民放onlineではポッドキャストを再考するシリーズを展開しています。第3回は米国および英国におけるポッドキャストの最新動向をご紹介します。(編集広報部)
海外ではいま、ポッドキャストが熱い。世界で5億4,600万人超のリスナーが存在し、600万を超えるコンテンツがあるという(BACKLINKO 2024年9月)。2021年に10億ドルだった広告費も、2024年には40億2,000万ドルに達する見込みだ(Spotify調査)。
9月にはMetaのマーク・ザッカーバーグCEOが人工知能(AI)やメタバース、同社の20年の歴史や戦略などについて語るポッドキャストの録音イベントに、50ドル超のチケット代を払って、6,000人余りの技術者らが詰めかけた。11月に入ると、ジェシカ・ローゼンウォーセルFCC委員長がポッドキャストでAOL創設者のスティーブ・ケース氏ら通信業界の先駆者らとその歩みについて語り合うシリーズ『First Conversations』9番組がリリースされた。また、米大統領選や英総選挙においても、ポッドキャストは重要な役割を果たした。
いまや、ポッドキャストは、ビジネス面でも、情報発信の場としても、重要な位置を占めるようになっている。米英を中心に、その動向をみていこう。
過熱するポッドキャスト市場
まずはポッドキャスト人気をEdison Researchのデータでみてみよう。
米国では、12歳以上の67%がポッドキャストを聴取したことがあり、47%が毎月、34%が毎週聴いている。13歳以上のオーディオ聴取時間に占めるポッドキャストのシェアは、2014年の2%から2024年には11%に増加。広告付きオーディオコンテンツの聴取時間に占めるポッドキャストのシェアは20%となっている。平均聴取時間は、週10時間以上が23%、5~10時間未満が18%、3~5時間未満が21%、1~3時間未満が33%。年齢別では、35~54歳で週10時間超聴取が29%と際立っている(図表1)。広告主にとっても魅力的なのは、ポッドキャストの広告を聴いて商品を購入した人が46%に達していることである。リスナーは全米平均と比べて相対的に高学歴・高収入の傾向があることもわかっている。
<図表1 米国ポッドキャスト・リスナーの平均聴取時間(週) *出所:Edison Research「The Podcast Consumer 2024」>
米ラジオ・テレビ・デジタルニュース協会(RTDNA)が2023年第3四半期に実施した調査によると、ラジオ局はポッドキャストを含むコンテンツを重視しており、そこには映像付きも含まれている。ラジオ局の平均ポッドキャスト制作数は週2.4番組であり、主要な放送エリアでは3.7番組、大規模な放送エリアでは2.1番組、中規模放送エリアで2.6番組、小規模になると2番組で、大都市圏と非営利放送局でより多くのポッドキャスト番組が制作される傾向がある(図表2)。RTDNAは、スタッフの規模が番組数に影響するとしており、テレビ局よりラジオ局でポッドキャスト熱が高いこともわかった。
<図表2 米ラジオ局の平均ポッドキャスト制作数(週)*出所:RTDNA「Radio Online 2024」>
英国では18歳以上の69%がポッドキャストの聴取経験があり、42%が毎月、30%が毎週聴いている。新たにポッドキャストを毎週聴くようになったリスナーの38%はZ世代とみられている(Edison Research)。
英国の放送通信分野の独立規制機関Ofcom(放送通信庁)の「Media Nations 2024」によると、2023年のラジオ広告費は、ローカルで4%減、全国でも3%減だったが、全体では2%増となった。その原動力が23%増のポッドキャスト広告である。視聴習慣をみても、15歳以上の5分の1が少なくとも週1回聴取・視聴しており、25-34歳のリーチが最も高くなっている。54歳以上のリーチも増加傾向にあり、65歳以上でも11%が毎週ポッドキャストを聴取・視聴している。
英国では今年4月、Amazonが2020年に買収したポッドキャスト制作スタジオWonderyがサブスクリプション・サービスを開始した。月5.99ポンドまたは年44.99ポンドで数十の独占番組や50超の番組への早期アクセス、その他4万5,000超のコンテンツを広告なしで利用できる。人気の犯罪ドキュメンタリー『RedHanded』や、世界で最も大胆なリアリティ番組と言われ、FOXで2014年に放送されたハリー王子(実際にはハリー王子のそっくりさん)をめぐる女性12人のバトルをドキュメントした『I Wanna Marry "Harry"』の裏話『The Bachelor of Buckingham Palace』などが聴取・視聴でき、ボーナス番組が用意されている場合もある。
また、ニュースコンテンツも登場している。メディア・娯楽企業大手Global Media&Entertainmentは、今春、『THE NEWS AGENTS』の派生版ポッドキャスト『THE SPORTS AGENTS』を、5月にはテレグラフが日刊『The Daily T』をそれぞれスタートさせている。これに先立ちThe Guardian、The Economistなどもポッドキャストを配信している。
