民放テレビ終戦企画2022③ 戦後77年 音楽が持つ力 平和への思いを歌い、奏でる

編集広報部
民放テレビ終戦企画2022③ 戦後77年 音楽が持つ力 平和への思いを歌い、奏でる

戦後77年――。民放テレビ各局が2022年に制作した戦争関連の特番や特集について、民放onlineは地上テレビ社にアンケートを実施した。76社から寄せられた回答の一部を複数回にわたって紹介していく。今回は3回目(1回2回)。音楽や歌を通じ、平和を伝える「合唱団」「少年」「フォークソング集団」を取り上げた事例がみられた。


長崎放送は2022年8月、夕方ワイド『Pint』(月―金、16・50―19・00)でシリーズ企画「進もう核禁への道」を計7回放送した。このうち8月8日は、被爆者だけで構成された合唱団「被爆者歌う会『ひまわり』」(=写真㊤)の"最後の舞台"を取り上げた。2004年に発足し、歌で核廃絶と平和への願いを国内外に伝えており、2010年からは長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典で代表曲「もう二度と」を毎年歌ってきた。最大で60人ほどいた団員は11人まで減少し、平均年齢は81歳に。新型コロナの影響で3年ぶりの参加となった2022年が最後の舞台となった。

特集では、練習の模様や団員それぞれの活動にかける思いを紹介。特に、最高齢のメンバーである宇木和美さん(取材時89歳)の被爆体験や活動のきっかけなどを深掘りした。取材を担当した久富美海アナウンサーは「宇木さんは、体力的な問題で普段はほとんど家で過ごしているようだが、合唱団の練習や語り部活動では外出していた。次世代に語り継ぐことが使命だと思っているからだと感じた」と振り返った。合唱団は10月に被爆者以外の団員を募集し、「平和を歌う合唱団 ひまわり」として再スタート。もともと合唱団の裏方だった女性や、テレビでメンバー募集を知ったという男性など9人が加わった。久富アナは「今後もイベントの際などで取材を重ねていきたい」と意欲を示した。

広島ホームテレビは5月31日、特番『ドキュメント広島「戦地へ響け ヒロシマの音色」』を放送。日本人の父とウクライナ人の母を持つ14歳(取材時)のバイオリニスト・平石英心さんを取り上げた。同局はロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、被爆者や県内在住のウクライナ人からコメントを集める不定期シリーズ「被爆地からのメッセージ」を夕方ワイド『5up!』で展開してきた。その中で英心さん一家と出会い、取材することになった。

広島で生まれ、9歳からドイツに留学した英心さんは、昨年2月に広島に戻った。その2週間後にウクライナ侵攻が始まったため、帰国前から予定していたコンサートをウクライナ支援のチャリティーに切り替えた。元々1回の予定だったが2カ月で20回開催。幼なじみでピアニストの岡野純大さんとともに、県内を行脚する日々を重ねた。ディレクターを務めたメディア情報局ニュースグループの花房吾早子氏は「視聴者の多くは戦争とかけ離れた日常を過ごし、遠くの出来事だと思っている。そんな人たちへ、『誰でも』『どこからでも』『好きなこと』で他者を助けられることや、被爆地・広島にはそれを支える人がいることを伝えたかった」と狙いを語る。

「番組では音楽を最大限に活かすことを目指し、特にウクライナの国歌は一貫して使用した。どこでメロディを切るかのバランスが難しく、試行錯誤を繰り返した」と花房氏。放送後も英心さんは演奏会を開いており、応援する人の輪の広がりがみられるという。

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<バイオリンを奏でる平石英心さん

北陸朝日放送は、反戦を歌うフォーク集団「雑花塾」に焦点を当てた。特番『歌ったように生きたい ~フォーク集団「雑花塾」の反骨~』を5月22日に放送。雑花塾は、日本のフォークシンガーの草分けとして語り継がれる笠木透さんが1994年に創設した集団で、ふるさとの暮らしや平和などをテーマにこれまでに1000曲近く作り続けてきた。番組を担当した黒崎正己報道制作局長は、生前の笠木さんを取り上げたドキュメンタリーを制作した経験を持ち、今回の特番の企画経緯について「プロテストソングを多数生み出してきた反骨の系譜に関心を抱き番組化に至った」と明かした。

取材は、石川・白山市に住むフォークシンガーを皮切りに、全国に点在するメンバーの声を拾い上げた。黒崎氏は「局長という管理職に就いているため、取材できる時間に限りがあり、月1、2回ほどしかロケに行けず9カ月かかった」という。歌が持つメッセージをストレートに伝えるため、楽曲はできるだけそのまま流した。番組タイトルは、黒崎氏が雑花塾のメンバーに『なぜ歌い続けるのか』と問うた際の返答を引用。「『歌いっぱなしじゃなく、歌ったような生き方をしていこうということ。それが笠木さんの遺言でもある』という言葉が印象に残って使った」と語る。「雑花塾はメンバーの多くが60、70代と高齢化している。今後、世代交代や一般層への普及などに取り組む姿を追いたい」と意気込んだ。

雑花塾のコンサート風景(2021年11月岡山市).jpg

<反骨を歌う雑花塾のメンバー

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