米国防総省が取材規制を強化 主要メディアは記者証を返上して抗議

編集広報部
米国防総省が取材規制を強化 主要メディアは記者証を返上して抗議

米国防総省(ペンタゴン)が9月に報道機関に示した取材に関する新たな指針案に主要メディアが一斉に反発している。ABC、CBS、CNN、Foxニュース、NBCなど大手放送メディアをはじめ、AP通信、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナル、Axiosなどが新指針への同意・署名を拒否。10月15日に記者証を返上のうえでペンタゴンを退去した。

ペンタゴンが報道機関に課したのは、▶政府高官の許可なしに機密情報を報じること、▶機密情報でなくても適切な承諾者によって公開が許可される前に報じること――の禁止。施設内で記者が自由に取材できるエリアも厳しく制限され、その多くでは国防総省職員の同行が求められる。署名を拒否したメディアは今後、ペンタゴンへの定期的なアクセス権を失う。記者活動そのものを「安全保障上のリスク」と捉え、違反した記者への処罰すらちらつかせている。ピート・ヘグセス国防長官はXに「ペンタゴンを動かしているのは報道ではなく国民だ」「プレスが施設内を自由に歩きまわることは許されない。規則に従えないなら出ていけ」と9月20日に投稿している。

担当記者で組織するペンタゴン記者協会(Pentagon Press Association)は「事前検閲の疑いがあり、報道の自由を著しく抑圧する」と抗議声明を発表。ABC、CBS、CNN、NBCのテレビ各局も反対声明を出し、署名を拒否した。日本のメディアも朝日、毎日、読売、日経の各新聞社やNHKなどが署名を拒否したという(「新聞協会報」10月28日付)。FoxニュースやNewsMaxなどトランプ大統領に近い保守系メディアも反対している。

一方、新指針に同意し、ペンタゴンへの出入りを認められたメディアは「Frontlines」(今年9月に銃撃されて死亡した保守派活動家チャーリー・カーク氏が2012年に設立したNPOのTurning Point USAが運営)や、「OANN」(One America News Network)、保守系ニュースサイトの「Human Events」「The Post Millennial」「Gateway Pundit」「The National Pulse」など。いずれも一般にはほとんど知られていない新興・独立系の右派メディアだ。ペンタゴン側は「主流メディアのフェイク報道を回避して真実のニュースを直接国民に届ける新たな報道体制」「ワシントンの報道陣を再編し、主流メディアと友好的なメディアの間に公平な競争の場を提供すること」と歓迎している。

こうした動きをジャーナリズム研究を手がけるハーバード大学内のニーマン・ラボ(Nieman Journalism Lab)は、政府が国民に対して十分に情報開示しない軍事行動を明るみに出すうえで歴代のペンタゴン担当記者らが極めて重要な役割を果たしてきたことを実例を挙げて強調。「政権による報道そのものへの攻撃で、ペンタゴンが政権に批判的報道を抑え込む意図を持つことは明らか」と報じている(=冒頭画像)。また、米最高裁がこれまで示してきた「(政府による)事前抑制は最も深刻な言論の自由の侵害」という原則に反するとの意見も根強く、「このまま報道を敵視する姿勢が制度化されれば民主主義の根幹が揺らぐ」と憲法の研究者らは警鐘を鳴らしている。新政権の発足後、ペンタゴンでは主流メディアの作業スペースが撤去されており(既報)、今回はその流れに続くものだ。「トランプ大統領とヘグセス長官に友好的な報道体制に変えるための露骨な方針。報道機関と政府の緊張関係は新たな段階に入った」と署名を拒否した米メディアは深刻に捉えている。

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