【インタビュー 佐藤泉・RKB毎日放送代表取締役社長】外からの視点を持って地域との連携進める

編集部
【インタビュー 佐藤泉・RKB毎日放送代表取締役社長】外からの視点を持って地域との連携進める

2021年6月にRKB毎日放送の社長に就任された佐藤泉氏は就任時54歳という若さで、世代交代を印象づけた。「民放online」では、創立70周年を迎えた老舗局の舵取りを担うことになった佐藤社長に話を聞いた。


――子どものころ、どんなテレビ・ラジオに接していましたか。
大学を卒業するまでずっと野球をやっていたので、スポーツとか野球を見たり聴いたりするのが好きでした。もちろん仮面ライダーやウルトラマンなども見ていましたし、ドラマやバラエティも含めて、テレビを見て育ちましたね。

――放送局に入社しようと思ったきっかけは。
実は大学4年の春のリーグ戦が終わった後、すぐにメーカーに就職が決まったんです。しかし「合格です」と言われて、俺はあの会社に行くのか、そんなにちゃんと就職活動もしてないぞと少し冷静に考えたんです。そこで、その後も就職活動を続けていたところ、たまたまマスコミが遅くまで募集をしていて、「面白そうだな」と思って試験を受けたら合格した、というのが正直なところです。

――入社されてから、どのような業務を。
全部営業部門なんですよ。専務になる前の年に取締役編成局長を1年やりましたが、あとは全てテレビ営業です。4月の入社後すぐ大阪支社へ赴任して6年、そのまま大阪から東京に転勤して9年です。いきなり支社を15年経験し、3年だけ本社の営業推進部に戻って、また東京に7年。5年前に営業局長で帰ってきて、現在に至っています。珍しい経歴ですが、放送局の経営が厳しい現在、営業感覚や東京・大阪から福岡を見た視点など、その経験は活かしていかなくてはいけないし、自分の強みだと思っています。

――外から見た福岡の地域性をどのように感じていますか。
地理的にアジアに近いとか、おだやかな気候や風土、イベントやコンサートの開催に有利な東京からのほどよい距離など、福岡には好条件がたくさんあります。福岡の人のオープンな気質もあって、住んでいる人だけでなく外の人からも「福岡が好き」という声を聞きます。エリアの発展に寄与するという意味ではやりがいがあるというか、こんなに人気のある都市の放送局で働けているんだという喜びみたいなものはありますね。

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――そのような福岡にあるRKBというのは、どういう放送局だとお考えですか。
創立70周年を迎えて、西日本で最初に開局した放送局という自負もありますし、誇りを持っています。一方で、誤解を恐れずに言えば「それがどうした」という思いもあります。広告主にとってはRKBが老舗かどうかということより、しっかりと緊密な関係を持てる存在かどうかが大事です。もちろん誇りはありますが、時代もコロナの影響もあって変わっているので、スクラップアンドビルドを恐れずやっていかなくてはいけない。何か始めることも大事ですが、何かやめることもすごく大事なので、勇気を持ってやっていかなきゃいけないなと思いますね。

RKBのイメージ調査を行ったところ、「真面目」とか「堅い」などの意見とともに、「面白くない」とか「暗い」などの声があったのです。そこで中期経営計画をまとめるときに「Be colorful」という取り組みを考えました。現在はSDGsやダイバーシティ、多様性など地域貢献の取り組みという側面が強いですが、当初は「暗い」というイメージを変えよう、カラフルに華やかにいこうという考えもあって「カラー放送からカラフル放送へ」などのキャンペーンを行いました。

現状分析と対策

――現在のローカル局が置かれている状況は?
渡るところがあるから過渡期と言うのですが、先があるのかどうか分からない状況です。生き残りをかけた戦いが始まっていて、「福岡に民放テレビは5局必要なのか」という危機感はあります。インターネット配信も盛んになり、コンテンツが溢れています。ただ、現場で取材したニュースやスポーツ、エリアの情報を正確かつ迅速に届けるというのは、放送局しかできません。これは一番の強みだと思いますね。