技術・スタジオソフトウェアなどの進展で、ラジオ局・新聞社も簡単に高品質のビデオクリップをYouTubeなどにアップロードできるようになったことに後押しされている面もある。番組の録画を編集し、ソーシャルメディアで視聴・共有できるコンテンツにしたことで、ライブでは聴かない幅広い視聴者にアプローチできるようになった。テレビ局の場合は、コアとなるコンテンツを強化する手段として使われる例が多い。ITVの恋愛リアリティ番組『Love Island』について語るポッドキャスト『Love Island: The Morning After』などはその好例だ。
人気の源泉とポッドフルエンサーの登場
ポッドキャストの魅力とは何なのだろうか。
先のEdison Researchの調査によると、米国の場合、「興味のある話題について、より掘り下げるから(84%)」「他のメディアにはない独自の視点に触れられる(74%)」「最新のトピックスについて情報を得られる(66%)」「社会的な課題について最新情報を得られる(61%)」などが視聴理由として挙げられている。
人気の拡大とともに、米国では"ポッドフルエンサー"が登場している。アーティストのチケット販売も厳しい時代に、ポッドキャスターが人気トークショーをアリーナで開催する例が増えているのだ。ポッドキャストの親密さが、リスナーにお気に入りの番組を生で体験し、クリエイターと交流したいと感じさせ、同じ想いを共有する人々とコミュニティが形成される。ライブは彼らの祝祭空間として機能している。今夏には『The Rest Is Politics』『ShxtsNGigs』など人気ポッドキャストのライブショーが相次ぎアリーナで開催された。
生まれながらのパフォーマーとは思っていない人々による、もともとは孤独なパフォーマンスであるポッドキャスト。誰でも有名人になる可能性のある世界で、親しみやすさが共感の根底にはある。数年前まで、オバマ元大統領夫妻やハリー王子夫妻などの著名人との高額契約が話題になっていたことを思うと、その変化には驚くばかりだ。Spotifyが目指すのはYouTubeのような存在になることだ。
ポッドフルエンサーの中にはSpotifyやAmazonなどの配信業者と大型契約を結ぶものも出てきている。トップクラスの人気を誇るものの、ワクチンに関する誤情報を広めたとして物議を醸したジョー・ローガン氏は、新たに2億5,000万ドルでSpotifyと複数年契約を結んだ。視聴者数と広告売り上げを最大化するため、Spotifyは独占配信からYouTubeなど複数のプラットフォームでの配信に切り替える。グッズ販売も好調で、人気ポッドフルエンサーのロゴやキャッチフレーズをあしらったTシャツ、マグカップ、ポスター、果ては書籍などが販売され、ファンは購入することで推しのポッドフルエンサーをサポートしたいと考えている。
こうして、かつてシンプルだったポッドキャストビジネスは、サブスクリプション・ライブイベント・関連グッズの販売など多様化し、複雑化している。
ビジネス拡大の光と影
投資会社インシグニア・キャピタル・グループは10月、Veritone OneとOxford Roadのポッドキャスト広告会社2社を買収した。最終的には両社を統合する。スポンサーによる広告支出の加速を見込んだ動きだ。インシグニアは、ポッドキャスト広告の成長が、リスナーの爆発的増加に追い付いていないところに、ビジネスチャンスを見出したとしている。
IAB(インタラクティブ広告協会)などの調査では、米国のポッドキャスト広告の収益は2024年に20億ドル、2026年には26億ドルに達すると予測されている。ラジオ局としては、ポッドキャスト広告からオーディオ広告への関心を高めた広告主が、放送広告枠の購入へと進むことを期待している。
ビジネスとしての期待が膨らむ一方、広告の増加がもたらす負の側面も露わになりつつある。Oxford Roadなどの調査によると、米国で2024年第2四半期のポッドキャスト・コンテンツに広告が占める時間のシェアは平均10.9%で、2021年同期の7.9%から増加している。広告収入も、リスナーの聴取時間1時間ごとに現在は6セントで、2021年の5セント、2015年の2セントから急増している。
<図表3:ポッドキャストに占める広告時間のシェア*出所:Oxford Road>
ポッドキャスト広告は当初、テレビ広告を打てない小規模なD2C事業者によるものが多かった。広告もポッドキャスターが仲介し、台本から手作りされていた。しかし、ポッドキャストが成長するにつれ、自動入札が導入され、潤沢な予算を擁する大規模ビジネスが参入してきたのだ。これをポッドキャストの勝利とする見方もあるが、ポッドキャストが持つ親密さや広告の価値を損ねる可能性があると危惧する声がある。Sounds Profitableの調査によると、今のところ、「広告が多すぎて我慢できない」と評価するリスナーは10%で、42%は「煩わしいが我慢できる」と回答している。広告量が増えすぎると、リスナーが広告に反応する可能性が低くなるとも言われており、難しい舵取りを迫られている。
