今回のテーマは、テレビ放送事業のコアである番組です。米国のローカルテレビではどんな番組が放送されているのでしょうか? 前後編の2回に分けておはなしします。
プライムの前と後にローカル枠
まずは日本同様、テレビ視聴最大のボリュームゾーンであるプライムタイム(19-23時)の編成を見てみましょう。図表1に一例として、2022年12月16日(金)の5大ネットワークの番組スケジュールをお示ししました。ご承知のとおり、米国にはアラスカ、ハワイを除く本土だけで4つのタイムゾーンがありますが、これは東部と中部だけのものです。
<図表1.ネットワークのプライムタイム編成 [2022年12月16日 (金)]>
米国でも日本同様、プライムタイムはネットワーク番組を編成します。日本の場合、19時にはほとんどの系列局がネットワークの番組を放送し始めますが、米国の場合、多くのネットワークでは東部で20時から23時、中部で19時から22時がネットワーク番組を編成する"プライムタイム"になっています。プライムタイムの番組は全てCM付きでネットワークから配信されます。米国には日本のステーション・ブレイクに当たる、明確なローカル局の独自CM枠はないのですが、プライムタイムCM枠のうち、10分(30秒で20枠)はローカル局が独自にセールスできるCM枠として開放されています(数年前に現地で聞いた話ですので現在は少し異なるかもしれませんが......)。その代わり、日本のようにネットワークからローカル局に配分される広告費はありません。
プライムでもリピート!
Nとあるのはファーストランの番組、Lはライブです。米国のネットワークでドラマなどのファーストランが放送されるのはもっぱら秋から春先にかけての期間だけで、それ以外の期間は、プライムタイムであってもドラマなどはリピートが主体です。図表1を見ると、この日のABCのプライムタイムにはファーストランがないようです。Shark Tankは、日本で制作されていた『マネーの虎』のフォーマットを使った番組で、お金にまつわるリアリティ番組ですね。そのあとの20/20は、ニュースマガジンと呼ばれる形式のニュースを題材とした番組です。かつては硬派の調査報道も多かったようなのですが、最近は犯罪の再現ドラマや有名人のスキャンダルが主体のようです。全く同じ時間帯のDateline NBCとほぼ同一ジャンルの番組のようです。Shark Tank、20/20ともにその前の2回(毎週金曜日)はファーストランでしたから、この日はお休みの回だったのかもしれません。プライムタイムにリピート番組を多く編成するのは日本の常識では考えられませんが、米国では普通のことです。あと、この番組表で個人的に興味深かったのは、世界最大のプロレス団体WWEの看板番組のひとつSmacDownを地上波で生放送していたことです。2019年にケーブル・衛星チャンネルのUSAネットワークからFOXに移ってきたようですが、なるほど、FOXの視聴者とは相性がよさそうです(実は私も大好きなのですが......)。なお、これは金曜日ですが、週末になると、系列にもよりますが、日中はもちろんプライムタイムもスポーツ中継が目立つようになります。
ローカル番組の中身は......
図表1で"ローカル番組"とある時間帯には各ローカル局が自分で制作した番組、番組シンジケーターから供給される、ないしは購入した番組などが編成されます。ちなみに23時(東部標準時)以降の場合、23時から30分ほどローカルニュース番組が放送された後、ネットワークから配信されるレイト・ショー、シンジケーターの番組などが午前4時ごろまで続き、午前4時ごろからまた朝のローカルニュース番組が始まります。夜中の時間帯にはPaid Programと呼ばれるスポンサーの持ち込み番組を編成する局も多いようです。
以下は、NBCの直営局・旗艦局であるニューヨークのWNBCの自社制作番組だけのタイムスケジュールです。ちなみに、(またまた小ネタで恐縮ですが)WNBCの前身のWNBTは、同じニューヨークのWCBW(現WCBS)とともに、1941年7月1日に放送を開始した世界最初の民放テレビ局です。もっともWCBWの方が1時間早かったそうですが......