メディアなので「聴かれて見られてなんぼ」です。例えば夕方の生放送の番組はライブで見損なったらもう触れる機会はありません。だから、その中のコーナーなどを切り取ってオンラインで流したりしています。パッケージものは、仮に視聴率10%取っても9割は見てないということですから、配信や番組販売を含めて二次利用、三次利用などロングテールで稼げるようなコンテンツ作りを考えています。何年もかけた企画を、放送の1回しか使わないのはもったいない。OTTは巨額な制作費をかけて素晴らしいコンテンツを作り、ずっと置きっ放しにして、それをみんなが有料で見にいくというビジネスモデルです。これは私たちも取り組まなくてはならないと思いますが、記者がいて、制作者がいて、カメラマンがいて、技術スタッフがいてという体制は、縮小することはあっても決してなくしてはいけない。ニュースはローカル局にとって最も重要なものだと思っています。ですから、番組をオンラインに載せていつでも見てもらえる工夫は必要ですね。

若者向けの番組を作っているのか、という問題もあります。例えば、子ども向けの番組はRKBのタイムテーブルにひとつもないのです。昔は19時台にはアニメを放送していましたし、平日も学校から帰ると夕方はアニメの再放送をやっていたのに、今はどこもワイド番組ばかり。これは視聴者に対してどうなんだと思うこともあります。だから、若者がテレビやラジオから離れているのは、ユーザビリティとかユーザーエクスペリエンスとかいろいろ言われますが、やはりコンテンツが充実してないということもあるのではないか。サッカーのワールドカップのときはみんな時間に合わせてテレビの前に座ってくれるわけですから、やっぱりコンテンツ力としか言いようがないのかもしれないですけど、そういう側面はあると思います。

――これから力を入れて育てていこうというところは。
中期経営計画で強調しているのは「連携」という言葉です。RKBが持っている発信力や信頼感などに着目して、お互いにビジネスとして連携しようという企業はあるはずです。そこで、メディアイノベーションセンター(MIC)という部署を立ち上げました。ここはオンラインも所管していますが、放送事業とは別の売上げを確保するという部署です。ビジネス連携も、一方的に出資するだけでなく出資し合ってしっかり負荷をかけ、リスクをとるべきだと思っていて、それが今の課題であり強化しなければならないことだと考えています。社内にすばらしい才能を持っている人がいて、どんなに頑張ったとしても限界があります。その道のプロがいるなら、その道のプロと組んで、2社じゃなくて3社でもいいので組んでやっていければいいなと思いますね。そのために、30代などの若い世代を集めて、意見交換や異業種交流会ができるような仕組みを整える予定です。

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――ホールディングス化された狙いや現状は?
ホールディングス傘下のグループ各社は、独立採算とならなくてはいけません。また、放送とは全く無関係の事業セグメントを持つことが、リスク分散として有効だという側面もあります。放送が落ち込んだときにシステム会社が支えてくれたということもありますので、ホールディングスにぶら下げるのは全く関係ない事業も入れなければならないと考えています。

ローカル局が生き残るために

――ラジオの分社は考えていますか。
今年から本格的にラジオの改革を強化します。制作体制やコンテンツそのものの開発、セールスの体制、グループ会社との連携も含めて大きく作り直して、"FM転換"に向けて整備します。FM転換が2028年だとしたら、その2~3年前には、分社化するかしないかも含めてRKBの体制の方向性を決めなくてはならない。そこに向けて、2025年ぐらいまでの間に新しい方式でやってみて、その間に分社化するか、どこかに業務委託するのか、完全にRKB社内で作るのか、それを見極めようと思っています。時代の流れが速いので、その間にラジオの聴かれ方がどうなるかも分からないですし、やりながら考える面もあります。分社化の考え方を排除するということはないですし、必ず分社化に向かうとも考えていないです。ただ、ラジオの放送をやめることはないので、どうやって継続していくかを考えないといけない。ラジオ単体で考えるのか、テレビとラジオ、そしてオンラインもまとめて総合メディア企業、総合メディア商社にならないとできないこともあるのではないか。広告主に媒体の"出し口"が多いほうが便利だということを理解してもらって、「キャンペーンは全部まとめてRKBに任せてください」という売り方も必要ではないかと考えています。

