沖縄の琉球放送(RBCi)ラジオではおよそ2年間で15本の有料オンラインイベントを開催している。月に一回のペースで行っており、いずれも好評だ。オンラインイベントは労力がかかるという印象があるが、成功の秘訣を琉球放送ラジオ局営業部の上原国泰さん(=写真㊤)にうかがった。
同局初となるオンラインイベントは2020年5月に平日のワイド番組『MUSIC SHOWER Plus+』(月~金、10時~13時55分)のイベントとして参加費無料で開催。その後、同年6月には午後のワイド番組『具志堅ストアー』(月~金、14時~15時40分)のオンラインイベントを有料で開催した。
<『沖野綾亜のチルドキ!!』オンラインイベントより>
――有料にすることに関して、何か意見は出ましたか?
ラジオ番組は無料で楽しむものという印象が強いため、有料にするとリスナーが離れていくのではないかという意見がありました。その一方、有料でも楽しみにしてくださる方がいるので、ぜひやろうという声も挙がりました。コストを抑えつつ、なんとかスポンサーを付けることができ、黒字での運営にこぎつけました。
――立ち上げる時が大変で、そこを乗り越えることが大事なんですよね。
始めた当初は低い性能のパソコンとカメラを使用し、手作り感満載で始めました。途中で流す予定にしていた動画がフリーズすることもありました。失敗は起きないに越したことはないですが、まずはやってみるしかありませんでした。「チケットの買い方が分からない」という問い合わせも少なからずありますので、購入する方法をウェブサイトで表示するほか、電話対応も細かく行っています。オンラインイベント中も問い合わせのメールや電話の対応ができるように構えています。新しいことをすれば何かが起こります。こればかりは回を積み重ねていくしかありません。ミスを恐れるのではなく、改善することが大事です。
<配信の裏側>
――上原さんをそこまで奮い立たせる原動力は何ですか?
オンラインイベントを開催するまでにさまざまな壁に当たりましたが、それでも心が折れなかったのは私がラジオ好きというのが大きいと思います。ラジオが斜陽産業と言われるなかで「私の好きなこのラジオを残したい」と思うようになりました。また、音声メディアの市場は伸びているため、収入の新しい選択肢を増やすことで可能性は高まると考えていました。そして、ラジオ番組はコアなファンに向けたマネタイズがもっとできると感じていました。私は日頃からラジオをよく聴いていて『木曜JUNK おぎやはぎのメガネびいき』(TBSラジオ)で「クソメン・クソガールキャップ」を発売した時に、買い求める人の大行列ができていたことや、『うしろシティ 星のギガボディ』の番組の企画でクラウドファンディングが成功したことにも大いに感銘を受けました。
――うしろシティの金子(学)さんがフィンランドで開かれる「ヘヴィメタル編み物世界選手権」に出場するにあたり、その渡航費などをクラウドファンディングで募ったところ、想定をはるかに超える800万円以上が集まったんですよね。リスナーの力は大きいですよね!
まさにそう思います。私が東京支社から本社のラジオ営業部に異動となった時がコロナ禍に入った頃で、オンラインで有料の交流スペースを設けたら、リスナーの皆さんに喜んでいただけるのではないかと考えていました。実は私の原動力はもうひとつありまして、私がスポーツ経営人材の育成と知恵の集積を目指す「スポーツヒューマンキャピタル」に通っていたことも影響しています。収入を安定させて地盤を強くしていくスポーツコンテンツと、ファンを作って収入を上げていくラジオコンテンツは似ていると感じていました。ところが、スポーツは広告収入、チケット収入、グッズ収入、放映権収入等の複数の収入の柱で運営しているのに対して、放送局は広告収入を得るほかはダイレクトに課金していただくための手段についてはほとんど手付かずでした。
グッズを作れば必ず売れるという保証はありませんが、リスナーの皆さんから必要とされていることは間違いありません。当社でも『沖野綾亜のチルドキ!!』(日、10時~11時25分、12時~14時)や『ラジオBar南国の夜』(土、22時~23時)のグッズを発売したところ、おかげさまで想像以上の大きな反響をいただきました。『南国の夜』のグッズに関してはパーソナリティのひとりの嘉大雅アナウンサーが日頃から愛用しているアイテムに番組のオリジナルデザインを施して販売し、「本当に嘉アナウンサーが愛用している物」としてたくさんのリスナーに喜んでいただけました。これまでSNSやテレビで積み重ねて来たストーリーがあったからこそだと思います。
――『ラジオBar南国の夜』は通常は収録放送ですが、グッズの発売日に生放送を実施したところ、放送中にあっという間に完売しましたよね。2022年2月現在、RBCiラジオでは15本のオンラインイベントを開催していますが、いかがですか?
