雑誌「ソワニエ+」の歩み~福岡の食文化を守りたい(エフエム福岡)

横内 武志
雑誌「ソワニエ+」の歩み~福岡の食文化を守りたい(エフエム福岡)

未知なる出版事業への挑戦

2009年秋、エフエム福岡の100%子会社「エフエム福岡メディアント」にソワニエ初代編集長となる弓削聞平氏(聞平堂)から一つの企画が持ち込まれました。
福岡で長年愛されたグルメ雑誌「エピ」(epi09年に廃刊)の元編集長である弓削氏からの提案は、これまでにない地方版グルメ専門雑誌の発刊企画でした。

それまでエフエム福岡では番組『BUTCH COUNTDOWN RADIO』の人気コーナー「ザ・メシュラン」などグルメコンテンツとの繋がりはありましたが、グループ会社として新規メディアとなる出版事業、それも定期刊行物は大きな挑戦になります。
不安もありましたが、弓削氏率いる編集部や雑誌広告に詳しい外部ブレーンに支えられ「ソワニエ」事業がスタートしました。

記念すべきソワニエ創刊号は10年5月20日に発売、サイズは現在のA4変型版より一回り小さい変形B5版、スマートフォンはまだまだ普及しておらず、持ち歩きを前提としたサイズにしました。

「おいしいものを知りつくす、福岡のグルメバイブル」をキャッチコピーに、読者の一人ひとりが飲食店の上客「ソワニエ」になってほしいという提案。飲食店の広告出稿は一切NGにして掲載情報のリアリティを追求するなど、他のタウン情報誌と異なる「グルメ情報誌」としてスタートしました。

111120日発売Vol.10特集「どこ行く?天神で晩ごはん」で現在と同じA4変形サイズとなり、特集主体の誌面構成に変化していきます。

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そしてソワニエ『+』へ

グルメ雑誌として飲食店から食材、生産者、お酒や料理人まで食にまつわるさまざまなテーマを取材し、飲食店広告を掲載しないスタイルで読者から絶大な信頼を得ていきます。
異例のコラボとなる特集「ミシュランには載っていなかったけど私、この店、大好きなんです」(Vol.28)では、「ミシュランガイド 福岡・佐賀2014特別版」を取材して、福岡のグルマンに気になる業界の裏話を紹介。「カフェがそばにある幸せ」(Vol.43)では、それまで福岡市が中心だった取材エリアを福岡県全域に拡大しました。

18年5月10日発売号(Vol.49)で「ソワニエ+(プラス)」として大幅リニューアル。
編集部の体制も一新し、弓削編集長から井上編集長にバトンタッチしました。ライター、カメラマンに新メンバーを加えるなど新たな風をプラスした「ソワニエ+」はインターネットでは探せない、ここでしか知ることが出来ない福岡のリアルな食情報を発信し続けています。
創刊14年目の23年7月10日発売号で、記念すべき80号となりました。

雑誌としても誌面構成や写真、文章などが評価され19年に日本タウン誌フリーペーパー大賞で最も優れた雑誌として大賞を受賞。
21年にはこれまでの取り組みが評価され、令和3年度ふくおか農林漁業応援団体県知事賞を受賞しました。

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出版事業の苦難と安定

「雑誌」としての進化とは別に、「事業」として初となる書籍出版への挑戦は必ずしも順風満帆ではありませんでした。

特に広告については自らが課した「飲食店からの広告出稿はNG」というルールが厳しいかせとなり、飲食店関連スポンサーからの出稿は望めませんでした。
そのため、今まで接触が少なかった飲食関連業界(厨房機器や店舗備品メーカーなど)のスポンサー開拓やウェブ広告の台頭による紙媒体への予算減少など、紙媒体ならではの悩みは尽きませんでした。

費用面でも他誌とは一線を画すハイクオリティなアートディレクション、こだわりの写真、原料となる特別紙の値上げによる経費増もあり、発行元のエフエム福岡メディアント(※)では廃刊の検討がされた事もありましたが、親会社であるエフエム福岡がラジオ告知や広告営業などを支援する形で事業を継続していきます。
(※13年事業統合のため、エフエム福岡メディアントはエフエム福岡に合併吸収され、エフエム福岡の関連事業部として再スタート。) 

その後、事業として成立させるために取材データを活用し編集費を抑えたムック本を発刊。特に「大人が行きたいうまい店」シリーズがヒットします。その他、販売面の強化策としてamazonでの取り扱いを開始したほか、コンビニエンスストアでの取り扱い強化、書店への地道な営業などの施策で雑誌の売上も向上し、事業として軌道に乗っていきました。

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クロスメディア展開と大型イベントへの挑戦

営業面では、創刊2号となる10年7月20日発売号で企業コラボ企画を実現(ソワニエ×黒伊佐錦スペシャルナイト)。クロスメディア展開となる"雑誌×ラジオ×企業×グルメ"のスタイルで福岡のグルマンを巻き込んだ営業企画として、現在もさまざまな形で活用されています。

書籍出版で一般的な広告主体だった営業収入を、エフエム福岡が得意とするイベントを組み込むことで立体的な展開が可能となり、営業企画としての可能性を広げる事ができました。

14年5月にはエフエム福岡とソワニエがコラボレーションした大型グルメイベント「A級グルメ大食覧会」を開催。
ソワニエによる飲食店との関係構築、各種イベント実績など長年培ってきたノウハウがあってこそ実現できたイベントとなり、天神中央公園の会場に4日間で5万人を動員する大盛況となりました。

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福岡の食文化を守るメディアへ

コロナ禍で多くの雑誌が休刊する中、飲食店の皆さま、制作関係者の協力もあり休むことなく「ソワニエ+」を刊行する事ができました。関係者ならびに愛読者の皆さまには大変感謝しております。

そのような中で福岡の食文化を守りたい、飲食店を応援したいというエフエム福岡と「ソワニエ+」の想いは、飲食店応援企画「テイクアウトを楽しもうキャンペーン」や通販商品開発企画「TABENTO」など様々な形で実現することができました。
エフエム福岡が挑戦し続けている出版事業は苦労の連続ですが、ラジオ放送やイベント、県や市のプロポーザル事業などさまざまな事業に活用する事ができる貴重なブランドへと成長しています。

そのブランド力を生かし福岡の飲食業界をラジオ・雑誌・ウェブ・動画など、独自のクロスメディアで応援できる企業としてこれからも尽力したいと思います。

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