岡山放送(OHK)には「ミルン」と「クルン」がある。前者は2014年にイオンモール岡山に開設した報道制作拠点「OHKまちなかスタジオ ミルン」で、後者は2021年に移転した本社オフィスのなかに設けた「KURUN HALL(クルンホール)」。同社は2つの拠点からさまざまな価値を発信している。なぜ2拠点を構えているのか、気になったので同社の社屋を訪れた。
オフィスタワーを区分所有
まずは「KURUN HALL」のある本社オフィスに行った。岡山市の中心の広大なエリアで、オフィス・商業・住宅が一体となった複合商業施設「杜の街グレース」。OHKはそのオフィススクエア(10階建て)の8―10階を区分所有している(延床面積は約6,000㎡)。2019年5月に着工し、21年2月に竣工、同年7月から放送業務を開始した。こちらには管理・営業・放送関連部門のほか、グループ会社が入居している。イオンモールにある「ミルン」の徒歩圏内に位置する。
8階にあるエントランス(=写真㊤)は地層のような壁が印象的だ。これまで積み上げてきた同社の歴史と未来を表現。創立当初の思いを引き継ぐために旧社屋で使われていた建材の一部が壁に埋め込まれている。テレビ局らしさを残しつつ、最小限の作りにしているという。
オフィスにたくさんの人に訪れてほしいという考えから、4分の1ほどを来訪者に開かれたスペースとしている。ミーティングスペース「Meets!」(=写真㊦)では来訪者対応のほか、従業員が軽い打ち合わせができるようになっている。
10階にはマスターを設置。マスター設備の更新をスムーズに行うために空きスペースを確保している。奥には電源室があり、ここから3フロアの電力を供給している。BCPの観点から、ビルが停電した際にも放送が継続できるように、ビルとは別の電源を使用している。
「杜の街グレース」を運営しているのは、交通・運輸事業などを展開する両備ホールディングス(以下、両備)。「杜の街グレース」は現在も開発が進んでいる。イベントなどが開催されており、OHKは放送局が得意とする「情報発信」を活かし、両備とともにさまざまな企画に取り組んでいる。また、同エリアにある岡山唯一のタワーマンション「岡山 ザ・タワー」の住民向けの情報提供なども実施している。
「KURUN HALL」
9階には多目的ホール「KURUN HALL」。「KURUN(クルン)」には「いろんな人がくる、くる人みんなでわくわくできる出会いやつながりを作っていく」といった意味が込められている。104席の移動観覧席を設置し、講演会やセミナー、イベントなどに活用できる。ホールの隣には立食パーティーなどが行えるラウンジとキッチンがある。飲食できるスペースが隣接している100人規模のホールは岡山にないので、そこで差別化できているようだ。また、地震などの緊急事態に備え、同ホールを発信拠点として使用することも想定している。
私が訪れた日は「ユニバーサル・ミュージアム――さわる!"触"の大博覧会 岡山巡回展2023」(4月1日―5月7日開催)を実施していた(=写真㊦)。国立民族学博物館・広瀬浩二郎教授が監修した博覧会で、初めての巡回展が同ホールで開かれた。「なぜさわるのか、どうさわるのか」「見ないでさわる」「見てさわる」の3つの展示ゾーンを置き、さまざまな素材と手法で、さわることの可能性を探るのがコンセプトだ。展示ゾーンそれぞれに協賛企業を募るなどマネタイズ面も意識している。会場内に設けた点字ブロックにもホテルグランヴィア岡山の協賛を受けた。
「OHKまちなかスタジオ ミルン」
本社オフィスを後にし、徒歩でイオンモール岡山の5―6階にある「OHKまちなかスタジオ ミルン」(=写真㊦)をうかがった。「ミルン」には「可視化=見える」と岡山弁・讃岐弁の「見るん?」の意味を込めている。5階にあるメディアフロアは延べ床面積約600㎡で、スタジオやスタジオサブが入っている。スタジオは可視化しており、ニュースや生放送などの番組制作の様子が見学可能だ。この日は平日にもかかわらず多くの観覧者がいた。
隣には11のスクリーンを備えたシネマコンプレックスと600人収容可能の「おかやま未来ホール」がある。番組化を見越したイベント開催のほか、映画の舞台あいさつとOHKでの番組出演どちらも続けて行うことができるという。
6階には延べ床面積約1,200㎡のオフィスフロアがあり、こちらもガラス張りで一部は外から見えるようになっている。フロアの真ん中にあるガラス張りの会議室が印象的だった。
「ミルン」はテナントとして入居。イオンモール岡山には年間2,000万人ほどが来訪するので、その集客力を活かして自社の価値を発信している。また、1階にはイオンモール岡山とOHKによる館内店舗の情報やイベント中継などを提供する「haremachi TV」があり、館内およびネットで視聴できる。
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旧本社は住宅街の中に自社ビルを構えていたOHK。共創の時代に、多様なステイクホルダーと協力しながら新しい価値を創造することを選び、中心市街地に進出。「クルン」本社オフィスは両備の街づくり、「ミルン」ではイオンモール岡山の集客力との相乗効果を狙って、2つの拠点を構えていることが分かった。どちらにも共有しているOHKの立ち位置は「情報発信」。放送局が一番得意とすることを活かしながら、街との連携に取り組んでいた。
(取材・構成=「民放online」編集担当・梅本樹)