〇月曜~金曜
4-7am Today in New York
11-11:30am News 4 NY at 11am
11:30-12pm New York Live
4-4:30pm News 4 NY at 4
4:30-5pm News 4 NY at 4:30
5-5:30pm News 4 NY at 5
5:30-6pm News 4 NY at 5:30
6-6:30pm News 4 NY at 6
11-11:30pm News 4 at 11
〇土曜・日曜
6am-7am (Saturday) Saturday Today in New York
8:30am-9am (Saturday) Saturday Today in New York
6pm-6:30pm (Saturday) News 4 NY at 6
11pm-11:29pm (Saturday) News 4 NY at 11
6am-8am (Sunday) Sunday Today in New York
9:30am-10:30am (Sunday) Sunday Today in New York
6pm-6:30pm (Sunday) News 4 NY at 6
11:30pm-12am (Sunday) News 4 NY at 11
ご覧のとおり、全てニュースないしニュースを主体とした番組です。米国のテレビ局は、規模に関わらず、基本的に(スポーツや天気情報を含む)ニュース番組しか制作しません。とはいえハードニュースだけでなく、ローカルエリアの生活情報番組を制作する局は大規模マーケットの局を中心に存在します。WNBCでは平日11時30分からの"New York Live"と、日曜日の"Sunday Today"がそれのようです。
徹底してローカルニュースに特化した自社制作
多くのローカル局は、独自の情報を求めて調査報道には力を入れるものの、日本で多い長尺のドキュメンタリー番組などは制作しないようです。ましてバラエティやドラマ制作などは想像もできない世界です。これは日本のローカル局との大きな違いと言えます。あらゆるジャンルの番組コンテンツの供給事業者がひしめき合っている米国では、テレビ局(=ローカル局)は、エリアに根差した自分達にしか作れない番組しか作りません。それがローカルニュースというわけです。これはエリア内の人口が10万人に満たない小さなエリアでも、ニューヨークのように1,000万人を優に超える大きなエリアでも基本的に同じです。規模が大きく余裕があるからと言って、ローカルニュースやローカル情報以外の制作は手がけません。それは米国ではローカル局ではなく、ネットワークやシンジケーターが担当する領域だからです。
ローカルニュースは毎日4ゾーンで
図表2にWNBCに加え、同じNBC系列の3つのローカル局の自社制作番組(全てニュース番組ないしローカル情報番組です)放送時間量を時間帯別に集計したものをお示しします。偶然ではありますが、NBCの直営であるWNBC以外の3局は、全て大手所有会社グレイの所有局です。WMCはDMAランキング51位のメンフィスの局(テネシー州)、KSNBは以前この連載でも取り上げた210あるDMAの中央値付近105位エリアのリンカーン・ヘイスティングス・カーニー(ネブラスカ州)の局、KNOPは最後から2番目209位のノースプラット(ネブラスカ州)の局です。KSNBとKNOPのエリアは隣接しているようです。メンフィス・マーケットの人口は120万人程度、リンカーン・ヘイスティングス・カーニーは広大なエリアに50万人程度。ノースプラットは、群庁所在地ですが、なんと3万人程度です。
<図表2.自社制作番組の編成時間帯と放送時間量 [2022年12月16日 (金)]>
ご覧のようにエリアの規模に比例して、ほんの少しずつ自社制作番組の時間が増えています。同じ系列ということもあり編成時間帯は全く同じですね。朝とお昼、夕方そしてプライムタイム明けの22時ないし23時がローカルニュースの戦場です。1日の放送時間量は、人口1,500万人のニューヨークで7時間、3万人のノースプラットで4時間ないし2.5時間ですから、最小クラスのローカル局でも、最大のローカル局の半分程度はローカルニュース番組を制作しています。流石に、以前ご紹介した210位グレンダイブ(モンタナ州)の局のように、エリア内人口が1万人にまでなるとニュースも作れなくなりますが、ノースプラットのNBC加盟局KNOPは、朝、昼、夕方、夜とローカルニュースを制作・編成しています。もっとも、NBC系列ではローカルニュースの放送時間帯を揃えているようで、ローカルニュース番組の中にも全国ニュースや州内の他エリアのニュースは含まれているようです。なお、ネブラスカのKSNBとKNOPは同じ所有会社(グレイ)の所有ということもあってか、深夜(26時-27時30分)に毎日、同じお天気情報番組であるOvernight Weatherというネブラスカ州の天気情報を扱う番組を放送しています。どうも何局かの共同ないしは、何局かが共有する形で州全域のお天気情報を扱う番組を制作(調達?)しているようです。
朝と夕方はニュース漬け
実際の番組を見るのが一番なのですが、いくつかの局はローカルニュース番組については、日本からでも登録なしに局ウェブサイトからライブで見られますので、試してみてください。ここではせめて局ウェブサイトの番組ガイドをお示しします。多くの局がローカルニュースを長時間編成する平日16-19時の番組ガイド画面ですが、画面が統一化されていますね。同じ所有会社の局なので同じ制作会社から一括供給されているようです。
<WMC(メンフィス)>
<KSNB(リンカーン・ヘイスティングス・カーニー)>
離れたエリアの2局ですが、同じ時間に全国ニュースを挟んでローカルニュースが編成されています。メンフィスの局は、朝は3時間、夕方も2時間ローカルニュースを編成していますから、かなり力を入れてますね。なおメンフィスのWMCはサブチャンネルで24時間ローカルニュースを編成しています(もちろんリピートですが)。中・大規模エリアの局には、24時間ローカルニュースチャンネルを設け、自社のサブチャンネルやケーブル・衛星に配信している局は多いですね。ちなみにWMCの愛称は"Action News 5"です。このように米国のローカル局では"News"を冠した愛称を付ける局が一般的です。
それにしてもKSNBは、月曜から土曜日まで夕方にビッグバン・セオリーを編成しており、日によっては1日2回放送しています。全279話あるらしいので、まだまだ続きそうですね。
今回はここまでです。後編では、ローカルニュース番組がローカル局の営業や経営にどう貢献しているのか? を中心に見てみます。