月に1度のペースでいずれかの番組のイベントを開催しているため飽きられるのではないかという声も社内ではありましたが、開催する番組や内容も変えていくことで確実な手応えを感じています。反響が非常に良く、同じ番組のイベントでも回を重ねる度に参加者が増えています。ただし、どんなに人気のある番組であってもひとつの番組のイベントを乱発しないほうがいいのではないかと思っています。
――内容を考える点で重視していることは何ですか?
第一は、リスナーの皆さんが喜ぶ内容を考えることです。私は日頃から当社の放送を聴くことを心がけています。イベントが決まってから番組のことを把握したのでは付け焼き刃的な内容になりかねません。「地上波でいいじゃん」と思われないように、地上波放送では得る事のできないプレミアムな体験を用意することが大事です。
あとはリスナーが価値を感じる「ストーリー作り」をすることです。例えば誰と誰をどのように組み合わせて何をすればリスナーが最も喜んでくれるかを考えます。さきほどスポーツの話に触れましたが、プロ野球やJリーグなどを例に挙げると、地域の名前を背負ったチームと他の地域のチームが戦うことで、アイデンティティがぶつかり合うところに私は魅力を感じます。
ラジオは対戦相手がいないので煽り方が非常に難しいのですが、日頃の放送内にあるストーリーを参考に「面白い」「参加したい」と思わせることをオンラインイベントに落とし込むことを意識しています。『沖野綾亜のチルドキ!!』のイベントでは『ラジオBar南国の夜』のパーソナリティの與古田忠さん、当社のアナウンサーの稲森彩がゲストとして出演しました。それも日頃からお互いの番組で面白おかしく弄り合う関係性ができていたからです。オンラインイベントの時には、沖野アナウンサーとゲスト2人の掛け算を最大化するにはどうすればいいか、逆算して考えました。
<これまでの主なイベント一覧>
――オンラインイベントで販売するグッズを発表する動画も事前に公開されて、イベントの本番が近づいてきたのを盛り上げていましたね。プロデュースする側が普段から番組を聴いていて、出演者やリスナーが何を面白がっているかを分かっていないと奥の深い面白さにはなりにくいですよね。
そうなんです。あとは、あれもこれもと詰め込もうとしないことです。 準備段階では「この内容でいいだろうか」と不安になって詰め込もうとしがちですが、そこは"引き算"で考えます。あくまでも、いつもラジオでは見せないような表情を引き出して、それを参加者に楽しんでもらうのが目的です。技術面でも手の込んだ手法は避けたほうが良いです。"テレビではない"ことを頭に入れておくことが大事です。
――少し話は逸れますが、そもそも沖縄のラジオ番組はラジオ沖縄やFM沖縄も含めて、明るくポップな番組が多い印象があります。RBCiラジオのオンラインイベントもパーソナリティの個性が非常に濃く出ているものばかりです。RBCiラジオは、なぜあんなにパーソナリティのノリが良いんでしょうか?
当社の場合ですが、私は狩俣倫太郎という個性の強いアナウンサーがアナウンス室のトップにいることが大きいと思います。狩俣が率先して面白いことをしていることもあり、後輩のアナウンサーもイキイキとマイクの前に向かうことができます。僕が「さすがにアナウンス室には断られそうだ」と思うような企画を狩俣に提案すると「いいね。僕も昔、やったことがあるよ」といった類のことを言われることがありまして、背中を押されるような気持ちになります。『沖野綾亜のチルドキ!!』は昨年春にスタートしたばかりですが、全国各地からたくさんの反響をいただいており、ディレクターは「沖野アナをいかにしてのせるか」を考えていると言っていました。
――ここ数年で動画配信サービスをはじめとする、さまざまなメディアが注目されています。ラジオもラジコの加入者の増加で再び注目されるようになりましたが、ラジオの強みはどの点にあると思いますか?
ラジオはコミュニティに根を張ることに強みがあると思います。RBCiラジオではコロナ禍の前はリスナーと直接コミュニケーションを図る「お手ふり」や「倫会」という企画をよくやっていました。「お手ふり」は生放送の前に出演者が外に出て、社屋の前の国道に向かって番組の名前と周波数などが書かれたボードを持って手を振ることです。その時間に合わせて現場へ訪れてくれるリスナーもいました。お手ふりは回数を重ねれば重ねるほど番組のファンが増えていく感触があったそうです。
「倫会」はいわゆるオフ会で、パーソナリティと一緒に楽しむキラーコンテンツになっていました。ラジオはコミュニティ作りにも注力するべきだという思いがあります。スタジオの生放送中の様子をYouTubeで生配信したり、放送終了後におまけの配信をすることも以前から行っていました。ラジオを聴いている人との接点を大切にしてきた土壌にオンラインイベントがあるんです。「面白い」という点でいえばラジオがグローバルな動画配信サイトに勝てない部分も多々あります。しかし、ラジオだからできることを考え続けることが大切です!