一般社団法人放送サービス高度化推進協会(以下、A-PAB)は、地上波民放テレビ55局が参加する「Local TV Go Go」を12月23日~3月2日の期間限定で配信している。「Local TV Go Go」を担当する皆さんにお話しを伺った(=冒頭写真㊨から、A-PAB業務執行理事の安田隆二さん、CTV(コネクテッドティヴィ)検討部会SG3主査の齊藤浩史さん(毎日放送・経営戦略局スペシャルエキスパート)、同副主査の阿久津友紀さん(北海道テレビ放送・東京支社編成業務部長)、A-PAB技術部長の近藤洋一さん)。
「Local TV Go Go」は、地域の放送局が日々放送する情報番組のコーナーVTRにメタデータを付与したうえで、ローカルコンテンツバンク(以下、LCB)に集積、集まったコンテンツから共通のテーマを見出し、放送局を横断してVTRを繋ぎ、1つのコンテンツとして配信する類を見ない取り組みだ。近藤さんによると「この取り組みには地上波テレビ55局から130人程度が関係し運営している」とのことで、大きなプロジェクトとなっている。
<「Local TV Go Go」を支えるローカルコンテンツバンクの仕組み>
今回はあくまで期間限定の検証として、SPOOX(スカパーJSATが運営)・TVer・番組表.Gガイドの3つのプラットフォームで展開しており、配信されるコンテンツはそれぞれ異なるがいずれも無料で視聴できる。TVerでは、「全国55局とっておき"街ネタ"特集」と題して、北海道・東北、九州・沖縄といった地域ごとにまとめたコンテンツを配信。テーマは週替わりで、「全国ラーメン図鑑」「ぶらり旅」「肉」などのご当地情報が集まっている。
SPOOXでは、「全国"街ネタ"チャンネル」として展開。こちらは、地域にこだわらず同じテーマでコンテンツを集約した「全国版」として、「極上リラックス旅」「地方の物語~ショートドキュメント~」などが配信されている。阿久津さんは「TVerは地域ごと、SPOOXはテーマに沿って全国からというのが特徴」と2つの違いを紹介する。各地域のテレビ番組表をウェブ上で閲覧できる番組表.Gガイドでは、参加局の情報番組枠に「見逃し」のマークが表示され、コーナーVTRを見逃し視聴することができる。
<TVerで人気の「全国ラーメン図鑑」>
放送局を横断して1つのコンテンツを作るという発想はどこから来たのか。提案者の1人である齊藤さんは「ローカル局はオンエア後の地域情報をYouTubeなどに上げているが、あまり見られていない。視聴されなければ、経済価値も生んでいない、社会的な価値も生んでいない、ということでもったいないと課題意識があった」と語る。阿久津さんも「ローカル局がいちばんコンテンツを制作しているのは、夕方18時15分から19時までのニュースの中にある特集VTRだ。このVTRは、毎日量産されているが、放送で1回使われて終わり。しっかり取材した正しい情報にもかかわらず、多くの人に伝わらないのはおかしいと思った」と同じ問題意識を持っていた。このような5~10分程度の"路地裏コンテンツ"を生かしきれていないという各放送局の共通課題への対応策として、2023年5月頃からLCB構想は具体化し始めた。
ほぼ同時期に、「A-PABは、施策のなかでローカル局が中心となる企画が少ないことが気になっていた」と安田さん。そこでA-PABに対して齊藤さんを中心にLCB構想を提案。安田さんは「ぜひCTV検討部会の中で取り組んでみようと担当するSG3を2023年10月に立ち上げた」と振り返る。その後、LCBへの参加を放送局に呼びかけると予想を超える55局が集まった。
<編集広報部おすすめのシリーズ「地方の物語~ショートドキュメント~」SPOOXで配信中>
冒頭で紹介したとおり「Local TV Go Go」では、参加局が任意で登録した"路地裏コンテンツ"を集約した番組を配信しているが、気になるのはどのように集約し、編集しているかだ。番組は、参加局による当番制で、指定されたテーマごとに、LCBの中にある"路地裏コンテンツ"を集め、編集している。サムネイルの雛形はあるが、使うVTR、その順番など、ほとんどは担当者に任せられている。これを可能にしているのが、"路地裏コンテンツ"1つ1つに登録されているタグ情報だ。齊藤さんによれば、「言葉のゆれを防ぐため、3階層のカテゴリで構成される辞書を持たせて、登録者に対してAIによってレコメンドし、検索漏れがでない工夫をした」とのこと。
1つ1つの"路地裏コンテンツ"の制作者も異なり、そのコンテンツを束ねる編集者も異なるが、配信されている番組は、違和感なく視聴できる。その秘訣を聞くと「根底に流れるテレビ番組の作り方のルールが同じだからではないか。テレビクオリティで制作されたことで前提が整えられ、違和感が生まれなかった」と阿久津さんは今回の取り組みの大きな発見の1つだと語る。また、齊藤さんは「通常の番組では、VTRのトーンは番組のトーンに統一されることが多いが、LocalTVGoGoのコンテンツはVTRのトーンにバリエーションがあるので飽きさせない要因になっているのではないか」と分析し、複数の放送局が制作したVTRを横断する「Local TV Go Go」のコンテンツはテレビをザッピングしているような楽しさももたらしている。
今後、検証期間内に、ビデオリサーチと協力した「AIが選んだ癒される動画特集」などをTVerで配信する予定だ。検証期間の折り返しを迎え、齊藤さんは「今回の検証で地域情報コンテンツにも一定のニーズがあることが分かってきた。これまで配信といえば、ドラマ・アニメなどのプレミアムコンテンツが中心で、地域情報はなかなか扱いが難しかった。しかし、鮮度の高い地域情報は、旅行の参考などの新たな利用シーンも想定され、新しいジャンルとして活用方法があるのではないか」と活動への期待を述べた。
「Local TV Go Go」