【審査講評】引き継ぐための「再解釈」と「蓄積」の力 (2024年民放連賞ラジオ報道番組)

錦光山 雅子
【審査講評】引き継ぐための「再解釈」と「蓄積」の力 (2024年民放連賞ラジオ報道番組)

8月22日中央審査【参加/33社=33本】
審査委員長=錦光山雅子(フリーランスライター)
審査員=石井 彰(放送作家)、藤代裕之(ジャーナリスト、法政大学社会学部教授)、三谷文栄(日本大学法学部准教授)

                           ※下線はグランプリ候補番組


今回の審査で浮かび上がったのは、報道における「再解釈」と「蓄積」の力である。関東大震災の流言飛語をSNSの誤情報と結びつけることで、事象が新たな意味を帯び、旧日本軍兵士のPTSDを遺族の証言から掘り起こすことで、語られてこなかった戦争被害を描き出した。また、免田事件の記録の検証や、能登半島地震における原発計画をめぐる取材では、資料の収集や取材者と住民との信頼関係といった「蓄積」の力が感じられた。

最優秀=北日本放送/KNB報道スペシャル ふるさとの亀裂~地震と過疎と原発と~(=写真)
2024年初頭の能登半島地震を機に、震源地に近い石川県珠洲市で30年近く続いた原発建設計画と、計画の賛否をめぐる住民の対立、過疎の現状を振り返った。原発立地の賛成派、反対派双方の生々しい語りは、取材する側、される側の深い信頼関係があったからこそだろう。審査でも「外部からは決して見えない部分を見ることができた」などと、地元メディアとしての蓄積を高く評価する声が相次いだ。

優秀=山形放送/YBCラジオドキュメント 戦争とPTSD ~でくのぼうの子どもたちは告発する~
戦場での極限状態からPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんだ日本兵たちの存在は長年指摘されてきた。今年、政府が初の実態調査を始める方針が固まり、あらためて注目されている。番組では復員後無気力状態が続き「でくのぼう」と呼ばれた元兵士の遺族の証言を紹介、関連資料から組織的に隠蔽されていた戦争被害を浮き彫りにした。審査では「精神疾患や遺族に視点を広げ、新たな戦争被害を発掘した」と評価された。一方、音声面での聞きやすさに課題を指摘する意見もあった。

優秀=エフエム東京/関東大震災特別番組 「福田村事件」~暴走することばの群れ
100年前の関東大震災直後の行商団への襲撃事件を題材に、誤った情報を信じた個人が、正義感から加害者となりうる集団心理の構造を浮き彫りにした。SNSでの誹謗中傷や偽・誤情報など、現代にも通じる「言葉の暴力」の問題にも言及。審査では「事件を立体的に捉えることに成功し、現代社会への問いかけとしても重要な作品」と評価する声が上がった。一方、番組構成面で改善の余地を指摘する意見もあった。

優秀=山梨放送/リスタート~ギャンブル依存症回復への道~
違法賭博事件を機に注目されたギャンブル依存症について、地元の回復支援団体の活動を取材。当事者の率直な語りと、専門家の解説で、依存症への理解を促している。審査では「歴史的な出来事を検証するラジオ報道番組が多い中、今起きている事象を取り上げるのも報道の役割」と評価する意見があった一方で、再発例の紹介など、より多面的なアプローチを求める声もあった。

優秀=MBSラジオ/流言飛語百年~関東大震災と現代のヘイト
100年前の関東大震災直後のデマによる朝鮮人虐殺という歴史的事件と、SNSでの差別やヘイトスピーチといった現代の問題を紐解いた。どちらも差別意識を背景に誤情報が思い込みの正義感を生み、他者への暴力を引き起こす構造を浮き彫りにした。審査では、阪神・淡路大震災で在日コリアンの住民が本名を名乗れなかったエピソードなどが評価された一方、ヘイトが生まれるメディアやプラットフォームの構造に踏み込む必要性も指摘された。

優秀=山口放送/捕鯨の現在地
2019年の商業捕鯨再開後の地元の現状を、捕鯨の拠点・下関を舞台に丁寧に描いた。低迷する消費の現状と、そこからの再起を図る関係者の意気込みが伝わってきた。審査では「『将来の捕鯨がどうあるべきかを示していない』という関係者のコメントに納得した」という指摘もあった一方、反捕鯨の意見や国際的な政策への考察を盛り込むことで、よりバランスの取れた報道を期待する意見も出た。

優秀=熊本放送/真実を求めて~免田事件が問い続けるもの~
日本初の確定死刑囚の再審無罪が確定した免田事件で冤罪を訴え続けた免田栄さんは、獄中で公判調書を自ら写し取り裁判を理解していった。その足跡はジャーナリズムそのものである。また、地元メディアの元記者たちが、膨大な関連資料を今も検証し続ける自主活動について、審査では「時間をかけて検証・記録を続けるジャーナリズムの役割」として高く評価された。

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