投稿「職人」の熱量をどう取り込むか ラジオの味方を増やすために

入江 たのし
投稿「職人」の熱量をどう取り込むか ラジオの味方を増やすために

ラジオに投稿するリスナーの中で、よく読まれる投稿者を「職人」と呼ぶようになったのは、いつの頃からだろうか。おそらく深夜ラジオのパーソナリティ番組の出演者が、アナウンサーからミュージシャンに、そしてテレビや舞台で活躍する芸人などに変わっていくあたりの時代からだと思う。常連であり他のリスナーも認める投稿者は「はがき職人」というのが当初の呼ばれ方で、投稿の手段が変わった今は「メール職人」とも言われている。「ペンネーム」が「ラジオネーム」に変わっていったのもこの頃ではないだろうか。ただ「Twitter職人」とは呼ばないのは、つぶやきではなく、パーソナリティに直接宛てた内容と、それなりの長文の「筆力」があるからだろうか。

職人たちは次代のラジオを支える"金の卵"?

それはさておき、先日NHK総合テレビの『ドキュメント20min.』でラジオの「メール職人」についてのドキュメンタリーが放送された。タイトルは「拝啓・ラジオパーソナリティー様」。番組では『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)のパーソナリティ・霜降り明星に笑ってもらいたい! その一心で、投稿するメールを日々考え続けるヘビーリスナーの日常に密着した。

思い返せば、私自身が特に全国放送のラジオ番組でディレクターをしていた当時、投稿はがきに目を通して厳選することは楽しみでもありまたある種の「修行」でもあった。人気アイドルや『オールナイトニッポン』を担当すると、とにかく投稿の絶対数が多かった。数千通にもおよぶ番組への投稿は、個人的な相談の手紙だったりファンレターだったり......。そして、バレンタインなどのイベントが近づくと自分のデスク回りには置ききれず、大きな手提げ袋に投稿と一緒に詰めて廊下に並べることもあった。当時は、官製はがきもしくは私製のものに切手を貼って投函するわけで、メールやSNSなどが中心の今と比べると、リスナーの負担もはるかに大きかったはず。パーソナリティや番組への思いの大きさを考えると、おざなりにするわけにはいかず、とにかく全てに目を通すのが大変だった。

多くのはがきを読み込んでいくと、中でも目立つ投稿、このリスナーが面白い、というのが出てくるものだ。数を送ってくれるリスナーであれば、ペンネームを見なくても、当時なら書いてある字を見て誰だかすぐにわかるようになるし、今でも文面の雰囲気で判別できる自信がある。そして、こうした中からやがて番組スタッフや放送作家として活躍する人も出てきたし、実際に今でも一緒に仕事をしているスタッフがいる。そう、振り返ればはるか昔に自分もまたラジオ番組に投稿していたことを思い起こすと、能動的に番組に関わってくれるリスナーは、次の世代のラジオを担う可能性が大いにあるといえるだろう。

「拝啓・ラジオパーソナリティー様」では「お笑い芸人に認めてもらいたい」という一心で、ネタ選びに工夫を凝らし、投稿内容のひとつひとつの言葉選びにまで細心の注意を払う、熱心なリスナーの日常と努力を取り上げていた。「風呂場でのひらめきがポイント」といった場面などはラジオ番組に対する熱量を理解できないと、単なる常軌を逸したマニアックなファンの生態としか思われないかもしれない。しかし、想像力が勝負のラジオ番組づくりに携わる者なら、いつも番組のことを考えているし、日頃から何らかのネタが落ちていないか常に注意を払っているものだ。ある種の同志として親近感を覚えたのではないだろうか。ドキュメントの進行役でもあった元「乃木坂46」の山崎怜奈さんも、ステレオタイプのアイドルとしてラジオのパーソナリティになったわけではなく、熱心なラジオリスナーの延長で現在があるだけに、どこかにラジオ愛あふれるコメントが印象的だった。

