RSK山陽放送に行ってみた 芸術・地域との調和と最新IPシステム

編集広報部
RSK山陽放送に行ってみた 芸術・地域との調和と最新IPシステム

「能楽堂」を皆さんはご存じだろうか。能や狂言を専門に演じる劇場を指す。伝統芸能に疎い人なら言葉の理解はできても、どのような劇場か具体的にイメージできるだろうか。以下の写真が能楽堂だ。

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2年ほど前、岡山にできた能楽堂ホール「tenjin9」である。実は、RSK山陽放送の社屋内にこのホールはある。なぜ放送局が能楽堂を作ったのか――。気になったので、岡山市にある同社を訪れた。

岡山駅から同社を目指して歩くと、美術館のような建物が見えてきた。これが同社の社屋だった。日本三名園の一つである岡山後楽園や岡山城を中心にさまざまな文化施設が集まるエリア「岡山カルチャーゾーン」に位置しており、隣には岡山県立美術館や岡山市立オリエント美術館が立ち並ぶ。時折、美術館と間違えて同社の社屋に入ってくる人もいるとか......。

建物は地上5階、地下1階で、延べ床面積は約1万1,400㎡(発電機棟含む)。2021年6月6日に現社屋に移転し、テレビ放送を開始した(ラジオは2023年4月10日から現社屋で放送開始)。2018年12月に着工、竣工は20年7月。「RSKイノベイティブ・メディアセンター」と名づけ、長年続けてきた地域活動の「発展的継続」と放送局を取り巻く環境変化に対応する「革新」を目指している。

芸術・伝統芸能を取り入れる

社屋の入り口で早速、芸術作品が出迎えてくれた。1階正面玄関前には岡本太郎氏が制作した陶板レリーフ「躍進」を設置。1972年に岡山駅に新幹線が開通したことを記念し、同駅のために造られたもの。同駅のリニューアルとRSKの社屋移転の時期が重なったことから、ここに移設された。このカラフルなレリーフは縦3.85m、横8.20mの大きさで、日本六古窯の一つである信楽焼の陶板が用いられている。

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<岡本太郎「躍進」

中に入ってエントランスを進むと、能楽堂ホール「tenjin9」の入り口が見えた。三間四方の本格舞台と三間の橋掛かりを持つ総ひのき造りの本格的な能舞台を備えたホールだ。木材は国産で、移転からしばらくたっているのにまだヒノキの良い香りが残っていた。伝統芸能だけでなく、講演会や展示会、体験イベントなど幅広い用途で使われている。

ホールを保有することで、そこに地域の人々が集い、新たな文化の交流・創造につながる。「地域とともに」を社是とする同社にとって何よりのメリットだという。また、伝統的な建造物であることが付加価値をより高めており、海外の人が参加するイベントなどでは特に好反応が得られるようだ。

IPシステムの導入

社屋移転にあたり、サブ映像システムにはソニーのIP Liveプロダクションシステムを導入。回線・制作サブ・報道サブを同システムに統一することで、局内のリソース共有や柔軟なシステム設計を可能とし、導入コストを圧縮した。

従来のSDI(シリアルデジタルインタフェース)からIP(インターネットプロトコル)システムに変更したことによる運用面の変化は特にないという。部分的にSDIソースを混在させることで映像遅延を最小化しているため、多くのスタッフが違和感なく、もしくはIPと気づかずに日々の放送をしているようだ。

伝送規格には、 国際的な標準規格である「SMPTE ST 2110」を採用、また リモートメンテナンスを活用することで保守の合理化を実現している。今後はリモートプロダクションなどで中継の省力化やコスト削減の可能性を探りたいという。

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<制作サブ

自慢のポイント・BCP対応について

社屋の自慢ポイントをうかがうと「陶板レリーフ」「能楽堂ホール」に加え、5階にある「社員食堂」を紹介いただいた。東側が全面ガラス張りで、後楽園や岡山城などを臨むことができる。自然が広がっているので四季の移り変わりを楽しめそうだ。テラスに出ることも可能で、昼休みなどは椅子に座り歓談している従業員もいるとか。実に羨ましい。

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<社員食堂から見た景色

また、オフィスフロアの中心は吹き抜けとなっていて、その周辺には打ち合わせや休憩のためのスペースが設けられている。旧社屋の時よりも軽いコミュニケーションがとりやすくなったという。

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<フロア間をつなぐ吹き抜け

社屋は、ハザードマップ上で1000年に1度の規模の大雨でも浸水しない場所に建てられている。また、堅牢な地盤であるうえに、免震構造を採用している。地下1階と地上1階の間を免震層としている。また、停電時の電源確保のため、発電機、電力引込は2系統、UPS(無停電電源装置)を導入している。

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<地下1階と地上1階の間にある免震層

RSK山陽放送の社屋は、周辺にあるさまざまな文化的施設と調和していることがわかった。「岡山カルチャーゾーン」を訪れる人々は社屋を名建築として堪能できると思う。また、IPシステムの導入は発信の手法が多様化していく現代に適した試みだ。この社屋は伝統と最新技術が共生する場であり、2023年で開局70周年を迎えたRSKを象徴していると感じた。

取材・構成=「民放online」編集担当・梅本樹)

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