中国放送・佐々木広高さん 大切な"同期"『ダイソー スポーツスペシャル 天皇盃 第30回全国男子駅伝 実況中継』を振り返って【制作ノートから】⑪

佐々木 広高、坂上 俊次、石田 充
中国放送・佐々木広高さん 大切な"同期"『ダイソー スポーツスペシャル 天皇盃 第30回全国男子駅伝 実況中継』を振り返って【制作ノートから】⑪

民放onlineは、シリーズ企画「制作ノートから」を2024年2月から掲載しています。第11回は中国放送の佐々木広高メインディレクターを中心に、1月19日に全国38のラジオ局で放送された『ダイソー スポーツスペシャル 天皇盃 第30回全国男子駅伝 実況中継』(日、12:15~15:15)について執筆いただきました。作り手の思いに触れ、番組の魅力を違った角度から楽しむ一助にしていただければ何よりです。(編集広報部)


はじめに

長野県の4連覇、そして大会最多となる11度目の優勝で幕を閉じた2025年の「天皇盃 第30回全国男子駅伝(通称:ひろしま男子駅伝)」。いまやすっかり冬の安芸路を彩る風物詩となったこの大会のラジオ中継を中国放送(以下、RCC)では1996年1月の第1回大会から制作しています。 実は自分にとって、この大会は「同期」になります。1995年4月に入社し、最初に配属されたラジオセンターで、生ワイド番組の駆け出しディレクターだった自分は、第1回大会で、宮島口にある第3中継所のFD(フロアディレクター)を担当。それから時は流れ、あのころのハナタレFDはいまやアラフィフのオヤジとなり、気がつけば2020年の第25回大会からメインディレクターとして中継を統括する立場になりました。そんな「同期」についてお話ししたいと思います。

【RCC】本社スタジオ実況席_square.jpg

<RCC本社スタジオの実況席>

全国男子駅伝とは

12月の都大路(京都府)での全国高校駅伝、1月のニューイヤー駅伝、箱根駅伝と、年末年始は日本各地で駅伝が行われていますが、選手の強化育成と、駅伝競技の普及を目的に始まったのがこの大会です。 第1回から第4回(1999年)までは7区間、47.0kmのコースで、第5回(2000年)からは、広島市の平和記念公園を発着点に、ユネスコの世界文化遺産である原爆ドームと厳島神社のある廿日市市を結ぶ現在の7区間、48.0kmのコースになりました。また、第15回(2010年)からは、優勝チームに天皇盃が授与されています。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、第26回(2021年)から2年連続で中止になったものの、第28回(2023年)から再開し、今回で30回目の節目を迎えました。

都道府県別の対抗での駅伝が大きな特徴で、参加する47都道府県のチームは所属の垣根を越えて中学、高校、そして大学を含む一般の選手で構成されます。メンバーには、前述の都大路やニューイヤー、箱根で走った有力なランナーたちも多く選ばれています。そのため、通常ではほとんど見ることのない、中高生と一般選手の間によるタスキ渡しや、実業団選手と大学生の直接対決、大学の同門対決など、多くの見どころがあります。

【RCC】沿道でラジオを手に観戦するリスナー_square.jpg

<沿道でラジオを手に観戦するリスナー>

大会から羽ばたいた名選手達

大会の目的である「育成・強化」という面でみると、これまで数多くの名ランナーたちが、中学・高校時代にこの大会を経験してきました。

例えば......

箱根駅伝で活躍した"山の神" 柏原竜二
(第13回大会 いわき総合高 1区区間賞)

東京五輪・パリ五輪 マラソン代表 大迫傑
(第15回大会 佐久長聖高)

1万m日本記録保持者 塩尻和也
(第19回・20回大会 伊勢崎清明高)

マラソン日本記録保持者 鈴木健吾
(第19回大会 宇和島東高)     

東京五輪3000m障害入賞 三浦龍司
(第21回・22回大会 浜田東中  第23回・24回・25回大会 洛南高)

などなど

日本陸上競技連盟(日本陸連)の高岡寿成シニアディレクター(第2回大会優勝の京都チームでアンカーを務めた名ランナー)は、今回の中継内でのインタビューで、「特に中学生で、学校単位で全国大会に出場できなくても、個人で頑張っている中学生たちにとっては都道府県代表に選ばれて、こういう大舞台に立てることは非常に意味がある」「(ジュニア世代は)この大会で実業団や大学のトップクラスの選手と一緒のチームになることで得ることも多い」と語っています。

実はこれ、われわれにも当てはまることで、イチ地方局のディレクターが、この大会を通じ「全国ネット」という大舞台で中継番組を制作できることは大変貴重な機会だと感じています。

