CBS『60ミニッツ』のプロデューサーが辞任 報道の独立性めぐり経営陣やトランプ政権と軋轢

編集広報部
CBS『60ミニッツ』のプロデューサーが辞任 報道の独立性めぐり経営陣やトランプ政権と軋轢

米パラマウント・グローバルと、その傘下CBSの報道番組『60ミニッツ』、そしてドナルド・トランプ大統領――三者の軋轢が表面化している。4月22日、『60ミニッツ』のエグゼクティブ・プロデューサーを長年務めたビル・オーウェンズ氏が辞任した。パラマウントとスカイダンス・メディアの合併交渉やトランプ大統領との訴訟に関連して「経営陣が干渉し、これまでどおりの編集方針が維持できなくなった」からだという(ニューヨーク・タイムズ〔NYT〕)。編集の独立性で報道番組の担当幹部が身を引くのは極めて異例と米各メディアが伝えている(冒頭画像はオーウェンズ氏の辞任を伝える翌4月23日の『CBS Evening News』/CBSのサイトから)。翌週4月27日放送の同番組もこれを伝え、「今回の事態が公正な報道の時代を終わらせるおそれがある」との危機感を視聴者に訴えた。

トランプ大統領が昨年末、パラマウントとCBSに100億㌦(約1兆5,000億円/今年2月に200億㌦に増額)の損害賠償を求める訴訟を起こしたのが発端だ。『60ミニッツ』が昨年10月に放送したカマラ・ハリス氏(当時の副大統領で民主党次期大統領候補)へのインタビュー内容が、ハリス候補に有利になるよう不正に編集されたというのがその理由(既報)。CBSは5月現在、この主張を全面的に否定し、闘う姿勢を示している。

しかし、スカイダンスとの合併を控えるCBS」の親会社パラマウントは弱腰だ。合併に必要な米連邦通信委員会(FCC)の承認への障害になる可能性があるからだ。事態の早期解決が合併成立の鍵を握るとみられ、パラマウントはトランプ大統領との和解に向けた調停に臨んでいる。同社の実質的なオーナーであるシャリ・レッドストーン会長が、合併成立までトランプ大統領に批判的な報道を控えるようCBSに指示していたとも、イスラエルとガザ地区の紛争の伝え方で会長と現場で考え方の違いがあったともいわれる。

もう一人の当事者であるトランプ大統領はこの間、FCCに『60ミニッツ』の調査を求めるとともに、CBSの放送免許取り消しをちらつかせる。4月半ばには「『60ミニッツ』がハリス氏のインタビューを不当編集した"犯罪"を、パラマウントとCBSが認めた」と事実とは異なる内容をSNSに書き込んでいる。NYTが「大統領による訴状は根拠がないと法律の専門家が指摘している」と報じると、「(NYTによる)不当介入だ」と糾弾するなど一歩も引く様子はない。

報道機関の独立性、企業の利益、そこに政治的圧力をかける大統領陣営――三者それぞれの立場のせめぎ合いが続いているが、メディア関係者の間では、結果次第で報道の自由が大きく損なわれる前例になるとの懸念が深まっている。こうしたなか、米国では来シーズンのアップフロント(広告主とメディア各社が来期の広告枠を一括で販売する商談イベント)が始まった。5月13日にニューヨークで開かれたディズニーグループのアップフロントでステージに立ったABCの番組人気司会者ジミー・キンメルは聴衆である広告主に「『60ミニッツ』を応援しましょう。この番組にはその価値があります。ジャーナリズムを支えるのはあなた方の資金があってこそ。ぜひ支援をお願いします」と締めくくったという。日ごろ辛辣なトークで定評のあるキンメルだが、ABCのイベントの場でライバル局に連帯の意思を示すのは異例のことだという。

5月19日にCBSニュースのCEOも辞任

さらに、5月19日にCBSテレビの報道部門CBSニュースのウェンディ・マクマホンCEOが辞任したと米メディアが一斉に報じた。スタッフあてのメモには「会社と私の方向性が一致しないことが明らかになった」と記されているとされ、先のオーウェンズ氏に続いてパラマウント経営陣との対立が背景にあるとみられる。

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