ありがたい常連さんと、大切にしたい初投稿者

ラジオに投稿するリスナーには懸賞マニアのようなプレゼントが目当ての方、ただただ生活時間を共にして話し相手のようになっている方、いろいろな事情からクレーマーのようになっている方など、さまざまだ。それらはテレビとは違ってダイレクトにラジオ番組に関わっていて、時代にかかわらず、昔から存在していた。番組への投稿というのは往々にして、毎日、もしくは毎週の習慣であり、作り手にとって常連がいることはありがたいものだ。しかし、大事な常連リスナーとはいえ、「パーソナリティにかまってほしい」というパターンもなくはない。番組やパーソナリティを中心としたコミュニティがどんどん閉鎖的になり、「新参者」には入りにくい雰囲気を醸し出してしまうこともある。そしてradikoのエリアフリーやタイムフリーによって、可聴範囲の概念が大きく変わった昨今は、特徴のある番組にはたとえローカルであろうと、いわゆる全国ネット番組のような影響力を持つリスナーがやってくることもある。ラジオリスナーの裾野を広げたい、今まで聴いていなかった人にも訴求したいということであれば、初めて番組に投稿してくれたリスナーを大切にしたいという思いもあり、そのあたりを見分けることも必要だ。

ラジオへの熱量が大きいリスナーは多く、生半可な姿勢で彼らに対応していると足下をすくわれたり、本質を見抜けないことも出てくる。したがって、大量の投稿を選別するために時間を費やすのは、効率を重視する昨今の風潮とはかけ離れるかもしれないものの、リスナーの生活とがっぷりと四つに組むということでもある。また、ある種のリスナー層のマーケティングでもあり、自分とは全く違う人生を歩む人々の生活を垣間見ることもできる。例えば中高生がリスナーの番組であれば、アンケートを取るよりも簡単に本音を知ることができる。教育関係者などよりも、はるかにナマの現場のデータに触れられるのではないだろうか。いや、最近は大人たちがそう考えるからこそ、企業や官公庁が中高生の声を知りたいと全国のラジオ番組にアプローチしているのもまた事実だ。

若い才能が切磋琢磨できる仕掛けを

こうした多くの投稿者の中には、必ず制作者やパーソナリティの意図を先回りして読んでくれる、スタッフサイドのメンタリティに近いリスナーの「職人」もまた存在するはずだ。ひょっとすると、"ラジオおたく"として周囲から奇異な目で見られているかもしれないが、ラジオには必要かつ欠かせないエンターテインメントの重要な黒子だろう。正直なところ、こうした「メール職人」は、ラジオを生業としてはいない場合がほとんどだ。こうした熱量を持っている、ある種セミプロのような人同士が集まる機会は、かつてパーソナリティの公開収録などに限られていたが、現在はSNSなどで情報交換すればそれほど難しいことではない。

例えばだが、リスナーの番組ファンクラブを作り、定期的にファンミーティングをやっていくというのはどうだろう。『オールナイトニッポン』の番組開始当初には『ビバ・ヤング』という会報誌が発行されていて、編集部という名の若いリスナーが不定期に集まる場があったそうだ。そこには、ギャラが出なくても何か面白いことをパーソナリティと共に発信したい、という熱意があったはず。事実そのメンバーにはまだ無名時代のアナウンサーや雑誌編集者がいた。つまりその中から、ラジオをベースに構成作家などとしてプロフェッショナルが巣立っていくこともあるだろう。面白そうな番組まわりの集団をゆるやかに抱えておく。そんなイメージである。

ラジオの生命線は、こうした存在をいかに将来のラジオの味方として取り込んでいけるかにかかっている。もちろん当初から仕事ベースの発注はできないかもしれないし、必要に応じて育てていく必要性はあるだろう。ただ、新しいパーソナリティの発掘と同じく、その余裕がある番組枠というのは絶対に必要だし、若い才能同士で切磋琢磨する場や仕掛けなどの工夫も必要だろう。ラジオではしばしば放送技術のノウハウの伝承が必要だと叫ばれるが、テクニカルなスキルを教えることとは違い、「熱量」を伝えるのは座学などでは難しい。だからこそ、熱を持った人をいかに取り込んでいくか――これからのラジオで特に必要になっていくのではないだろうか。

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