RCCラジオは総力をあげて中継

現在、RCCラジオ唯一の全国38局ネットとなるこの番組、営業サイドのセールスはもちろん(番組の冠スポンサーは広島に本社があるダイソー)、編成、技術、各制作会社のサポートを受けたほか、コース紹介など番組内のナレーションは、RCCラジオの看板番組『ごぜん様さま』のパーソナリティたちが担当。 さらに中継基地の設営などでお世話になったコース沿いの地元の方々の協力のもと、 当日は約70人のスタッフが総力をあげて中継に臨みました。

本番では、入社29年目の石橋真アナウンサーによる熱気あふれる実況と、第16回(2011年)から長年にわたり解説をお願いしている、青山学院大学・原晋監督の的確かつ、ウィットに富んだコメントも飛び出す中、肝となったのが、ランナーと併走し、一番近い場所からその表情と沿道の様子を伝えるバイクリポート。ここで今回リポートを担当した坂上アナ、石田アナに一旦、原稿のタスキを渡したいと思います。

坂上俊次アナ(第1放送車・バイクリポート担当): 第1放送車は、先頭ランナーから20位前後まで、コース上を変幻自在に移動する。ランナーの真横を並走する特等席だ。真剣に表情やペースを見ていれば、ランナーが抜きにかかる瞬間はわかる。 そこでリポートを入れるのがミッションだが、事はそんなにたやすくない。コマーシャルもあれば、演出もある。解説者の話も遮りたくない。 「事件は現場で起こっているんだ!」そんな葛藤を飲み込みながら、折り合いをつけたタイミングでマイクのスイッチを入れる。しかし、葛藤は無駄ではない。「ここで伝えたい。でも、このタイミングでは入れられない」。そんな心の揺れ動きの分だけ、届ける言葉は強くなると確信している。

【RCC】レポートする坂上アナ_square.jpg

<バイクリポートをする坂上アナ>

石田充アナ(第2放送車・バイクリポート担当): 第2放送車は上下動を繰り返しながら8位から40位台の注目選手に密着する役目です。今年は3区の30位前後でトップランナーが激突。 一人は「駅伝ラストラン。地元和歌山のタスキを左肩からかけて......」とリポートした若林宏樹。青学大の箱根V戦士だけに沿道に"若様"と書かれたウチワが揺れる中、10人抜きの快走をみせました。 ただそんな若林を上り坂で突き放したのが群馬の塩尻和也。「高校2年から九度も走ってきた大会、中高生の見本になる」と意気込んでいた1万m日本記録保持者が貫禄の区間賞を獲得しました。 真冬のバイク旅には11個のカイロが必要でしたが、二度とない激アツな対決を真横で見ることができた興奮で心は温まった3時間でした!

【RCC】第2放送車 石田アナ 順位把握用のホワイトボードとマグネット(47個)_square.jpg

<第2放送車 石田アナ 順位把握用のホワイトボードとマグネット(47個)>

こうして2人からの臨場感あふれるリポートが入る中、盛り上がりをみせた大会は長野県の優勝で幕を閉じ、われわれの3時間の生放送も無事に終えることができました。

たすきをつなぐ

「同期」である全国男子駅伝と歩んできた30年。急務なのが次世代への「継承」です。先輩達が築き上げ、残してくれた駅伝の全国中継のノウハウというタスキを、きちんと後輩たちに渡さなければなりません。 昨今、人手不足や予算削減など制作現場にとっては厳しい状況が続いていますが、知恵と工夫で乗り越え、このタスキをしっかりとつなぎ、これからも冬の安芸路で繰り広げられるランナーたちの熱い走りをRCCから全国のリスナーに届けたいと思います。


【執筆者紹介】

RCC佐々木広高_square.jpg 中国放送 報道制作局スポーツ部専任部長

 佐々木 広高(ささき・ひろたか)

 1972年生まれ。1995年中国放送入社。現在『RCCカープナイター』など、主にラジオスポーツ中継の制作を担当。


RCC坂上俊次_square.jpg中国放送 アナウンサー

坂上 俊次(さかうえ・しゅんじ)

1975年生まれ。1999年中国放送入社。2020年JNNアノンシスト賞テレビスポーツ中継部門最優秀賞など。カープ戦実況は通算700試合。近著に『広島ではたらきたくなる本』(南々社、2024年12月5日発売)


RCC石田充_square.jpg中国放送 アナウンサー

石田 充(いしだ・みつる)

1982年生まれ。熊本の放送局を経て2007年中国放送入社。二度のカープ優勝実況や、サンフレッチェ、駅伝などの中継を担当。実況のモットーは「数字と選手愛」。

最新記事