キー局とローカル局、どっちの同時配信を見たい?「データが語る放送のはなし」㉛

木村 幹夫
キー局とローカル局、どっちの同時配信を見たい?「データが語る放送のはなし」㉛

今回は、「キー局とローカル局、どっちの同時配信を見たいか?」問題です。
この調査には、以下のような設問を毎年設けています。

「あなたは、あなたがお住まいの地域のローカル放送局のテレビ放送と東京キー局が関東で放送しているテレビ放送の両方がインターネット上で、どちらも無料で放送と同時にそのまま配信されるとした場合、どのように視聴したいと思いますか。もっともあてはまるものをお選びください。(なお、ドラマや人気のあるバラエティ、全国ニュース、ワイドショー、全国的あるいは国際的なスポーツ中継などは全国でほぼ同じ番組がほぼ同じ時間帯に放送されています。)」

この完全に仮想的な質問では、在京キー局はエリア制限なく全国で放送と同時に同じ番組を流しているとの前提ですが、ローカル局については、全国の全てのローカル局がキー局同様、全国一律のサービスを行っているのか、自分のエリアでは自分のエリアのローカル局の同時配信だけが見られるのかはハッキリさせず、「キー局を見たいのか?地元ローカル局を見たいのか?」の究極の選択(?)を迫っています。

以下、調査結果をご紹介します。なおこの設問は、現在、関東(1都6県)以外に居住する回答者にのみ聞いています(近畿と中京は含まれます)。

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<図表1.キー局/ローカル局別の同時配信利用意向(関東1都6県以外の在住者のみ)>

結果を図表1に示しました。在京キー局と地元ローカル局のどちらを選ぶのかは、"どちらともいえない"を挟んで、ほぼ拮抗しています。その傾向は3時点に共通しており、かなり安定した傾向と言えます。ただ、3時点ともそれほど大きな差ではありませんが、ややローカル局の方が多い傾向が見られます。完全に仮想的な質問ですので、"どちらともいえない"がもっとも多くなるのは仕方のないことなのですが、放送内容(番組)の大部分が共通していても、キー局ではなく地元局の配信を見たいというニーズはかなりあると考えてよいと思います。

地元では見られない番組を見たい、地元のニュースを知りたいが視聴者のインサイト?

次に、「東京キー局の方を視聴したい」「やや東京キー局の方を視聴したい」と「地元ローカル局の方を視聴したい」「やや地元ローカル局の方を視聴したい」と回答した人に対して、それぞれその理由を聞いた設問の結果が図表2と3です。

図表3resize.jpg

<図表2. なぜキー局の同時配信を視聴したいのか>

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<図表3. なぜローカル局の同時配信を視聴したいのか>

キー局の同時配信を見たい人が、「関東の番組や自分の地区では放送されていない番組を見たい」と考えるのは当然です。キー局についてはこの選択肢を毎回6割以上の人が選んでいます。ローカル局の同時配信を見たい人の理由は、もう少し複雑です。最も多いのは「ローカルニュース・情報を知りたいから」ですが、「普段から見ているので習慣として」も4割近く選ばれています。なお、「ローカル局でしか放送されていない番組をみたい」も多いですが、3割程度ですね。メインの理由はローカルニュースで、補完的な理由が視聴習慣なのでしょうか?この辺りはもっと掘り下げた調査が必要かもしれません。

ローカル情報番組の存在は大きい!

"なぜ、東京キー局ではなく、地元ローカル局の同時配信を見たいと思うのか?"についてもう少し掘り下げた分析を行ってみましょう。図表1にお示しした、どちらの同時配信を見たいのかの設問について、他の関連がありそうな設問および回答者の属性とのクロス集計を行いました。結論から言うと、回答者の属性(性年齢、居住地域、収入等)との関連性は見られませんでした。一方、他の設問とのクロス集計では、明確な関連性が見られた設問がありました。それはローカル局の地域情報番組の視聴経験者に、現在の地域情報番組の視聴頻度を聞いた設問です。2023年調査のクロス集計結果を図表4にお示しします。

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<図表4. キー/ローカル別同時配信利用意向と地域情報番組視聴頻度のクロス集計>

ローカル情報番組の視聴頻度が高い人ほど、地元ローカル局の同時配信を視聴したいと回答していることがわかります。これはかなりきれいな傾向として確認できますね。逆に、ローカル情報番組の視聴頻度が低い人ほど、東京キー局の同時配信を視聴したいと回答する傾向も、ローカル局の方ほど明確ではありませんが見受けられます。

つまり、ローカル情報番組をよく見る人は、ローカル局の視聴習慣が強く、ローカルニュース・情報への欲求が大きいため、ローカル局の同時配信を視聴したいと考えるのかもしれません。定期的かつある程度以上の量のローカル情報番組の存在が、ローカル局の同時配信を選んでもらえる最大の要因なのではないでしょうか?

でも、気がかりな点も......

ここまで、ローカル局の同時配信には、一定以上のニーズがあることを見てきました。ただし、気がかりな点もあります。図表3をよく見てみると、「地元のローカルニュースやローカル情報を知りたいから」との回答は、若干ではありますが、低下傾向にあるように見えます。一方、「普段から見ているので習慣として」は、これも若干ではありますが、増加傾向にあるように見えます。つまり、見たい、知りたいことがあるからローカル局の同時配信を見たいという、明確な理由を持つ人が減少し、習慣だから見たいという、やや消極的な理由からローカル局の同時配信をみたいと考える人が増えている可能性が伺われます(もちろん、この程度ではハッキリしたことは言えませんが)。

本当にそういう傾向が存在するのなら、危険な兆候と言えます。ローカル局による地元のニュースや情報の提供量や、それに対する視聴者の受け止め方が変化しているのでしょうか??

以前、米国篇でもお話ししましたが、ローカル局の存在意義のひとつに"ローカルニュース・情報を提供すること"があります。特に、きめ細かいローカルニュースは、地方紙と(ケーブルテレビを含む)ローカル局にしか提供できないコンテンツであり、その意味で、少なくとも地元エリア内では、キー局のコンテンツに対抗しうるものです。その存在感が低下すれば、「キー局の同時配信の方をみたい」という視聴者が増えていくのかもしれません。

さて、次回は、ちまたで興味津々の(?)NHKプラスへのニーズに関する設問の調査結果をご紹介します。

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