災害対策基本法の一部改正に伴う避難情報変更

福島隆史
災害対策基本法の一部改正に伴う避難情報変更

情報の伝え方、呼びかけ方の見直しを 

最近、市町村が住民に対して出す避難情報のうち「避難勧告」が廃止されたことは多くの方がご存知と思う。災害対策基本法(災対法)の一部が改正され、今年5月20日に施行されたことによるものだ。「避難勧告」と「避難指示」は災対法が昭和36(1961)年に制定されて以来60年間、長く避難情報の2本柱となってきた。しかし近年、「避難勧告」では避難せずに「避難指示」を待つなどして逃げ遅れ被災する住民が大勢いたことや、「避難勧告」と「避難指示」が両方とも5段階の警戒レベルのレベル4に位置するため「違いがわかりにくい」との声が住民や地方自治体の間で数多く聞かれたことなどから、内閣府の有識者会議での検討を経て、レベル4は「避難指示」に一本化=「避難勧告」の廃止が決まった。

今回の災対法改正に伴う警戒レベルの変更は、地方自治体だけでなく、われわれ放送に携わる者にとっても、災害時に視聴者やリスナーに対し何を伝えるか、何を呼びかけるかなど対応の見直しを迫るものになった。レベル4の「避難勧告」廃止に関心が集まりがちだが、レベル5や3の変更も大変重要だ。新しくなった警戒レベルのポイントをおさらいしてみたい。

レベル3〜5の重要なポイント

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警戒レベルの一覧表(内閣府作成)

内閣府が作成した警戒レベルの一覧表(=図版)で〔行動を促す情報〕の欄を見ると、レベル3は「高齢者等避難」(変更前は「避難準備・高齢者等避難開始」)、レベル4は「避難指示」(変更前は「避難指示(緊急)」「避難勧告」)、レベル5は「緊急安全確保」(変更前は「災害発生情報」)にそれぞれ改められている。

レベル3の「高齢者等避難」は、〔住民がとるべき行動〕の欄に「危険な場所から高齢者等は避難」と書かれているとおり、危険な場所にいる高齢者など自力での避難が困難だったり、避難に時間がかかったりする人(避難行動要支援者)や支援する人に早めの避難を促す情報で、基本的には以前の「避難準備・高齢者等避難開始」の内容と変わらないように見える。だが、実は「高齢者等避難」の対象者は高齢者などの避難行動要支援者に限らない。表外の※2には「高齢者等以外の人も必要に応じ、普段の行動を見合わせ始めたり危険を感じたら自主的に避難するタイミングである」と記されている。つまり「高齢者等避難」は、避難にサポートを必要としない多くの人たちに対しても、不要不急の外出を控えたり、危険な場所から早めに避難したりすることを求めている点を押さえておきたい。

レベル4の「避難指示」は冒頭で記したとおりだが、市町村は従来の「避難勧告」を発令していたタイミングで「避難指示」を発令することになった。このためしばらくの間は、情報の送り手も受け手も「避難指示」が早く出たとの印象を持つかもしれない。

レベル5の「緊急安全確保」は、以前の「災害発生情報」から中身も名称も大きく変わった。「災害発生情報」が状況を知らせる情報であったのに対し、「緊急安全確保」は、住民に直ちに命を守るための行動をとるよう求める情報だ。この情報が出たら、すでに災害が発生しているか発生が切迫している状況であり、危険な場所にいる人は一刻も早く、少しでも浸水しにくそうな高い場所、少しでも土砂が流れ込みにくそうな場所に身を寄せて命を守る必要がある。避難情報ではあるもののレベル5の名称にあえて「避難」という言葉を使わなかったのは、もはやこの状況では立ち退き避難等が安全に行える保証はないからだ。

住民に判断材料繰り返し伝える

そしてもう1つ、レベル4とレベル5の境界線だけが他よりも太くなり、「警戒レベル4までに必ず避難!」と挿入された点も見過ごせない。レベル5の「緊急安全確保」が出るのを待って避難すると手遅れになる恐れがあるため、レベル4の「避難指示」までに避難を開始し、かつレベル5にならないうちに避難を完了することが求められる。ちなみに「避難勧告」と上位の「避難指示(緊急)」が並存した昨年までは、「避難勧告では避難せずに避難指示待ち」が大きな課題となっていた。一方、「緊急安全確保」を市町村が必ず発令するとは限らないことからも、「警戒レベル4までに必ず避難!」の趣旨を放送でも繰り返し伝える必要性を強く感じる。

7月に入ってから12日までの短い期間に、全国で8県の計11市3町が警戒レベル5の「緊急安全確保」を発令した。中でも静岡県熱海市は、「避難指示」(レベル4)を発令しないうちに土石流災害が発生したのを受け、急遽「高齢者等避難」(レベル3)を「緊急安全確保」(レベル5)に切り替えた。この場合の「緊急安全確保」は明らかに発災後の情報であり、住民が避難の判断材料にするには、やはり遅すぎる。

大雨がよく降る梅雨末期とはいえ、「緊急安全確保」というなじみのない用語を、短期間にこれほど数多く見聞きすることになるとは予想しなかった。これで用語の周知は進むかもしれないが、この後にまだ台風シーズンが控えていると思うと、気が重くなるのは私だけだろうか。

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