【海外メディア最新事情】放送法制の抜本的改革を 英Ofcom政府に提言 オンラインサービスも射程に

入江 晃史
【海外メディア最新事情】放送法制の抜本的改革を 英Ofcom政府に提言 オンラインサービスも射程に

「わが国の放送事業者は、アナログのルールの下で運営されている間は、デジタル世界で競争をすることができない。(中略)今年秋に、21世紀に適合するような放送の将来に関する白書を提示する。(中略)まずは、競争環境の同等性を確保する必要がある。放送事業者は明らかな格差により、不利な状態で競争している。すべての『リニアの』放送事業者は、厳格なコンテンツと視聴者保護基準に従わなければならないのである。(後略)」

今年6月に発表された、英デジタル・メディア・文化・スポーツ省のオリバー・ダウデン大臣の見解である。発表後の7月15日、Ofcom(放送通信庁)が、昨年開始した公開諮問(『民間放送』1月27日号参照)の結果を踏まえ、公共サービス放送の将来について政府に対する提言「公共サービスメディアの将来」を発表した。Ofcomは放送の将来を語るとき、「メディア」という言葉を意識的に使う。放送以外のオンラインサービスも改革の射程に入れているためで、英国では、放送改革の議論は伝統的な放送のみにとどまる概念ではない。

未来を確実にするために

Ofcomは提言の中で、英国の放送を巡る現状認識について、以下のとおり述べている。
①英国の視聴者は、テレビ上、オンライン上で、公共放送と商業放送によって提供される高品質のコンテンツから、引き続き便益を得ている。コロナ禍で、公共放送サービスの重要性が増した。番組はこれまでと同様、英国の視聴者から高い評価を得ている。正確で信頼されるニュースがいかに重要であるかは調査結果が示している。
②公共放送サービスは、英国のクリエイティブ経済(放送、広告、IT、出版などの産業を含む)にとって中心的な役割を果たしている。
③放送を巡る環境の激変(グローバルな商業トレンドと視聴習慣の変化が主導)は、公共放送サービス事業者が視聴者の獲得競争をし、現在の放送を維持することをより困難にしている。公共放送サービスの未来を確実にするため、テレビおよびオンライン上で視聴者にリーチする必要がある。

そして、Ofcomは、上記の現状認識を踏まえ、デジタル時代における法制の抜本的改革(overhaul)の必要性を主張する。法の執行機関であるはずの組織が法改正を勧告するというのが興味深いが、抜本改正は議会も同じスタンスであり、この夏は(そして今も)官僚たちは大改正の方針作りのために忙しく調整作業をしているに違いない。

目的の現代化など柱に

勧告は大きく3つの柱で構成されている。
1.現行の目的の現代化
「公共放送サービス」から「公共サービスメディア(PSM)」への移行を支援するよう、目的を改正すべきとし、PSM事業者はクリエイティブ経済を支えることや、全国あまねく提供し、テレビ放送だけではなくオンラインでも提供するといった項目の追加を求めている。
2.現行ルールのアップデート
コネクテッドテレビのプラットフォームを規制対象に含めるため、プロミネンスに係るルールをアップデートする必要がある。具体的には、英国の視聴者がよく利用するテレビプラットフォーム上の目立った場所から引き続きPSM事業者のコンテンツにアクセスできるようにする。ただし、ユーチューブなどの動画共有プラットフォームやネットフリックスのようなSVODサービスは現時点では対象と考えていない。また、コンテンツ制作に係る独立プロダクションへの委託といったPSM事業者に対する規制については、オンラインにも同様に適用すべきとしている。さらに、PSM事業者は、PSMとしての目的を遂行する計画を策定し、年1回、実績を報告すべきとしている。
3.補完的PSM事業者による新しいPSMコンテンツの提供
「補完的PSM事業者」とはどのような事業者を想定しているのか、提言では必ずしも明確になっていない。しかし、スカイやディスカバリーといった既存の商業放送事業者によって現在のPSMシステムの枠外で高品質な英国ニュースやドラマ番組が提供されているため、それらをPSM事業者として取り込むことも念頭に置いている。

英国では、オンラインの取り組みを強化する放送局が多く、例えばチャンネル4は、昨年11月に5カ年戦略を発表し、全売上の30%をデジタル広告から得るという目標を掲げた。無料で質の高い番組を国民に届けるため、放送のルールをオンラインの世界の一部にも及ぼしていくという今回のアプローチがうまくいくかどうか。引き続き、動向を注視していきたい。

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