リモートプロダクションの可能性 コスト削減以外にもメリット WOWOWでのリモートプロダクションの様子

石村 信太郎
リモートプロダクションの可能性 コスト削減以外にもメリット WOWOWでのリモートプロダクションの様子

2019年春ごろ、WOWOWでは初めてリモートプロダクションという取り組みを実施した。TBSテレビと共同で開発・運用している低遅延マルチアングル配信アプリ「Live Multi Viewing」を制作に応用できないかと考えたことが始まりである。

ソフトウエア化で遠隔制御が可能に

通常の番組制作で遠隔地の撮影や配信を行う場合、中継車や中継機器を現地まで運び、多くのスタッフが現地でオペレーションを行う。これらの運用を見直し、機材を遠隔で制御することで、現地に行くスタッフの人数を減らすことがコストメリットにつながるのではないかというのが最初の狙いであった。そこでTBSテレビと共同で、既存の撮影機器ではなくスイッチャーやCG送出機、スロー再生機器をPCに置き換えソフトウエア化。それらを遠隔で制御し、現地から配信を行うことでコンテンツ制作を可能とした。遠隔地にある機材をリアルタイムで制御するには現地の映像を低遅延でモニターする必要があり、そのバックエンドのプロトコルには「Live Multi Viewing」を用いた。通常、専用回線を使うところ、汎用のインターネット回線でも映像伝送が可能なため、コストも抑えられるのが特徴である。

WOWOWでは、「WOWOW Lab」という旗印の下、さまざまな開発案件に取り組んでおり、テクノロジーを使って新しいコンテンツやサービスの可能性を追求している。社外のさまざまな企業やアーティスト、エンジニア、クリエーターとWOWOWのプロデューサーがコラボレーションしながら未来のWOWOW、そして新しいエンターテインメントをつくる活動を目的としている。TBSテレビと共同で実施しているリモートプロダクションもまた、その活動の一つである。

初めての試みから約3年がたち、実験も含め、ドラマの収録、音楽配信コンテンツの収録、テニスの試合やダンス大会の生配信などさまざまなコンテンツ制作をリモートプロダクションで実現してきた。TBSテレビとも継続的な共同開発を実施し、汎用機器の組み合わせによりカメラのリアルタイムな遠隔制御も可能となり、システムとしても進化を遂げている。

全員が1カ所に集中して制作しない独自の手法は、コロナ禍では密を避けた制作手法として応用が可能となった。現地で狭い作業部屋しか与えられない場合でも、運用者が遠隔地にいることで密を避け、安心感を持って番組の制作に集中することができる。

業務効率化と心理的安心感

22年3月にはテニスポータルサイト「WOWOWテニスワールド」で、第44回全国選抜高校テニス大会の生配信も本手法で行った。制作したコンテンツのアーカイブは同サイトで公開中(4月12日時点)である。本事例では現地に派遣した技術スタッフは2人のみ。スイッチャーやカメラの制御は東京・赤坂にあるTBS放送センターでオペレーションを行い、得点やCG、スロー映像のオペレーションは辰巳にあるWOWOWの放送センターで分散して制作を行った。

それぞれが日常的に業務を行う場所でコンテンツ制作が可能という点は心理的な安心感も大きい。そうした心理面だけにとどまらず、現地の会場の入り時間など会場側の都合にかかわらずオペレータが準備でき、システムチェックを行えることも大きなメリットである。現地側の制作機材はソフトウエア化によりワークステーション1台に集約。それらを複数カ所から遠隔で制御している関係から、その接続確認やシステムチェックは現地ではなく、東京から行えるのだ。

何度かリモートプロダクションを実施した上で、今では現地スタッフの移動・宿泊費の削減がかなった以上に、番組制作の業務効率化を図るシステムとしてメリットが大きいことから、今後の発展を目指したいと考えている。

現地1カ所に対して、制作側を2カ所にする分散制作を現時点では実施しているが、現地側の切り替えも可能である。複数カ所での撮影を同時に遠隔の1カ所から制作するような方法や、1つの番組制作を各自の家から分散して制作する方法など、今後はn対nの制作にも挑戦していきたい。海外のコンテンツの配信も実現できればコストメリットは最大化できる。

これらさまざまなコンテンツ制作を、引き続きWOWOW Labの活動として実施していきたい。本施策に限らず、WOWOWではさまざまな方々と共創することこそが今後のコンテンツ制作において重要であると考える。より多くの人と関わっていけるよう私自身、引き続きまい進していきたい。

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