名古屋テレビ(メ~テレ)は開局60周年を迎えた2022年度、5本の幹事映画を製作し、全国公開しました。公開順に『わたし達はおとな』(加藤拓也監督)、『LOVE LIFE』(深田晃司監督)、『よだかの片想い』(安川有果監督)、『ケイコ 目を澄ませて』(三宅唱監督)、『そばかす』(玉田真也監督)です。いずれも実力派クリエーターの手で、今の時代に届けるべき素晴らしい作品ができたと自負しています。
2014年に当時の局長、部長、私(副部長)とライツ担当のわずか4人で映画事業を細々とスタートしたことから考えると、9年で年間5本を作れるまでに体制(当時の倍の人数が関与)が整い、「メ~テレシネマ」というブランドが業界関係者を中心に浸透し、着実に前進できている実感があります。
作家性のある作品づくりにこだわる
では、なぜ放送局が映画に取り組むのか? 現在、全国の民放各局は放送外収入をどう得ていくか、模索していると思います。当社も例外ではありません。5年前、私が所属していた「東京制作部」の名称は「コンテンツプロデュース部」に変わりました。自社の制作力をマネタイズする、つまり「コンテンツを作る」だけでなく「コンテンツで稼ぐ」という大きな方針転換が行われました。
当時も放送番組を中心に多くの種類のコンテンツを制作していましたが、映画は興行のあるB to Cビジネスで、かつ全国をターゲットにするのでマネタイズできるスケールが違います。ローカル局である当社は、放送では全国にリーチできる手段がなかったことも映画に注力するようになった理由の一つです。また、リソースをつぎ込んで投資しても放送コンテンツは賞味期限が短いのが宿命です。一方、映画は公表後70年の著作権保護期間があり、二次利用(配信やDVD、放送、海外展開など)がロングタームで行えます。
この点が当社の映画ラインアップの選定基準にも反映されています。「メ~テレシネマ」は一貫して監督の作家性のある作品群にこだわっています。比較的低予算のインディペンデント映画と呼ばれているジャンルです。こうした選定の理由として、もちろん巨額の制作費を投じることが難しいという事情もありますが、インディペンデント映画は大手にとって費用対効果が見合わないため参入しづらく、競合しにくいことが挙げられます。また、作家性のある良質な作品は時代と国境を超越できると考えているからです。
マネタイズとしても、コロナ禍前までは、着手したほぼ全ての幹事作品で、投資分を回収できており、手応えを感じています。一方で幹事映画以外は苦戦することが多く、より一層自ら企画制作する幹事映画に注力するようになった一因です。
<メ~テレが幹事を務めた映画(~2022年)>
海外へのセールスチャンス
「メ~テレシネマ」の掲げるもう一つのビジョンが、国際映画祭へのエントリーをはじめとする海外展開です。当社は幸運なことに、世界三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭で、幹事映画2作目の『あん』(河瀨直美監督、2015年)が「ある視点」部門のオープニング作品に、3作目の『淵に立つ』(深田晃司監督、2016年)が同部門の審査員賞に選ばれました。これをきっかけに、世界に発信できるテーマで日本を代表するクリエーターと作品づくりをする姿勢が確立されました。また、国際映画祭での評価は、海外へのセールスチャンスにつながるだけでなく、国内の観客獲得にもなり、事業全体としての成功に直結しています。
ただ、主要国際映画祭はかなり狭き門で、望んだからといって選ばれる保証はありません。そこで映画祭以外で海外の方に日本映画を見てもらう方法はないかと考え、2023年5月に着手したのが「MEC」です。「MEC」は、日本のコンテンツを幅広く海外に発信していくために誕生した、当社と映画企画会社のCHIPANGUおよび配給会社エレファントハウスの3社による共同事業体です。海外パートナーと「日本映画週間(JAPAN WEEK)」を共同で展開し、日本の多様な映画作品を海外の劇場で上映するとともに、現地でのイベントやウェブメディアを通じて日本の文化や魅力を紹介していく事業です。
2023年度は、5月31日から6月27日までフランス国内の映画館約200館にて「LES SAISONS HANABI PRINTEMPS 2023」として開催し、日本映画7作品を上映しました。2022年の1.5倍となる約3万人の動員があり、フランスにおける日本映画への関心の高まりを表す結果となりました。MECは来年以降、フランス以外の国での同様の展開も視野に入れて活動を広げていく計画です。また今後は、海外で商品事業を拡大したり、ブランディングを進めたい企業やインバウンド事業に力を入れる自治体などからの賛同を得て、各国に日本文化を紹介するビジネスにも着手していく予定です。
<「LES SAISONS HANABI PRINTEMPS 2023」の模様>
そして当社は2023年度も引き続き、精力的に映画製作を行っています。公開順に『#ミトヤマネ』(宮崎大祐監督、8月25日)、『バカ塗りの娘』(鶴岡慧子監督、9月1日)、『ほつれる』(加藤拓也監督、9月8日)です。また情報解禁前の作品も1本完成しており、現在2024年度公開作品2本を撮影済みです。いずれも今後活躍が期待される優れたクリエーターぞろいの作品ですので、ぜひご期待ください。