『名探偵コナン』のこれまでとこれから 劇場版26作目は興収100億円を突破 

永井 幸治
『名探偵コナン』のこれまでとこれから 劇場版26作目は興収100億円を突破 

1967年4月に『黄金バット』(―68年)でスタートした読売テレビ(ytv)のアニメは、昨2022年に55周年を迎えました。『黄金バット』の後も、『巨人の星』(68―71年)、『天才バカボン』(71―72年)、『ルパン三世』(テレビ第1シリーズ、71―72年)、『宇宙戦艦ヤマト』(74―81年にかけて3シーズン)と、今でもよく知られている、そして日本のアニメ史を語るうえで欠かすことのできない作品を製作会社とともに世に送り出してきました。

その後も、『シティーハンター』(87―88年)や『YAWARA!』(89―92年)などの話題作が続き、『名探偵コナン』がスタートしたのは1996年1月のことです。翌97年4月に早くも劇場版第1作「時計じかけの摩天楼」が公開され、以来、テレビシリーズは四半世紀を超え1,000話以上、劇場版も年に1作のペースで26本公開されています。

当初は月曜の午後7時30分が放送開始時刻でした。今とは異なり、ytvだけでなく各局で平日のゴールデンタイムにアニメが放送されていた時代です。2000年前後はその視聴率も20%を超えていました。そんな高視聴率時代に加え、26年以上も続く長寿のアニメーション番組ということで、毎年の劇場版公開とも相まって、『名探偵コナン』は誰もが知る作品となりました。

普遍的な設定、時代に応じて受け継ぐ

ここまで続き、人気を保ち続けている最大の理由はなんでしょう――。主人公のキャラクターが小学1年生で、ファミリーで見やすいという設定でありながら、謎解きはけっして幼稚ではなく、大人でもしっかり楽しめるということ。1話で1つの謎解きエピソードが完結していて、過去のストーリーを見ていなくても楽しめる。これはきわめてテレビ向きです。さらに、主人公工藤新一と毛利蘭の恋愛要素、新一の体を小さくした、黒づくめの組織の謎が少しずつ明かされていくことが、継続視聴につながる。1話でも楽しめ、一方で全体のストーリーも視聴者を惹きつけます。敵が魅力的な作品は当たると常々思っていますが、『名探偵コナン』はこの黒づくめの組織の魅力、そして怪盗キッド、服部平次、安室透、赤井秀一と次々に出てくる、コナンを取り巻くキャラクターの魅力が長年の人気につながっているのだと思います。

こうした設定の普遍性を、時代の変化に応じて柔軟に適応させ、スタッフが世代交代を重ねながらも受け継いでいったことが挙げられます。最近のアニメーションは1クールのものも多く、長く続く作品も連続での放送ではなく、1クールや2クールで分割して放送されるものが多くなっています。そんな中でも、変わらず安定して製作、放送、そして上映できていることが欠かせません。こうして、26年にわたって、テレビシリーズだけでなく劇場版も作り続けているスタッフの苦労は想像以上だと思います。これまでかかわってこられた歴代のスタッフには敬意と感謝しかありません。

いつでも、どこでも楽しんでもらえる

現在のように配信もなく、あくまでも"放送が第一"のテレビ「番組」としての側面が強かった時代は、なによりもまず、番組をたくさんの人に知ってもらい、たくさんの人に観てもらって、その結果として視聴率が高くなることが一番の理想でした。しかし、時代が変わり、生活のリズムが変わり、配信という視聴方法が広がることで、人々のライフスタイルがテレビの番組表に縛られなくなった今、かつてのようにテレビの前に集まって、同時にたくさんの人に観てもらうのが難しくなってきたのも事実です。しかし、リアルタイム視聴は減少し、たくさんの方に観ていただけることは少なくなりましたが、逆に今は、アニメを一人で何回も観ていただける視聴者が増えました。深く愛してくれるファンの存在です。

原作の漫画が週刊誌に掲載され、人気が出て、アニメ化され、テレビ版や劇場版でたくさんの人に観ていただく。そして、ここから派生した実写ドラマやアニメが作られ、認知度の上昇とともに関連商品が次々と作られる。さらに、その勢いは国内だけでなく海外にまで広がる......このように『名探偵コナン』は、まさにコンテンツの成長の王道と言えるような広がりをみせてきました。テレビがたくさんの視聴者を惹きつけていた時代にスタートして、ファンを増やし、時を重ねて、その多くのファンが、深く愛してくれるようになったのです。

26年前、親と一緒にテレビで、あるいは親に連れられて劇場で『名探偵コナン』を観ていた子どもが大人になり、今度は親として子どもと一緒にテレビや劇場で『名探偵コナン』を観る。中には三世代で楽しんでいらっしゃる方もいるのではないでしょうか。こうした広い客層とファンの皆さんの深い愛によって、年に1回のイベントとして親しまれるようになった劇場版『名探偵コナン』の興行収入は2009年に30億円を超え、13年からは急激に増え続け、ついに今年100億の大台を超え131億円(6月27日時点)に達しました。

13年から急成長した時期は、ちょうど日本のアニメのキャラクター人気が急激に盛り上がり、そこに、誰もが知っている『名探偵コナン』の人気も一緒に押し上げられたのではと思います。長い年月の間には自然災害やパンデミックなどに左右された時期もありますが、それに負けずに素晴らしい作品を作り続け、ファンの皆さんに支えられた結果です。今では海外でも広く知られている『名探偵コナン』は、放送だけでなく、あらゆる手段でいつでも、世界のどこにいても、観ることのできる時代になったのです。

未来のファンにも観てもらえる作品を

今、日本のアニメは年間で300作品が作られていると言われていますが、その中でヒットするのはほんの一握り。10年後、20年後も観ていただける作品はさらに少ないのではないでしょうか。ytvでは『名探偵コナン』だけでなく長く愛される作品をいくつも生み出してきました。テレビの力が低下していると言われますが、まだまだテレビの力は強い。それは、テレビには視聴者の好みにかかわらず、テレビの側から情報提供できる力、影響力があります。他のメディアがどんどん影響力を増していますが、使い方を工夫すれば、歴史に残る、未来のファンに観ていただけるアニメをこれからも生み出せると思います。

けっして潤沢とは言えない人員で半世紀以上も先輩たちが積み重ねてきたytvアニメの歴史ですが、今では若いスタッフも増え、『名探偵コナン』のさらなる成長に貢献しています。ここ数年の盛り上がりは若いスタッフの力なくしては成し遂げられなかったでしょう。しかし、今の瞬間での評価に満足することなく、この先も、未来に生まれる他作品と並んでも、『名探偵コナン』が選ばれ、観られ、ファンがもっともっと増えるように、これからも素晴らしい作品を作っていきます。

大阪のテレビ局が作ったコンテンツがハリウッド映画と肩を並べ、世界で戦えるアニメーションの世界。こんなに夢のある仕事に携われたことを幸せに思います。

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