パラマウント、スカイダンスとの合併に合意 レッドストーン時代の終焉

編集広報部
パラマウント、スカイダンスとの合併に合意 レッドストーン時代の終焉

昨年から"身売り"がうわさされていたパラマウント・グローバル社(以下パラマウント)。今年に入り、買収合意に近づいてはそのたびに決裂を繰り返すなど泥沼化していた。しかし7月初め、かねてから交渉していた映画製作大手スカイダンス・メディア(以下スカイダンス)が80億㌦以上(約1兆2,000億円超)を投資してパラマウントを保有するナショナル・アミューズメンツ社を買収し、スカイダンスとパラマウントが合併することで合意した(冒頭写真はそのプレスリリースの一部)。 スカイダンスは米国の映画プロデューサー、デヴィッド・エリソン氏が創業し、CEOを務める。パラマウントの全資産は映画スタジオのパラマウント・ピクチャーズ、地上波のCBSネットワークとその傘下のローカル局、ケーブルチャンネル群(コメディセントラル、BET、MTV、ニコロデオンなど)、配信のParamount+とPluto TV。これら全てがスカイダンスの傘下に入る。エリソン氏が「New Paramount(新生パラマウント)」と呼ぶ新会社の評価額は280億㌦(約4兆2,600億円)とみられる。

吸収合併には米国規制当局の承認が必要で、完了するのは2025年になる見込みだ。また、合意から45日間(8月21日が期限)は、さらに高額な入札があった場合にスカイダンスへの売却を再検討できる条項も設けられた。その場合、パラマウントがスカイダンスに4億㌦の賠償金を支払うとある。しかし、かねて買収を模索していた投資会社アポロ・グローバル・マネジメント(以下アポロ)とソニー・ピクチャーズは交渉から手を引くことを発表している。

新会社のCEOにはデヴィッド・エリソン氏、社長にはスカイダンスの投資会社レッドバード・キャピタルの幹部でNBCUのジェフ・シェル元CEOが決まっている。ちなみにエリソン氏は41歳。合併が完了すれば、業界一の若手経営者となる。

▶紆余曲折の買収劇
パラマウントの売却が具体化したのは今年に入ってから。まず3月、PE(非上場企業)投資を手がけるアポロが映画部門のパラマウント・ピクチャーズだけを110億㌦で買収すると申し出た。これをパラマウントが却下すると、今度はアポロが全資産の買収に270億㌦を提示。パラマウントはこれも蹴り、4月初旬スカイダンスとの30日間の独占交渉期間に入った。この時点で、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)、アレンメディアがパラマウントの買収に関心を示す。

スカイダンスとの独占交渉期間が過ぎたころ、一説にはほぼ合意に達しているとまで言われていたものの、「(パラマウントの支配的株主である)シャリ・レッドストーンだけが得をする」とパラマウント株主陣から猛反対を受け決裂。その間、売却に反対していたパラマウントのボブ・バキッシュCEOほか首脳陣の辞職もあった。

5月1日には、アポロとソニー・ピクチャーズが共同で260億㌦の全額現金による買収をパラマウントに提示。ここではソニーが過半数株を所有すると伝えられていた。そして5月17日にはニューヨーク・タイムズ紙(NYT)が、この両社とパラマウントが合意に達したと報じ、業界は騒然。ただ、当初の「全額現金」を2社が撤回したのをはじめ、ソニーが実は二の足を踏んでいたことや当のパラマウントが合意報道をよそにAmazonとのメディア提携拡大やコムキャストとの合弁事業を模索していることなど多くの情報が錯綜。案の定、アポロ、ソニーとの「ほぼ合意」はうやむやに終わり、その後スカイダンスが再浮上、7月の最終的な合意に至ったという経緯だ。

▶スカイダンスの「新生パラマウント」での野望
7月初旬の発表と同時に、エリソン氏は早くも投資家に新生パラマウントの経営方針・計画を明らかにしている。これによると、▷映画『トップガン』など人気シリーズの拡大▷配信サービスParamount+の刷新▷アメリカンフットボールのNFL中継と子ども向け番組の倍増▷MTVほかケーブルチャンネルの再建▷スカイダンス所有のビデオゲームとパラマウントの映画フランチャイズの融合、さらに▷テーマパーク分野への進出――などで、米オンラインメディア各社は「エリソンの大いなる野望」などの見出しで報じている。

さらにエリソン氏は「新生パラマウントは、メディア&テクノロジー企業となるべきだ」とし、従来メディアとしてのパラマウントとテクノロジーを融合させることが業界で生き残るためのカギだと主張している。

▶内外への影響、広告業界の反応
合意発表から3日後の7月10日、CBSニュースのイングリッド・シプリアン・マシューズ社長が辞任を表明するなど、パラマウントの内部に早くも動きがある。合併が完了すれば報道部門のCBSニュースの経営陣刷新は必須とみられており、それを待たずに辞任を選択したという。ただし、大統領選挙が終わるまでマシューズ社長は上級編集顧問として政治報道を統括する。

さらに7月12日には、パラマウント株主の一人で大富豪の投資家マリオ・ガベリ氏が、2社合意に際してのパラマウントの帳簿閲覧を法廷に要請した。パラマウントの親会社ナショナル・アミューズメンツで経営権を握るシャリ・レッドストーン氏が自身の利益を優先して小規模株主が不利になる内容に合意していないかを確認するためだとしている。

この合併について、アドエージ誌は広告業界からの「これからはテレビをベースに広告枠を売っているだけでは競争に勝てない。新生パラマウントがリニア・配信を超えた最新技術に裏付けられた次世代プラットフォームにならない限り、合併の意味がない」といった意見を紹介している。「今年のアップフロントでも広告主が幅広い品揃えを持つメディアを求めていることが示された。現状のトップはディズニー、NBCU、Google、Amazon。ここに新生パラマウントが食い込むには配信プラットフォームの拡大は必須だ」などの意見もあったという。

パラマウントは米CBSをはじめ、アルゼンチン、オーストラリア、チリ、英国で無料テレビネットワークやケーブルネットワーク事業を展開し、Pluto TVやParamount+も海外展開しているが、これらが合併後にどうなるのかは不明だ。

「メディア間の合併がこれ以上進むと、映画製作本数と公開作品数が減る」と映画業界にも懸念が広がっているという。配給や興行の業界に不利益をもたらすだけでなく、俳優や脚本家など業界全体で仕事が減るからだ。パラマウントとスカイダンスは『ミッション:インポッシブル』や『トランスフォーマー』『ターミネーター』など多くの人気シリーズを共同製作しているが、他社とも共同で映画を手がけており、これらの外部提携が今後どうなるかも未知数だ。

CBSはアメリカンフットボールNFLのメディア権の主要な部分を所有しているが、今後の先行きは不透明だ。NFLのロジャー・グッデル代表理事は「CBSもスカイダンスも大事なパートナー。合併がNFLとの契約にどう影響してくるかを見極めてから決めたい」とコメントしている。

映画館経営から制作へと手を広げ、CBSとバイアコムの買収をてこにパラマウントを手中に収めるなど2代にわたって"メディアの牙城"ナショナル・アミューズメンツを牛耳ってきたレッドストーン一家は長年、かたくなに売却を拒んできた。しかし業界が急変動を遂げるなか、テレビから配信への移行に苦しみ、今回のスカイダンスへの吸収合併に合意せざるを得なかったという背景がある。今回の騒動を「レッドストーン時代の終焉(Ending Redstone Era)」と報じるメディアも少なくない。政府による規制の行方も含めてこれからの動きが注目される。

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