鹿児島テレビ(KTS)のドキュメンタリー「テレビで会えない芸人」が、1月29日(土)の東京・ポレポレ東中野を皮切りに全国で順次劇場公開される。忖度のない政治ネタや風刺を武器に、全国の舞台を飛び回る芸人・松元ヒロさんに密着した本作。2019年にFNS九州・沖縄8局共同制作の「ドキュメント九州」枠で30分版を放送、翌年の長尺版は民放連賞番組部門のテレビエンターテインメント番組最優秀をはじめ、FNSドキュメンタリー大賞、放送文化基金賞、ギャラクシー賞などに輝いている話題作だ。
監督は制作部の四元良隆、牧祐樹の両氏。「テレビでできないネタをやる芸人がいる」と聞いて引っかかりを覚えていた四元氏が、19年2月になって松元さんの鹿児島公演を見たことが番組の発端。すぐに撮影をオファーした。ドキュメンタリーを制作する環境を後輩に作れてこなかった自戒も込め、番組では牧氏にディレクターを任せ取材に取りかかった。
<左から四元良隆監督、牧祐樹監督>
提供:東風
映画版は東海テレビの阿武野勝彦氏がプロデューサーを務めた。出会いのきっかけは07年の民放連賞。四元氏は「私たちは日本人です~ドミニカ移民 50年の叫び」、阿武野氏は「約束~日本一のダムが奪うもの」で、それぞれテレビ報道番組優秀を受賞している。「それ以来、事あるごとに相談に乗ってもらっていた間柄」と四元氏。KTSでは初めての映画制作にあたり、編集や構成にとどまらず、映画化の意義などでアドバイスを受けた。タイトル「テレビで会えない芸人」をめぐっては、「自分たちのこと、テレビのことを問わなければ作品の軸が揺らぐ」と、タイトルに耐えうる表現を模索するよう指摘されたという。
81分と尺に余裕ができた映画版には、松元さんの芸や人間性をしっかり見せる場面を追加。不寛容さが増す社会をどう生きるかといったテーマをより深く描いた。「かつては番組の企画に対して『それ面白い?』と問うていたのが、今は『それ大丈夫?』ばかり」と、表現の現場を覆う窮屈さを明かす四元氏。自局員へのインタビューなどでテレビの「みっともなさ」を表現する場面も盛り込み、"モノ言うテレビ"たりえていない現状を浮き彫りにした。1月14日からの鹿児島先行上映では、会場の観客から「テレビに大したことはできないだろうと番組は見ていなかったが、映画を見て反省した」との感想も。四元氏は現在、本作の書籍化に取り組んでおり、松元さんの芸に特化した番組の制作にも意欲を見せる。
<鹿児島での舞台あいさつの模様>
提供:東風
29日はポレポレ東中野と京都・京都シネマ、翌30日は神戸・元町映画館、大阪・第七藝術劇場で、両監督、阿武野氏、松元さんによる舞台あいさつを予定している。