サンテレビ「避難呼びかける多言語VTR」 たとえ停電しても無力ではない

藤岡 勇貴
サンテレビ「避難呼びかける多言語VTR」 たとえ停電しても無力ではない

サンテレビは、1月1日に発生した令和6年能登半島地震で兵庫県北部に津波警報が発表されたことを受け、多言語で避難を呼びかけるVTRを放送した。日本語と手話のほか、英語、韓国語、中国語、ベトナム語、ネパール語、タガログ語、ポルトガル語で伝えた。今回は発案者である同社の社会報道部の藤岡勇貴キャスターに経緯や反響などを執筆いただいた。※冒頭写真=ベトナム語での呼びかけ


独立局は発災後すぐに対応できる系列のキー局が存在しない。また、人員が少なく緊急ニュースの態勢を整えるのに時間を要する。そのため、すばやく避難を呼びかけられる手段としてVTR制作を考えた。きっかけは、2021年6月の新社屋移転だった。新社屋のコンセプトが「災害に強い放送局」だったため、ソフトの面で何が必要かを考え、VTR制作を企画した。

実際に収録を始めたのは2022年7月。約1年前に完成していたが、「速報テロップが出ると、文字とかぶって見えにくいのでは」と社内で指摘があり、能登半島地震の発災1カ月前に手直しをしたばかりだった。今回制作したVTRは、「兵庫県内に大津波警報」「兵庫県内に津波警報」「兵庫県内で地震 火災に注意」の3種類。社会報道部長がXDCAMをマスターに直接持っていき、津波警報発表7分後にマスター送出で放送に至った。

手話や多言語を取り入れたのは、自らの取材経験が影響している。震災の翌年に多文化共生を掲げて誕生し多言語で情報発信を続けているコミュニティ放送局「FMわぃわぃ」(神戸市長田区)や聴覚障害者を取材させていただいたことがあった。震災の時に、在留外国人や聴覚障害者は言葉が分からず不安になるだけでなく、物資の供給の呼びかけがあっても受け取ることができなかったことなどを知った。このため、VTRをつくるならば手話や多言語を入れたいと考えた。

手話に関しては、聴覚障害者の取材を担当してきた記者が神戸ろうあ協会に相談。老若男女問わず、聞こえないすべての人に伝わるよう、聴者(耳が聞こえる人)の手話通訳者が表現するのではなく、ろう者が自ら表現する「ろう通訳」を取り入れた。

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<日本語と手話による呼びかけ>

多言語に関しては、「FMわぃわぃ」代表理事の金千秋さんに相談し、MCを紹介してもらった。最初は英語、韓国語、中国語、ベトナム語、フィリピン語、ポルトガル語(ブラジル人向け)だけだった。しかし、近年神戸ではネパール人が多いことを金さんから指摘され、ネパール語を加えた。言語を選んだ基準は、当時の神戸市の人口統計を参考にした。1996年から多言語放送に取り組んできた「FMわぃわぃ」の協力があってこその放送だった。

SNSやメディアを通じてとても大きな反響があり、ほとんどが好意的な意見だった。速報スーパーや津波の地図テロップだけでは、人は逃げようというスイッチが入らない。VTRは生放送と違って臨機応変に対応できないが、緊急放送の態勢を整えるまでに最低限の情報を提供する意味では、今後も使用できると考えている。

私たちは南海トラフ巨大地震を想定してVTRを制作した。南海トラフ巨大地震では、広域でのブラックアウトの可能性もあり、次の災害でそもそもテレビが役に立つか分からない。しかし、今回、X(旧Twitter)やYouTubeで配信したことも影響して、サンテレビの多言語放送の動画や写真がかなり拡散されていた。テレビが情報源となり拡散される意味では、たとえ停電しても無力ではないと感じた。

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<ネパール語による呼びかけ>

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