初のポッドキャスト選挙
バイラルメディアとなったポッドキャストは当然ながら選挙でも活用され、今年はポッドキャスト選挙元年となった。
英総選挙では、投票日が近付くにつれ、政治ポッドキャストのダウンロード(DL)数が53%増加した(Acast調査)。保守党と労働党の元大物政治家2人が司会を務める『Political Currency』は選挙期間中にDL数が81%増、The Financial Timesの『Political Fix』は39%増、The Guardianの『Today in Focus』は47 %増と軒並み急増している。通年では毎日のニュースを伝えるBBCの『Newscast』が64%増と最大の伸びを示すなど、政治分野のポッドキャストの伸長が目立つ。リシ・スナク首相(当時)のインタビューは、平均より84%も多く視聴された。
米大統領選においても、ポッドキャストは大きな役割を果たした。投票日の10日ほど前、トランプ次期大統領は、前掲したローガン氏のポッドキャストに出演し、3時間にわたって対談。YouTubeで4,500万回超、Spotifyその他で2,500万回超視聴されている。若い男性にアピールするため、コメディアンのテオ・ヴォン氏やスポーツメディアBarsool Sportsが主宰するポッドキャストなど約20番組に出演し、政治的な話題を避け、共感を生むような個人的な話題に専心した。ポッドキャストへの出演は息子のバロン氏のアドバイスによるもので、選挙陣営の中でも従来投票しなかった層へのアプローチ法として効果的だったと高く評価されている。ハリス副大統領も、中高年女性に人気のブレネ・ブラウン氏と対談するなど、ポッドキャストを情報発信の場として積極的に活用した。
TikTokでは、時事問題について語るニュースインフルエンサーが、CNNやCBSなどの主流メディア以上にバイラルなコンテンツを生み出している。ニューヨーク大学の学生が投稿した選挙結果に関するコンテンツは、TikTokで670万回再生され、同様の情報を伝えるCBSの380万回、NBCの320万回を大きく上回っている。こうした動きを受け、Wall Street Journal紙は、新聞・テレビなど伝統的メディアの影響力低下と新たな情報源としてのポッドキャストの台頭を指摘している。NABも認めるように、米国におけるポッドキャストのプラットフォーム化は既成事実と言えよう。
ただ問題は、ポッドキャストが他の媒体に比べて偽情報に汚染されやすいということだ。リアルタイムでスキャンする技術は初期段階にあり、何時間もかけて人の手で、すべてのコンテンツをチェックすることは不可能だ。共和党支持者の間に広まっている「選挙が盗まれた」という主張の拡散も、ポッドキャストによるところが大きいという。ワシントン・ポストの調査によると、根拠のない選挙不正を訴える『ジョー・ローガン・ショー』『チャーリー・カーク・ショー』などは、ポッドキャストの人気上位26番組に含まれている。
Spotifyは選挙妨害にあたる虚偽のコンテンツは削除するとしており、Appleも基準を策定して対応しているが、制作・配信の過程が複雑で、責任の所在が不明確なぶん、対応が甘くなりがちだ。ポッドキャストは選挙不正を主張する人々の"安全地帯"ともなっている。
かつてオバマ元大統領が選挙運動にソーシャルメディアを活用した際に、画期的だと騒がれたように、今年の選挙ではポッドキャストが新たな手段として登場した。ポッドキャスト・プラットフォームAcast傘下のPodchaserは、ポッドキャストにメタデータを付したうえで、政治的スタンスごとに分類し、広告主がメッセージを届けたいリスナーにリソースを集中できるようにするシステムPodcasterProを開発した。情報も、広告も、ますます"適材適所"に届くようになる。それは、視聴体験の分散化が進んでいくということでもある。このことが、一層社会の分断を煽ることにつながらないことを祈りたい。
〈主な参考資料〉
・In the podcast election, top shows cast doubt on integrity of 2024 vote(Washington Post 2024.10.31)
・'We're not trying to rival the Prodigy': how podcasters took over music festivals(Guardian 2024.8.21)
・Podcasts Used to Be Ad-Light Oases. Not Anymore.(Wall Street Journal 2024.8.23)
・Media Nations 2024(Ofcom 2024.7.31)