【審査講評】作り手の思い、色濃く (2024年民放連賞ラジオ生ワイド番組)

やきそばかおる
【審査講評】作り手の思い、色濃く (2024年民放連賞ラジオ生ワイド番組)

8月21日中央審査【参加/44社=44本】
審査委員長=やきそばかおる(コラムニスト)
審査員=青木江梨花(脚本家、日本脚本家連盟理事)、やすみりえ(川柳作家)、山本康一(三省堂辞書出版部部長兼大辞林編集部編集長)

                           ※下線はグランプリ候補番組


短い時間で大きな満足を得られる「タイパ(タイムパフォーマンス)」が叫ばれる昨今だけに、ワイド番組はいかに飽きさせずにリスナーの心をつかむかが重要になってくる。今年の入選番組は、何気ない日常に笑顔を提供する番組からセンシティブな問題に迫った番組まで幅広いジャンルが揃ったが、いずれも「さまざまなアイデアでひとりでも多くの人に届けたい」という作り手の思いが色濃く感じられた内容ばかりであった。審査員の意見は分かれたが、企画、構成を総合的に判断したうえで評価した。

最優秀=山梨放送/はみだし しゃべくりラジオ キックス(=写真)
教養と雑談のバランスの良さを感じる。「楽しい話を届けたい」という出演者全員の意気込みが伝わってくる。特に『源氏物語』の紫式部の影響力の話をはじめとしたパーソナリティ・みほとけさん(ピン芸人)の話は発見が多く、ゆるい内容に聴こえて実は内容が濃い。歴史学者・平山優さんの長篠の戦いの話も新しい解釈と絡めていて興味深かった。それぞれのコーナーは13〜15分前後の適度な長さに収めており、雑誌のコラムを耳で楽しんでいる感覚になる。みほとけさんと塩澤未佳子さんのコンビネーションの良さに審査員いずれも感心。「お茶を飲みながら一緒におしゃべりをしているように楽しめる」という声もあった。

優秀=山形放送/オーレオーレ!「知ってほしい!里親制度」
ショッピングモールで行われた里親制度の啓発イベントの会場からの公開生放送。里親制度と養子縁組についてじっくりと伝えたうえで、里親になった夫婦が具体的なエピソードを交えて話していて、普段の生活の様子をイメージすることができた。この制度に関して考えるきっかけとなったというのは審査員全員の思いだが、せっかくの公開生放送なのでもう少し会場に集まった人やラジオのリスナーからの疑問に専門家が答えてほしかった。

優秀=ニッポン放送/霜降り明星のオールナイトニッポン
ラジオが面白くなるポイントのひとつに番組から漂う「謎」がある。この日は、霜降り明星のせいやさんが家庭の事情で出演できなくなるという緊急事態に、相方の粗品さんが一人二役をこなし、"もうひとりの粗品"と掛け合いをする離れ業でやりきった放送だった。事前に収録したものかと思いきや、リアクションメールも紹介する展開に、リアルタイムで聴いていたリスナーもビックリ。SNSのXも大変な盛り上がりだった。種を明かすこともなく、謎を謎のままにしておいたのもスマートだった。「霜降り明星」のプロ意識の高さをあらためて感じられる放送で、それに応えたスタッフのチームワークもお見事。

優秀=北日本放送/でるラジ『氷見を元気に!富山を元気に!能登にも届け!』
日頃から地元の人と触れ合っている富山県出身の俳優・室井滋さんの優しい話し方が、とても印象的だった。氷見の造り酒屋や高岡の御車山祭の関係者の能登半島地震からの復興への思い、県境を越えた石川の老舗和菓子店のリスナーの話、リスナーが作詞して出演者全員で歌った歌などパワーが伝わってきた。被災地は高齢者も多く、人生の先輩方への尊敬の念がこもっていたことや、夢について書いた作文を読んだ子どもが社会への本音を吐露したところにも心を動かされた。ラジオでなじみのあるパーソナリティたちが一丸となって、地元リスナーの背中を押していた。

優秀=大阪放送/OBCグッドアフタヌーン! 金曜お昼は、めっちゃ方正!
人情があって前向きな話が散りばめられていて好感が持てる。56歳の落語家・月亭方正さんは優れたバランス感覚の持ち主で、前回の振り返りでは、同じく落語家の露の紫さんの代演を務めた26歳の吉本新喜劇・曽麻綾さんの若い世代の考えを受け止めつつ、「長く生きてきた世代は、今までに貯めてきたものをうまく利用して生きることも大事」と同世代の背中を押していたのが印象的だった。間寛平さんを迎えたゲストコーナーは間さんの波瀾万丈な人生の引き出し方が秀逸。落語家ならではの話も面白く、独演会に向けて緊張したエピソードはハラハラして、まるで体験を共有しているかのようだった。

優秀=中国放送/週末ナチュラリスト
審査対象となった回はセクシャルマイノリティをテーマにした4時間。パーソナリティの岡佳奈さんがトランスジェンダーの子どもをもつA子さんに寄り添う気持ちでリスナーに問いかけていて優しさがにじみ出ていた。番組の冒頭で、「普通」という言葉が人を苦しめる話をして他人事ではないことをさりげなく伝えた点も素晴らしい。58歳で女性として生きることに決めたトランスジェンダーの奥田圭さんとA子さんの対面で、奥田さんの「先に生まれた者として、あなたのために頑張る」という言葉が心に響いた。当事者からのメールも興味深く、「気づかされる点が多かった」との感想が審査員から飛び交った。

優秀=南日本放送/てゲてゲハイスクール→ハウスpresents「出張!福島がいく かごんま修学旅行」
南日本放送の岩﨑弘志と毎日放送の福島暢啓(宮崎県出身)の両アナウンサーの掛け合いのテンポの速さが、審査員の間でとても好評だった。鹿児島の情報はきちんと伝えつつ、状況を描写する力に腕のある両者による、笑いを生むツッコミが炸裂。ハプニングも笑いに変える技量も見事だった。エンディングは観覧車での男性2人きりの振り返り。最後まで無難な中継にしたくないという意地を感じた。スタジオパーソナリティの竹之内雄太さんの声の不調をカバーした、同じくパーソナリティの東垂水優陽さんも現役の大学生とは思えないほど優れていた。


・全部門の「審査講評」および「最優秀受賞のことば」はこちらから。
・審査結果はこちらから。 

          

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