テレビ放送が日本で産声を上げたのは1953年。2月1日にNHK、8月28日に日本テレビ放送網が本放送を開始しました。それから70年、カラー化やデジタル化などを経て、民放連加盟のテレビ局は地上127社、衛星13社の発展を遂げました。そこで、民放onlineは「テレビ70年」をさまざまな視点からシリーズで考えます。
30歳以下の若手テレビ局員に「テレビのこれから」を考えてもらう企画を展開します。第8回に登場するのは、WOWOW技術センター技術推進ユニットの馬詰真実さん。コンテンツやサービスに貢献する新技術を調査研究する「WOWOW Lab」で、「IT×映像」の分野に携わっています。馬詰さんには、制作技術の側面からテレビの未来を考えていただきました。
私が担当している業務は、WOWOWのコンテンツやサービスに貢献する新技術を調査研究する新技術開発です。当社ではこれを「WOWOW Lab活動」と名づけて力を入れており、私は「IT×映像」の分野に取り組んでいます。※冒頭写真=WOWOW Labで意識されている開発のループ
就職活動時は文系でしたが、新しい技術への興味が強かったので、技術分野とそれ以外の分野をつなぐ架け橋のような人になりたい! という軸がありました。また、エンタメ(特に音楽)が好きだったので、エンタメに特化している当社に興味を持ち、WOWOW Labで技術開発がしたい! という一心で入社しました。
その意味では放送技術というより、エンタメに関わる技術に携わりたい、という意識が強かったように思います。希望どおり開発部門に配属され、新しいことって大変なこともたくさんあるのだな......と痛感しながら日々奮闘中です。
当社は衛星放送局ですが、映画や音楽、スポーツコンテンツがメインのため、ほかの配信事業者とどう差別化していくか、という意識が特に強いように感じます。
そんな中で私たちが目指すのは、お客さまに「さすがWOWOW!」と思われるコアな番組までカバーし、多彩かつ深く掘り下げたラインアップを実現していくことだと考えています。
そのために技術部門でできることは、予算や人的リソースの関係で諦めてしまう番組を減らすこと、つまり番組制作の効率化だと考え、業務に取り組んでいます。
リモートプロダクションの可能性
私が担当しているのは前述のとおりIT×映像の分野で、具体的にはリモートプロダクションやクラウドを取り入れた番組制作技術の開発です。
リモートプロダクションとは、中継先に多くのスタッフや機材が出向くスタンダードな中継とは対照的に、中継先の人手や機材を極限まで減らす、新たな番組制作の手法です。カメラなどさまざまな機材を遠隔操作することで、移動費や宿泊費などの経済的コスト、移動時間などの時間的コストを削減することができます。
当社のリモートプロダクションシステムはTBSテレビと共同で独自開発しています。特徴は、重厚な業務用機器ではなく、市販の小回りが利く機材やソフトウェア、インターネットを駆使している点です。そこに独自の低遅延技術を掛け合わせることで、機材の軽量化・コスト削減と映像のクオリティを両立しています。
例えば毎年配信している高校生のテニス大会の場合、カメラは会場(福岡や愛媛)に設置し、カメラのコントロールは東京側から市販のゲーム用コントローラーで行っています。このシステムであれば究極、インターネットさえつながっていればカメラマンが自宅で仕事をすることもできるのです。
今はオフラインで集まって番組制作をすることがまだまだ主流ですが、このようなスタイルが普及すれば、在宅勤務が必要な人や、家を出るのが困難な方など、これまで番組作りへの参加が難しかった方も参加できるようになります。
また、目指しているのは低コストの追求だけではなく、コンテンツに新たな価値を付与できるようなシステムにすることです。例えば、人の立ち入りが難しい場所や、大きな機材を置けない場所にリモートカメラを設置すれば、これまで撮影が難しかった画を撮ることができる、インターネット・ソフトウェアの拡張性を活かせばお客さまも映像制作に参加できるなど、さまざまな可能性を秘めています。
オープン化とクオリティ追求
よく言われていることですが、テレビ局が行ってきた「コンテンツを作り、届ける」ことはテレビ局以外も当たり前にできるようになってきています。そんな中でのテレビの未来には、大きく2つの方向性があるのではないかと考えています。
1つ目は、コンテンツ制作ノウハウのオープン化です。映像制作ソフトが普及し、動画の作り方もネットで調べることができる時代、コンテンツ制作のノウハウは年々一般化しています。その流れから一線を引くのではなく、積極的にその流れに貢献するようなサービスをテレビ局から出していくことで、他社の手法を学びながら自社の情報もオープンにし、一緒に高め合っていくことができると考えます。
また逆に、ほかの業界でしかできなかったことが、テレビ局でも取り入れられるようになってきています。技術分野ではクラウドやAIなどがその例ですが、それらを活用し元々持っているノウハウと結びつけることで、大きな変革につなげることができるのではないかと考えています。
2つ目は、ほかではまねできないような一歩踏み込んだクオリティを追求し続けることです。有料・無料問わず動画コンテンツがあふれていますが、YouTubeの動画をスマホで気軽に楽しみたい時もあれば、腰を据えて大きい画面で、テレビ局らしいクオリティのコンテンツを見たくなる時もあります。この「らしいクオリティ」というのは、尺であったり、ストーリー、脚本や監督、画質、カメラ、セットなど、構成要素は数多くあります。そのどこに着目し、突き詰めていくかを考え続け、実践することがそのクオリティを守り、アップデートしていくことにつながると考えています。
技術開発においても、どのような方向性を磨いていくべきなのか、常に自問自答しながら今後も業務に取り組んでいきたいと思います。