また、ラジオは出演者とリスナーとの関係が特別ですし、すごく人気のある忙しいタレントでもラジオならと出てくれることもあります。コロナ禍でリモート収録が普及し、地方というハンデもなくなったので、これは最大限活かさないといけないですね。

――放送の未来像をどのように描いておられますか。
放送と通信の垣根がなくなっているのは間違いないですよね。同時配信は放送とみなして、"蓋かぶせ"も何もせずそのまま流せるという考え方のほうが、視聴者は喜ぶのではないかと思います。しかし、新しい商品を開発し、ターゲティング広告などにも取り組んでいかなくてはならないということもすごく分かるので、ローカル局は配信にどう取り組んでくのか、難しいですね。結局、放送と通信の垣根がなくなっているところを、同時配信も含めてどうやって事業として取り組むのかということです。放送局はコンテンツを作って売るしかないので、何を作って放送と通信の両方でどう売るのか、社会との連携でどんな新商品が生み出せるのか。全部がうまくいくわけはないですが、そうやって新しいものを生み出さなきゃいけないと思いますね。

でも、最後は視聴者ファーストで考えたほうがうまくいくと思うのです。それを考えずにやったら、最後はユーザーがおざなりとなってしまう。それはどうかと思いますし、たまたま見たコンテンツが"蓋かぶせ"ばかりで何を見ているのか分からないというのは、ユーザーエクスペリエンスとかユーザビリティには程遠いなと思います。

――放送以外の事業への進出は考えていますか。
ホールディングスでは、先ほど言ったように全く関係ない事業まで含めて考えなきゃいけないと思っています。事業会社でやるのは、放送と親和性がある事業とか、SDGs的なものに貢献する事業などでしょう。もちろん、エリア貢献という目的と絡めることも必要ですし、RKBだけで放送外の事業をするのではなく、どこかと一緒にやるというのが基本です。「餅は餅屋」で、プロと組んだほうが早いと思いますし。

ローカル局が生き残っていくために何が必要かというと、ちょっと逆説的になりますが、この局を潰せないと思わせるくらいエリアに貢献していなきゃいけないということだと思います。RKBが潰れたら困る、福岡県にないと困るという状況にならないといけないのです。これを考えないと、福岡に5局もあって、地震が起きたときも選挙のときも5局プラスNHKみんな同じだよな、こんなに要らないよとなってしまうし、OTT事業者は全部違うもの流しているよな、そっちでいいやと思われてしまう。

例えば今、県内各地の郵便局と連携した地域活性化の取り組みを進めています。郵便局は地元の特産品を通販で扱っているのですが、それをRKBECサイトで手伝ったりしています。郵便局はある程度の大きさの町に必ずありますので、災害時の対応などを含めて、連携を図っていこうと考えています。

――社長としての意気込みを。
私が社長になった理由のひとつは、他の在福局と違ってプロパーの人間だということだと思っています。加えて、若いので中長期的に物事を見られるだろうということもあるのでしょう。1回か2回ぐらいは失敗しても、もう一回起き上がれるぐらいの若さはありますから。もちろん、失敗しないほうがいいのですが、正しい道にいきなり行けるとは思わないし、ちょっと違うなと思ったらすぐ修正すればいいので、いろんなことにチャレンジしたいと思っています。

(2021年12月3日、RKB毎日放送本社にて/取材・構成=「民放online」編集長・古賀靖典)

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