると、同じような状況にある家庭がほかにも多くあることがわかった。旧統一教会をめぐっては、悩みにつけ込み不当に高額なつぼや印鑑などを買わせる「霊感商法」との関連が取りざたされたほか、教団の決めた相手と結婚する「合同結婚式」、そして教団名を隠した信者勧誘などが1980年代以降、社会問題化した。その後しばらくしてからは、大きく報道されることはなくなったが、この間も旧統一教会の被害者は絶えることはなかったのである。
被害者の状況伝えることを基本に
こうした取材に際しては、長い間活動を続けてきた被害者弁護団の方々からたくさんの情報を提供いただいた。多くの被害者が悩みを抱え、訴訟に発展したことは、報道するにあたって十分な内容であった。また、取材を通じてつながることになった、小川さゆりさん(仮名)や橋田達夫さんといった旧統一教会の被害者の方々は、自らの顔を明かしたうえで、その窮状を番組で訴えてくださった。このような方々の力をお借りして、番組が成り立っていたことは紛れもない事実である。
社会問題となった時から30年ほどが経過していたが、この間苦しんでいた方々は、われわれが知る以上に多くいるのであろう。今回、番組で取り上げていく中では、私たち報道機関が30年もの間、この問題を取り上げてこなかったという自己批判とも向き合う形となった。日本では「信教の自由」が保障されている。信者自身の意思で寄付を行う行為は、その善悪をわかりやすく決めることは難しく、実際に旧統一教会に関する報道の扱いは、特に当初は、各社で対応に差があったように感じている。しかし、被害を訴えている人々の声に耳を傾け、その理由に少しでも納得できるところがあるのであれば、その状況を伝えることが報道の社会的役割であるという基本的な考えのもと、『ミヤネ屋』は旧統一教会報道を続けていった。
番組メインキャスターの宮根誠司氏自身も「山上容疑者の行った行動は決して許されることではない」としたうえで、旧統一教会の被害者の声に真摯に耳を傾け、この状況を積極的に発信すべきという姿勢を示してくださったことは大変心強かった。また、この間にSNS等で発信された、これまではあまり見たことがない"番組を後押しする声"が広がっていたことも、私たちの背中を押してくれたことを付記しておきたい。
今後も報じていく
旧統一教会問題が注目されたのは、政治と旧統一教会につながりがあったことも大きな要因であろう。安倍元首相が教団にビデオメッセージを送っていたことのみならず、自民党をはじめ、各政党が旧統一教会と関わっていたこと、そして選挙にもその影響が及んでいたことは、大きな関心事であったことは間違いない。その後各政党は、旧統一教会と距離を置くことを表明する流れとなった。政治と旧統一教会の問題については、この問題を以前から取材していた鈴木エイト氏に大変お世話になった。鈴木氏はこの問題を取材してきた第一人者としての自負もあるはずだが、私たち番組の取材方針やスタンスなども理解してくださり、連絡を密に取りながら報道を進めていった。
安倍元首相銃撃事件発生から1年となり、『ミヤネ屋』も含めて、旧統一教会のニュースが扱われる機会は減ってきている。政府はこの原稿の執筆時点で、6回の質問権を旧統一教会に対して行使している。その一方で、旧統一教会は5月に韓国で合同結婚式を開くなど、その活動は続けられている。山上被告の裁判も進もうとしている中、果たして解散請求は出されるのか? そして教団は今後どこへ向かうのか? 今後も『ミヤネ屋』では節目となるところでは、その報道を続けていきたいと考えている。