熊本と広島の各県内で、民放ラジオ局が災害時の相互協力協定を締結した。それぞれ8月末から9月初めにかけて、調印式などを執り行い、公表した。
熊本県では、熊本放送(RKK)、エフエム熊本(FMK)、熊本シティエフエム(FM791)の3社が、8月27日に「甚大な災害発生時における在熊ラジオ局の相互協力に関する協定」を締結した(=冒頭写真は8月27日の調印式。左からRKK坂口洋一朗社長、FMK山口和也社長、FM791田上聖子社長)。
相互協力により被害情報をそれぞれの放送エリア内の県民に提供し、被災地域の安全確保と復旧支援に寄与することを目的とする。同協定は、甚大な災害が発生した際に自社の業務や所属しているネットワークに支障のない範囲で、3社のディレクター・リポーターなどが局の垣根を越えて出演し、災害情報を伝えることや取材機材を都合し合い、互いの放送の維持を図ることを柱にしている。RKKはラジオ局に特化しての対応だという。初年のみ25年3月末までの期間で、その後は4月からの1年更新となる。
3社は1997年から9月1日の防災の日前後に、NHKや熊本県内のコミュニティFMと協力して『防災 命のラジオ』を制作・放送している。2016年の熊本地震を経験し、同県は南海トラフ地震の対象地域に隣接していることから、具体的な協力体制を構築することを目的にRKKが2社に相談、実現に至った。
各社の社内調整は、RKKが松内隆典・取締役ラジオ局長、FMKは伊佐坂功親・取締役編成制作部長が担当し、その内容をFM791の田上聖子社長に展開して進めた。3社間だけではなく、所属するネットワークとの折衝も行ったという。
協定締結直後の8月29日には、RKKの気象予報士がFMKとFM791の番組に出演して台風10号の解説を行った。こうした取り組みについて、RKKの松内氏は「協定が発効しないことを願うのみだが、平時でも3局の乗り入れを行い、いざというときの備えも兼ねた企画を実施したい」と語った。
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広島県では、中国放送(RCC)と広島エフエム放送(HFM)が「災害時におけるラジオ放送相互協力に関する協定」を9月1日に締結した。両社が相互に協力し、災害情報の伝達など、地域住民の安全・安心に資することや、防災意識の啓発、ラジオの普及なども含めた放送面での連携を図ることが目的。
広島県とその隣接地域で災害が発生したときに、避難情報、被害情報、ライフライン情報、復旧・復興情報などの共有や相互の番組への中継リポート実施など番組制作の協力を可能な範囲で行う。また、防災意識の啓発を目的に、年に1回をめどに、両社が放送する特別番組を共同制作するほか、大規模災害発生時における両社の放送継続計画について研究・検討を始める。
ラジオは災害時に強いメディアであることをあらためてアピールする必要があるとの思いを持っていた両社が一緒にできることはないかと、自然発生的に話が出たという。今年の春ごろからどのような領域で相互協力ができるか両社で検討を開始。RCCの栗田英樹・執行役員ラジオ局長と、HFMの屋形英貴・執行役員コンテンツ本部長を座長として、RCCの手島啓介・ラジオ局ラジオセンター長、HFMの磯貝修也・コンテンツ本部編成制作部副部長が事務的な折衝を担当し、対面での会議、電話、メールでの打ち合わせを重ねて実現に至った。
RCCの手島氏は「将来的には、情報ソースとなる各自治体やライフライン各社とも連携できる領域を模索したい」と今後の展望を述べた。
<9月2日の協定締結式。左から、HFMの屋形英貴・執行役員コンテンツ本部長と山口真司社長、RCCの宮迫良己社長、栗田英樹・執行役員ラジオ局長>